1王宮のデカい人
近くて遠い4つの世界のお話
世界の始まりはスープ皿に満たされた粘度のある命の水
天から落ちた滴りが水面を押し出し、それは王冠へ、王冠から神へと変化し
波紋は大地となった
波紋から成った大地は、大きな大きな輪の形をしていて
それを四柱の王冠の女神達が、それぞれ守護している
これはそんな世界の《3の国》の話
忠誠と深秘の国、王を頂点とした国
王族・貴族・騎士・魔法使い・神官・庶民が生きる国
貧乏子爵の娘である私は王宮女官を目指していた
よくある話だと鼻で笑う事なかれ、私もそう思うし、そういう道しかないのだ……残念ながら。学校で好成績を残した私は、本当に運良く学校推薦という事ですぐに王宮へ入ることが出来た。本来であればそこそこ高位の貴族屋敷で修行をしてから、優秀であれば当主様から推薦されて王宮へというコースなのだが、運が良かったのか悪かったのか判別しづらい状態である
何故なら普通の侍女としてではなく、護衛騎士としての推薦だったから
私の家は騎士の家柄だったのだが、父は体が弱かった。騎士は諦め中級文官として町の役所で働き、王宮とは無縁に暮らしていたのだが、その娘である私に騎士の血が出たらしい。女にしてはまぁまぁ強い位の腕前で、体もそれほど大きくないので騎士なんて無理だと思うのだが、護衛騎士とはいわゆる『戦える侍女』、そんなに強くなくていい盾にさえなれれば……と言われて王宮へ上がったのだった
まぁ、そういう幸運もどきで王宮に務められたのはいいけど、正直……いじめが凄かった
いや現在進行形なので『凄い』というべきだろう
やはり後ろ盾が何もないと言うのが痛い。些細な用事を大量に押し付けられ、ちょっとのミスでなじられる。最初は上手くできない私が悪いのだと思っていたのだが、何か変。お茶汲み侍女から始まったのだけど、作法は完璧に頭に入っている、それを実践に添わせればいいだけなのに何故か文句を言われ怒られる。それ以外でも立ち振る舞いはちゃんと出来ているはず。たしかにミスはあると思うけど、そこまで執拗に怒られる理由が分からず、反省しようにも具体的に何をなおせばいいのかさっぱりわからない
教えを乞うと、そんな事もわからないのなら侍女をやめろと言われ、立ち去られる……そう言われても私も困る
そんな疑問を抱えたまま、仕事をするのだが下手をすれば食事をとる暇もなく、騎士としての特訓も受けなければいけないのでやせ細ってしまった
見た目も大切な王宮侍女には、かなりのマイナスになってしまうのだ。だから余計に専門の侍女からは当たりがきついのだと思う。勿論親切にしてくれたり、優しくしてくれる人たちだっている。特にルームメイトの侍女様は私を気遣ってくれて、いろいろアドバイスをしてくれる
「見習いちゃんに嫉妬しているのよ。学生からすぐに王宮勤めを許されるなんて、伝手があるか凄く優秀かどちらかだもの。見習いちゃんは『凄く優秀』で入ったんだから、やっかみよ。話を聞く限り重大なミスはしていないと思うわ……あ、ちなみに私は『伝手』で入ったから、家が怖くて何も言われないのよね。酷いでしょう?」
そう言ってその『伝手』を使って第2王女殿下の専属に引き抜いてくれた。それでも移動の途中に注意を受けるし、仕事を押し付けられる
だから部屋では泣けない、心配させてしまうから。小柄な体を生かして大柱の陰で泣く。頑張って誰にも文句を言われないくらい完璧に仕事をこなせるようになれば、理不尽にいじめられることもないだろう……多分。そう自分に言い聞かせひたすらに我慢して、精進するしかない
食いっぱぐれるのは嫌だ……今、食いっぱぐれているけどね!!
「どうした子供。腹が減ったのか?」
「それもありますけど」
メソメソしていたら、急に声をかけられた。深く低い男性の声、しゃがんでいた私はその人を確認しようと顔をあげると……、信じられないくらいデカイ人がいた
「でか」
つい心の声が漏れてしまった私。男の方はこめかみに青筋たてながら言った
「よく言われる」
これが私、護衛騎士見習いと彼との出会い。