第一章,eternal.sleep.(後編)
前の続きとなっております。
大変読みにくいとは思いますが、
それでも読んで頂けたらと思います。
***************
ぐしゃっ!!!
・・・あ、れ・・・?
い、たい、いた、い、痛い・・・ッ
なんで、なにが、どうして、
なんで、なんで、
“ どうしてこんな・・・ッ?”
なんで、なんで、なんで、僕、は、
なんで、
“ 突き落とされたんだ・・・ッ ”
誰、か、誰か、助けて、くれ・・・ッ
まだ、ま、だ、ッ
死にたく、ない、んだ、・・・ッ
誰、か、・・・ッ
「・・・ねぇ、
助けてあげましょうか?」
・・・え・・・?
ブツン・・・ッ
***************
女は男の事を愛していました。
男も女の事を愛していました。
ふとあるとき、男は思ったのです。
“ 彼女に別れを告げたら、
一体どんな反応をするのか ” と。
男は好奇心で言ってみました。
女は、自分の思ったいたとおり、
狂ったように
「アイシテルノニ」
と言うのです。
男はそんな壊れかけている女に、
何度も、何度も、別れを告げました。
男は女の事を嘲嗤いながら言うのです。
しかし、次の瞬間、思いも寄らない事が起こりました。
ビルの屋上から、
“ 突き落とされた ” のです。
男の身体はアスファルトに叩きつけ
られ、バラバラになってしまいました。
男は嗤うのです。
自分は“ まだ死んでいない ”
“ 死ぬわけがない ” と。
奇妙な声で嗤うのです。
男は今もこの場所を彷徨っているのです。
自分は“ 死んでない ”といいながら。
***************
「・・・里穂」
「なに、ハーキ」
「あたし達、なんでこうなったわけか
説明ちょーだい」
「うん。簡単だね。ようは、あいこの
依頼、間違えちゃったからかなッ」
「ですよねー」
この通り、二人はこの前来たあのビルの近くまで来ていた。
二人は依頼を間違えたのだ。
だからもう一度行けと藍衣から言われてしまい、二人はろくに休まないまま
引き戻したわけだ。
「・・・にしても、さぁ」
葉月はポケットからクッキーの袋を
取り出す。
ボリ・・・ッ
「一体あいこはあたし達に何をさせたいんだろーね?」
葉月はクッキーを粗食しながら
里穂に聞く。
「うーん?どうなんだろう?」
里穂は首をかしげる。
すると、いつもより低い声で、
「・・・まあ、どんな依頼でも、やりこなすだけなんだけどな」
ボリ、ボリ・・・ッ
葉月はそう、
何故か悲しそうに呟いた。
「・・・まッ、とにかく行けばわかるでしょ。急ぐよ?」
「んー」
***************
二人が目的地に着くと、
そこは・・・
「さぁッ、
いらっしゃいッいらっしゃいッ」
“ 人々が賑わう、街だった ”
「・・・ッ」
里穂はあまりの光景に、言葉を詰まらせる。
「コレはまた、直ぐには変えれそぉに
ないねぇ」
ボリボリボリ・・・ッ
葉月は気怠そうにクッキーを粗食する。
この前来た場所は、この街の近くにある。
だが、前来た時は、ここの辺りに
人の気配や、声もまるで聞こえなかった。
“ 来訪者が訪れ、それを待っていたかように ” 街は、人は、動いている。
そして、もう一つ。
「・・・里穂、気付いてる?」
「なにが?」
「・・・こいつら、“ あのビル周辺で
壊したドールに似てる ”」
「・・・ッやっぱりか・・・」
里穂が思うのは無理もない。
何故ならこれは、
普通の者ならばそんな事を言わないからだ。
ある程度場慣れしている葉月だからこそ、はっきりと断言出来るのだ。
里穂にも確信こそなかったものの、
少しは気付いていた。
ただ、気掛かりな事があり、違うだろうと言わなかったのだ。
「後、おかしいんだよねぇ」
葉月は眼を少し細める。
「 ? どうしたの?」
里穂は葉月を見る。
「いや、うん。寧ろここまで来たら
気持ち悪いな」
ボリボリ・・・ッ
里穂は葉月の言葉の意味がいまいちよくわからなかった。
こんなにも“ 笑いが耐えない ”
街があるだろうか。
こんなにも暖かそうな街があるだろうか。
しかし、理解は瞬間理解する。
「・・・ああ、なるほど、ね」
里穂は理解した。
葉月が何故、おかしい、気持ち悪い、
と言うのか。
それは・・・
明らかにおかしいであろう
“ 耐えない嗤い声 ”
不自然な動き。
葉月はこれを聞き、見て、
気持ち悪いと思ったのだろう。
(確かにコレは気持ち悪いな。)
里穂はそう思った。
あははははははははははははははッ
ひひ、へへへッ
はははははッ はははははははははッ
はははははははははははははははッ
はははははへへへへへへッ
ひひッひゃはははははははははははッ
あはははははははははははははははッ
人々は、嗤う。
来訪者を嘲嗤うかの様に嗤う。
ケラケラ、クスクスと狂ったように
嗤う。
その光景は異常だ。
異常過ぎている。
人は、狂って狂って狂って狂って、
壊れた玩具のように、
嗤っている。
あひゃはははははははははははッ
はははははははははははははははッ
へへへぁへへへへへへひひッ
はははははッあははあはははははッ
ひゃははははははははははッ
あはははははははははははははッ
「・・・ハーキ、
ここ一回離れない?」
「うん。賛成」
二人は、あまりの出来事に、
一度その場を離れた。
***************
二人は、一度街から離れ、
少し様子を見ることにした。
「里穂ぉー、お腹空いたからあんぱん食べていい? 後、牛乳もー」
「いいけど、凄くベタな組み合わせだね」
「ん?そお?」
もしゃもしゃ・・・ゴクンッ
葉月はあんぱんを頬張り、牛乳でそれを流しこんだ。
「・・・ってか、そのポケットどれだけの食料がはいってんの?」
里穂は葉月に聞く。
「んー?・・・ん、内緒」
バリバリバリバリ・・・ッ
葉月はさらにあんぱんの袋を開けた。
「あーーーん」
もしゃっ・・・
もしゃもしゃもしゃもしゃ・・・っ
あんぱんは10秒も立たずに、
葉月の身体の中へと消えていった。
葉月は、あんぱんの袋を開け、
食べるという作業を繰り返していた。
ーーーーーーーーーーーー
そうしているうちに、
日が徐々に落ち始めていた。
紅く煌く空に拡がる夕焼けは、
血と汚水を混ぜたかのように綺麗だ。
「・・・なーんかそろそろ起きないかなぁ」
カリリッ・・・
葉月はそう言いながら、ポケットから取り出した金平糖を齧る。
あんぱんが無くなってしまったので、
金平糖に切り替えたのだ。
「うーん、さすがにここまで何も起きないとなると、ね」
里穂はため息をつく。
人々は、まだ嗤っている。
飽きることなく嗤っている。
しかし何も起きない。
嗤っている。ただそれだけだ。
何もない。ただそれだけ。
「・・・ねぇ、里穂」
「なに?」
「うーん、帰らない?」
「はい?」
この子は何を言っているんだろう。
「だって、なぁんにも起きないじゃんか?依頼の間違えだったんだよ、
きっと。」
「でも、今帰ったら確実にあいこに
シめられるよ?」
藍衣は普段は面白く優しい人なのだが、怒るとかなり怖い。
里穂はそれを知っているため、
この依頼を意地でも終わらせないと、
安易に帰えれない。
もちろん葉月も知っているのだが、
何故かこりていない。
「んーと、そん時はそん時だろぉー
・・・うん。よし。帰ろうッ!!!」
葉月は立ち上がり、街とは反対方向へと歩き出す。
「ちょっちょっとハーキッ!!!
待てって・・・え・・・」
里穂は止まる。
ある異変に気づき、止まる。
「・・・聞こ、え、ない・・・?」
里穂はそう言って、街の方を見る。
「おーい里穂ー? どうかしたぁー?」
葉月は里穂に近づく。
「里穂?」
葉月は里穂の顔を覗き込む。
「ハーキ、街に戻ろう。なんかおかしい」
里穂は早足で街の方へと歩く。
「え、え、ちょっと里穂っ?
どうしたの急にッ!?」
葉月は里穂の後について行く。
「・・・さっきまで」
「え?」
「さっきまでの嗤い声が、
“ 全く聞こえない ”んだよ・・・ッ」
「たし、かに。全く聞こえないけど、
それがどうしたの?」
「・・・わからない、けど、
嫌な予感がする・・・」
里穂は走りだした。
「ちょ、ちょっとッ里穂っ!?」
葉月も慌てて里穂の後を追う。
この先で、なにが起こっているかなど
知らずに。
***************
もし、彼女がいたとしよう。
その彼女とは、とても仲がよく、
関係も良好で、毎日笑顔が耐えない。
それはとても幸せだと思う。
だけども、それだけではつまらないと
思うときがある。
からかってやりたいと思うときだってあるだろう。
だが、僕は失敗した。
僕はきっと、やり過ぎたのだ。
遊び過ぎたのだ。彼女で。
だから僕は・・・・・・
“ 彼女に、
屋上から突き落とされたのだろう ”
***************
べきんっ
ボキンッ
綺麗なリズムで、
骨が砕け、関節が壊される。
大合唱でもやっているかのようだ。
あ"ぁぁぁぁぁぁッぎ、ぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!
そして、おぞましい声が飛び交う。
「・・・なッ」
「・・・」
二人は、絶句していた。
あんなに笑いあっていた人々が、
急に“ 殺し合い ”を始めていたのだ。
正確にいうと、“ 喰らい合っている ”
のだ。
首に噛みつき、心臓や眼を抉りとり、
内臓を引き抜き、
ぐちゃぐちゃと音をたてながら
喰らっていく。
粘液と紅い肉と血と骨が、ところどころに散らばっている。
それをめぐって“ 人々 ”は我先にと
身を乗り出す。
どしゃっ べちゃっ
血に濡れた肉が踏み潰される音が
する。
人々は、自分を見失い、壊れている。
「・・・ねぇ、里穂気付いてる?」
葉月はポケットから棒付きの飴を
取り出す。
「うん。気付いてる」
「どぉ思う?」
「ちょっとおかしいね、いくらなんでも、・・・・・・
“ 死ななさ過ぎる ”」
「だぁよねぇ・・・」
パキャッ・・・
葉月は飴を開けて、食べ始めた。
「・・・おかしい、なぁ」
葉月は人々を観る。
そして、
一つの奇妙な影を見つける。
明らかにおかしい影を。
「・・・里穂、あいつ」
葉月はまっすぐに指を指す。
「なにハーキどうしたの?」
「・・・あいつ、嗤ってる。
周りの奴らを観て、楽しそうに嗤ってるんだ。」
葉月は、嫌悪感が混ざったような声で言った。
「自分は、なにもしないで、
人々が喰らい合っている光景を観て、
嗤ってるんだ。」
「・・・気持ち悪い。虫唾が走る。」
ばっきんっ!!!
ボリボリボリボリボリボリボリッ
葉月の食べていた飴が、大きい音を立て、一気に粉々となった。
葉月はその嗤う影を睨む。
パチ・・・ッ
そして、眼が合う。
その嗤う影は、少年だった。
少年は、葉月と眼が合うと、唇を
三日月のように吊り上げた。
クスクスクス・・・ッ
少年は、まるで葉月を嘲嗤うかのように、嗤った。
「・・・里穂、今あたしが思ってる事わかる?」
「あいつが“ コレ ”の主犯じゃないかって事と、ちょっとイラっときたって事
かな?」
「正解」
「にしても、あいつが犯人なのかは
まだわからないな」
里穂は頭を悩ませる。
クスクスクスクスッ
少年は、男は、嗤う。
嗤い続ける。
あはははははははははははははッ
はははははははははははははははッ
ひひッひゃははははははッ
男は、高らかに嗤いあげた。
************
男は女の事を愛していました。
女も男の事を愛していました。
けれど、男は、大きな大きな過ちを
犯してしまいました。
それは、遊びで女に別れを告げた事です。
女は酷く酷く哀しみました。
しかし、それでも諦めることが出来ませんでした。
何故なら、女は酷く男を愛していたからです。
男はそんな女の気持ちを知っていて、
別れを告げたのです。
男は、嗤うのです。
心の中でずっと。
男は、嗤い続けるのです。
“ 女の事を、想いながら・・・。”
************
「・・・よし。里穂、あいつ犯人で
決定なッ!!!」
「いやいや、まだ確証はないでしょーがッ!
・・・まあ、でも、
あたしもあいつが怪しいとは
思うけどね。」
「んで、どーする?あたしここに
ずっといるとかヤダなぁー・・・って
あ、れ?」
葉月は固まる。
そして、眼つきを変える。
「ハーキ?」
「・・・里穂、周り」
葉月は背中に手を伸ばす。
「周りって一体・・・ああ、うん。
りょーかい」
里穂は腰に手を伸ばす。
二人は、いきなり戦闘体制をとる。
何故なら、
さっきまで殺し合い、喰らい合っていた人々が、喰らい合うのをやめ、
ゆっくりゆっくりと、こちらへと近づいて来ていたからである。
思えば、ぐずぐずの肉よりも、
新鮮な肉の方が魅力があるに決まっている。
つまり、二人はいつ襲われてもおかしくない状況だったのだ。
今迄襲われなかったのが寧ろ奇跡
なくらいだ。
・・・わ、せろ・・・ッ、喰わせ、ろ
ォォォ・・・ッ・・・喰え、ば、ま、だァ・・・ま、だァ・・・ッ
“ 生き、ら、れる ゥゥゥ"ッ ”・・・ッ
べちゃっ べちゃっ べちゃっ
人々は、徐々に徐々に近付いてくる。
“ 生きた人間の新鮮な肉を、
欲しがっている ”
その血を、肉を、内臓を、
欲しがっている。
「・・・どぉーする、これ?」
「襲って来たら、殺そう。」
「ん。わかったぁ」
トン・・・ッ
二人は、背中を合わせる。
「背中、任せるよー」
「任せなよ」
・・・あ''、ぁ"ぁぁあ・・・喰わ、
せ、・・・喰、わせ、ろォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!
「お、来たなぁッ」
シャ・・・ッ
葉月は背中から大鎌を取り出す。
そして、
「しっつれいしまぁぁぁすッ!!!」
シュ・・・ッ
ブシャァァァァァァァァァァッ
葉月は、容赦無く人を斬り刻んだ。
「あははッしょっぱいなぁ。
ほらほらぉ、
もっとかかって来いよぉッ」
葉月は鎌を大きく振りかぶる。
ザクッ・・・ッ
ずしゃっ ずしゅっ ぐじゃっ
ブシャァァァァァァァァァァッ
人を、斬り刻む。
バラバラに。
跡形も無く。
しかし
それでも人は立ち上がる。
脚を斬られても、
腕を斬られても、
首を斬られても、
臓器を斬られても、
“ 人 ” は、死なない。
「・・・キリが、ない、なあッ」
バンッバンッバンッ
里穂はひたすら人の脳天を
銃で撃ち抜く。
「こいつら、一体なんだよ・・・ッ」
それを聞いた男は、嗤うのをやめる。
そして里穂をなだめるように言った。
「・・・っあははッ。こいつらは、
ただの“ ドール ”だよ?」
「・・・ドールだって?
いくらなんでもそれはないでしょ。
ドールだって、首から上を攻撃されたら死んじゃうんだから。」
バンッ ズシュッ
里穂は男の言葉を否定しながら、
ドールを撃ち抜く。
「それに、人型のドールは滅多にいない筈だよ」
「でも、現にここにはたっくさんいるじゃないかぁ」
男の唇は大きな弧を描く。
今にも唇が裂けてしまいそうだ。
「・・・僕はね、まだちゃぁんと
“ 生きているんだよ ”。
まだ、生きてる、生きてる生きてる生きてるんだ!!!
“ 死んでいない ” んだぁ!!!
僕はねぇ“ あの子 ”をッ、はははははッ
あの子をぉぉぉッ!!!あはははははははははははははッ」
男は意味のわからない言葉を言いながら、狂ったように嗤い出す。
はたから視ればそれは惨い光景だ。
「、はははははッはははははははははははッあの子にッはははははッ
ぼ、僕、はッ、 た、だッ
た、だぁッあの子にッひ、ひひぃッ
“ 逢いたいだけなんだよぉぉぉぉッ ”」
狂ったように嗤う男から零れたのは、
溢れ出したのは、吐き出されたのは、
“ ただ、あの子に逢いたい ”
それだけだった。
“ あの子 ”とは、誰の事だろうか。
里穂は頭の中を巡らせる。
そして、一つだけ思いあたる女を思い出す。
ーーーーーーーーーーーー
愛していたのに愛していたのに愛していたのに愛していたのにッ!!!
ーーーーーーーーーーーー
愛していたのに、それだけを言って、
死んで行った女の事を。
確信は、ない。だが、
「・・・あんたの言う、あの子って
ここら辺に、“ いた ”?」
聞いてみる価値はある。
里穂は思い切った。
「・・・ッ!?」
瞬間、男の嗤い声が消えた。
男は何故知っているんだと言うように
里穂にぎらつく眼球を向ける。
「・・・何故知っているって聞きたそうな顔だね。教えようか?」
里穂はあえて挑発的な口調で言う。
「・・・早く言ってくれないかなぁ・・・ッ」
男は、先ほどの態度とは一転し、
焦ったような声を出す。
里穂は、ゆっくりゆっくりと、
口を開く。そして、
「・・・彼女は、・・・“ 死んだよ ”」
淡々と、言った。
***************
・・・僕は、“ ある女 ”と
ある約束をした。
女は、僕を“ 生き返らす ”変わりに、
ドールを使って街を造り、人を創り、
そして、
“ 楽しく暮らしてくれ ”と。
嗤いが絶えない街や人を造ってくれと。
今思えば、それは、
悪魔の囁きだったのだろうと思う。
女は奇妙に嗤っていた。
だが、それでも僕は、よかった。
彼女に、“ 愛菜 ”に、逢えるのなら。
僕は、彼女に、・・・。
***************
「・・・う、そ、だ・・・ッ」
その言葉には、動揺と焦りが入り混じっている。
男は信じられないと言うように、眼を見開いている。
里穂は、もう一度噛みしめるようにゆっくりと、言った。
「・・・本当、だよ。“ 愛していた ”
“ どうして捨てた?” “殺すから ”、
これだけ言って、彼女は、
舌を噛みちぎって、死んだんだ」
「・・・ッ!・・・そ、んな・・・」
ガクンッ・・・
男は、膝から崩れ落ちた。
その眼には、絶望が滲み出ている。
「・・・うそ、だッ 、う、そ、
だッ、うそだぁッ、う、そ、だッ、」
男は頭を掻き乱す。
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりっ
「・・・な、んで、なんでッそんなッ
・・・ぁぁッ、・・・ッ」
男は・・・
「・・・うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
絶叫した。
男の爪は紅く肌色に染まっている。
きっと皮膚が剥げたのだろう。
男の頭からは、微かに血が滲んでいる。
「あ"あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ"ッ!!!」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりっ
男は叫ぶ。頭を掻き乱す。
まるで馬鹿の一つ覚えみたいに、
子供が泣いているようだ。
後悔しても、悲しんでも、辛くても、
嫌でも、受け入れられなくても、
そんなもの、もう、遅いというのに。
男は、泣き叫ぶ。
そして・・・
「・・・ああ、そっか。僕が
“ 死ねば、いいのか ”」
そう、いきなり呟いた。
「そっか。そっか。そうだよ。
彼女が、いないなら、僕、も・・・
“ いなくなってしまえば、逢えるじゃないか・・・”」
男はゆっくりと立ち上がった。
「・・・ねぇ、お願いが、あるんだ」
男は里穂に向かって言う。
「なに?」
「あっちの子も、呼んで、くれない、かな。・・・、いくら、死なないとはいえ、
そろそろ、ドール達も、可哀想、だしね。」
男は弱々しく指を指す。
「わかった。・・・ハーキ!!!
もういいから!!!」
里穂は大声で葉月を呼ぶ。
「え、もぉいーの?」
ぐしゃりっ
葉月は、ドールの肉を、踏み潰しながらこちらへとやって来た。
葉月がさっきまでいた場所は、血と、肉と、バラバラになっている手足、
臓器が、無惨に散らばっている。
正直、跡形も無くどれも粉々だ。
(どう考えてもやり過ぎでしょ・・・)
里穂は内心でそう思った。
「なになに?なんかあったぁ?・・・
“ そいつ ” と」
葉月は男を睨む。
「まあ、いろいろと、ね。・・・で、
具体的になに?」
里穂は男と向き合い、率直に聞く。
男は、・・・
「・・・僕を、“ 消してくれ ”」
苦しそうに、笑いながら言った。
今にも切れそうな声で、言った。
「僕は、あの死んだ屋上で、ちゃんと
死にたいん、だ。彼女に、突き落とされた、あの屋上で。
そして、彼女に、伝えたい、事があるんだ。
まあ、どっちみち、僕が、死ななければ、この、ドール達は死なない、よ。
アレは僕、の身体を、少し媒介にしている、から」
男は饒舌に言った。
しかしそれは、早く死にたいと言っているようなものだ。
早く死にたい、殺してくれと言っているようなものだ。
自暴自棄、自己破綻、今の男には
この言葉がよく似合う。
自分を見失い、壊し、壊れて、
男には、何も、何一つとして、
残っていない。
“ だからって、ふざけるな。”
生き返ったのなら、存分に生きろよ。
自分を、もっと大切にしろ。
そう言ってやりたい。
だが里穂はその言葉を飲み込んだ。
いや・・・
とてもじゃないが、言えなかった。
***************
僕は、本当に、最低だ。
彼女を、愛菜を、傷付けた。
それなのに、まだ逢いたいなんて、
酷いにも程がある。
僕は、卑劣で下劣な奴だ。
わかっている。わかっているんだ。
ああ、それなのに、
僕はまた、
“ 彼女達に、
最低な事を頼もうとしている ”
***************
その光景は、前に一度視たことがあった。
ビルの屋上。
女が女を殺していた場所。
女が舌を噛みちぎって死んだ場所。
女が、最後まで男の事を想って死んだ場所。
そして、今・・・。
「・・・本当に、い、いの?」
里穂は片手に銃を構えて、男に問う。
その手は、微かに震えている。
「・・・いい、よ。早く、してくれないかな・・・ぁ?」
男は迷うことなく、断言した。
パキャ・・・ッ
ベリベリベリベリベリベリッ
後ろから袋が開く音がする。
きっと葉月が飴を開けたのだろう。
葉月は空気を読むという事を知らないのだろうか。
「・・・じゃあ、せめて」
里穂は眼を瞑る。
「どうか、・・・安らかに」
パァァァァァァァァァァァァンッ
弾が、空気を破りながら
男のもとへと行く。そして、
ズシュ・・・ッ
「ーーーーーーーーーーーー」
ヒュ・・・ッ
男の脳天に直撃した。
男は何かを呟いた。
ゆっくりゆっくりと、男の身体は
重力に沿って落下する。
・・・どしゃっ!!!
数秒後、濡れた肉が落ちた。
それは間違いなく、あの男だろう。
二人は、屋上から下へと降りる。
ーーーーーーーーーーーー
そこには、バラバラになった赤い肉しか無かった。
骨は無く、血と、肉と、そして、
脳味噌だけ。
「・・・こいつ、さ、あたしに撃たれたときなんて言ったと思う・・・?」
里穂は、か細い声で言う。
「・・・・・・」
「・・・“ ありがとう ”って、
言ったんだ・・・っ」
里穂は、ホロリと涙を零す。
泣く必要などないのに、彼女は泣く。
それ程、里穂は優しいのだ。
「・・・そっか。」
葉月はその一言しか言えなかった。
「・・・あんな、にさ、黒幕ぶってたのに、あんな、最後、なん、て・・・
“ 悲しすぎるじゃんか・・・ぁッ ”」
「・・・うん。わかってる。」
・・・里穂は、本当に優しい。
あたしは、他人の為に、ましてや
敵だった奴なんかに涙なんて、出ないだろぉなぁ・・・。
葉月は心からそう思った。
ただ、一つ腹が立つ事があった。
それは・・・
クスクスクスクスクスクス・・・ッ
不吉に嗤う女が、こちらを視ていた。
葉月は女の方を視ると、すぐさま睨んだ。
この状況で嗤う要素がどこにある。
ばっきんっ!!!
葉月は思い切り飴を噛みちぎった。
「胸糞悪い、きえろ」
葉月は低い声でそういうと、
女は笑みを深めて去っていった。
「・・・あいつ」
嫌な感じがする。
少し遠かった為、よくは視えなかったが、ロングの黒い髪に、フリルの
ブラウスを着ていた。
あんな奴とは、二度と会いたくはないな。
葉月は直感的に思った。
***************
「・・・里穂、落ち着いた?」
葉月は里穂の顔を覗き込む。
「うん。へーきだよ。ごめん」
里穂はにこりと笑った。
あれから数分たっていた。
ドール達は、人々は、消えて無くなっていた。
ただ少しの腐敗臭があるだけだった。
男の肉は、あそこに置いたままだ。
何故か動かしてはならない気がした。
“ 歪なすれ違い ”
今回のこの異変が生じた理由だ。
男は遊び心で女をからかってやりたかった。
女は、男が本気で言っていると思い、
酷く傷付いた。
だから、無意識の内に、殺してしまった。
男は女の事を想い、
女は男の事を想っていた。
ただ、“ 愛し過ぎていた ”
愛し過ぎていたあまりに、
からかいたくなり、
愛し過ぎていたあまりに、
深く傷付き、殺してしまった。
愛は人を救う。
人を癒す。
しかし、逆もしかり。
愛は人をも“ 殺す ”のだ。
***************
女は男の事を愛していました。
男は女の事を愛していました。
男はある日、女に殺されてしまいました。
女は“ 恨みました ”
何故、自分を捨てて死んだのか、と。
女は“ 自覚 ”していないのです。
“ 自分が、愛する男を殺した事を。”
一人になった女は、無作為に人を殺しました。
まるで自分の罪を他人になすりつけるように。
しばらくして、女は気付きました。
“ 自分が死ねば、いいのだと ”
女は、舌を噛みちぎり、大量の血を流しながら死んでしまいました。
男は、“ ある女 ”に生き返らせてもらい、愛する女を探しました。
男は一言謝りたかったのです。
からかって、悪かった・・・と。
ですが、男は衝撃な事実を聞きました。
女は、既に死んでいたのです。
それも自分を殺す為に。
男は泣き叫びました。
嗤って、叫んで、泣いて、
男の心はもうボロボロと朽ち果ててしまいました。
男は、女の死を教えてくれた二人の
少女達に、あるお願いをしました。
“ 自分が突き落とされた屋上で、
殺して欲しい ”
少女達は男の願いを聞き入れ、
実行してくれました。
男は一人の少女に礼を言いました。
少女は何故か少し泣きそうな顔をして
いました。
男はアスファルトに叩きつけられ、
見事無惨に死にました。
男はこうして無事に死ねました。
ちゃんと、死ねました。
そして、やっと、
女のもとへ、行けたのです。
めでたし めでたし。
第一章,了。
お読みいただきありがとうございました。
これでこの噺はひとまずお休みとさせて頂きます。
読みにくかったと思われます。
申し訳ありませんでした。
どうか、次の作品もよんで頂けたらと
思います。
では、失礼致します。