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第2章3

 この日のことは、先に逃げ帰っていたこぎつねたちから母に知られてしまっていた。

 まさか無事に星火が帰ってくると、母は思っていなかったらしく、無傷で戻ってきた星火(シンフォ)を見ると、母は大粒の涙を流した。

 そんな母に、まさか人間とであったなどといえば、余計な心配をかけてしまうかもしれないと考えて、星火はどうにかして自力で穴から出てきたのだとだけ母には説明した。

 母からはずいぶんきつく、もうあの場所にはいかないこと、と言われた。が、強い好奇心を抑えることはできなかった。そしてまた、星火はどうしても老夫婦に会いたくて、何度かこっそりと里に足を運んだ。

 二人はいつも里外れの畑にいた。

 大きな樹の切り株が目印の畑だ。

 星火は二人が来る前にこの畑に来ては、切り株のもとに、持ってきたたきのこやら木の実やらの、森の恵みをおいていた。

 あの日のお礼の気持ちを精一杯表すために。

 そうして、星火は二人がやってくると、少し離れた場所から二人が行う農作業をじっとみていた。

 それ以上ひとに近づくことは、やはり恐ろしくてできなかった。

 だが、ひとのほうはそうは思っていないようだった。

「おいで」

 お昼時になると、二人はいつも切り株のところで持ってきた昼食を広げていたのだが、そのときに、老人がおいでおいで、と手を振り、星火を呼ぶ。

 星火は木陰からゆっくりと姿を見せた。

「おまえがいつも持ってきてくれたんだろう?」

 老人と老婆は優しく星火の頭をなでてくれた。

 二人の手はとても温かく、笑顔も見ているだけで心がほんわかと温かくなった。

 みんなはひとのことを恐ろしい生き物だというけれど、案外そうではないのかもしれないと、星火は思うようになっていた。

 少なくとも、星火はこの二人がとても好きになっていた。

 ところが、1年ほど前だっただろうか。

 老夫婦の姿がぴたりと見えなくなった。

 もっと里に近づけば、多少なりとも老夫婦のことはわかったのかもしれないが、さすがに星火にはそこまでする勇気はなかった。

 いつも老夫婦が腰掛けていた切り株のもとで、いつか二人がまたくるのではないかという期待を抱きながら、星火は何度もそこに足を運んでみた。

 だが、どれほど待っても老夫婦に会うことはできず、とうとう我慢できなくなって、星火はひととなる決心をしたのだった。

 きつねの姿で里に近づくのが難しいのであれば、ひとになればいい、と。

 ひとになれば、また優しい二人に会うことができるだろう、と――。

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