第5章1
星火は降り積もった雪の中を、ひたすら駆けた。
おばあとおじいがいる里に向かって、休むことなく駆け続けた。
ようやく里の姿が前方に見えたとき、あたりはすっかり薄暗くなっていた。
が、星火はひとの声を聞いた気がした。
星火の足が止まる。
耳を澄ます。
確かに聞こえる……声。
あの声は――……。
「星火!」
「坊ーっ」
涙がこみ上げたきた。
老夫婦は寒空の下、声を張り上げて星火を探していた。
星火の足が嬉しさのあまり震えた。
「星火ーっ」
こーんとひと声啼くと、星火はたまらず、走り出した。
もうひとの言葉は話せない。
もうひとの姿になることはできない。
けれど――
「星火!」
彼の姿を見つけた老婆が叫ぶ。
雪を掻き分け、星火に走り寄る。
「わかっていたさあ。おまえがきつねだってことは、わかっていたさあ」
泣きながら老婆は星火をぎゅっと抱きしめた。
「それでもええ。おまえがいてくれればええ。きつねだっておまえは私たちの大切な子どもだあ」
おいおいと老夫婦は泣いてくれた。星火もまた、あふれる想いを我慢できず啼いた。
(星火、幸せに――)
母がどこか遠くでそういってくれているような気がした。