第8話(ウルナイト視点)
僕は、声を上げて笑った。
「あはっ、あはっ、あはははははははははっ! ハーディン! あなた、とうとう耄碌してしまったのですか? あんなケダモノが『神の使い』なわけないでしょう! 『悔い改めるチャンスをくれている』ですって? まったく馬鹿馬鹿しい、あなたはいつもそうですね、口を開けば諫言ばかり! 本当に堅苦しく、煩わしい男だ!」
ハーディンは厳しい目で僕を見据え、言う。
「ではお聞きしますが、魔獣が神の使いでないのなら、なぜあなたのように、大した能力のない召喚士に、大量に召喚することができたのです?」
「なんだとぉ……」
「それは、魔獣が自らの意思で、このバグマルス王国に現れたからです。『あなたに召喚された』という形でね。ウルナイト殿下。あなた、少しも疑問に思わなかったのですか? あなたの能力で召喚できるのは、せいぜいが小型の召喚獣3~4匹が限界のはず。それなのに、強力な魔獣が何百匹も呼び出せるなんて、普通なら何か妙だと疑うものです」
「だ、黙りなさい! 確かに僕は、これまで、あまり召喚士としての才能を発揮することができませんでした。それが、今になって一気に花開いただけのことです! あの魔獣は、勝手に現れたのではなく、間違いなく、僕自身の才能でこの世に呼び出したものです!」
「では、今すぐに魔獣の召喚をやめ、彼らを異世界に送り返してください」
「えっ……」
「本当に、殿下ご自身の力で魔獣を召喚したのなら、それができるはずです。さあ、やって見せてください」
「うっ、ぐっ、それは……」
たじろぎ、脂汗を垂らす僕に対し、ハーディンは憐れんだ眼差しを向け、深い深いため息を漏らした。
「……ね? できないのでしょう? それが、何よりの証拠なんですよ。あなたもかわいそうに。召喚士としての才能に恵まれなかった分、ある日突然強力な魔獣を召喚できたことで、嬉しさのあまり、正常な判断力を失ってしまったのですね」
「ぐうううぅぅぅぅぅぅ……!」
「思えば、バグマルス王国は、長い繁栄の時が続き、王族も、大臣たちも、民衆も、みんな欲にふけり、他者を顧みず、あまりにも身勝手すぎた。『召喚された魔獣』という形でこの世に顕現した『神の使い』たちは、しばらくの間、人々の動向を観察した結果、『罰を与えなければならない』と判断して、攻撃を始めたのでしょう」
僕はもう、ハーディンの言葉を半分も聞いていなかった。
へたり込み、頭を抱え、自分に言い聞かせるように、言葉を紡いでいく。
「嘘だ……僕は信じない……信じないぞ……僕は、召喚術の天才なんだ……ずっと眠っていた才能が、今やっと花開いたんだ……僕は魔術先進国であるバグマルスの第一王子だぞ……僕は落ちこぼれなんかじゃない……本当は天才なんだ……僕は……僕は……」
「殿下、お気を確かに。まだ、間に合います。バグマルス王国は滅茶苦茶になってしまいましたが、まだ滅んではいません。心の底から悔い改めれば、魔獣たちはすぐに攻撃をやめることでしょう。私は今から、この事実を、国民たちに話して回ります。さあ、殿下も……」
ハーディンは慈悲深い眼差しで僕を見下ろし、手を取ろうとした。
僕は……
僕は……
その手を、振り払った。
「うるさい! 僕に触るな! あの魔獣は、間違いなく僕が! 僕自身の才能で呼び出したものなんだ! 今からそれを証明してやる!」
そして僕は、ハーディンの制止も聞かずに、砦の外に飛び出す。涙と笑みが入り混ざった、半狂乱の顔で瓦礫だらけの町を駆け抜けると、魔獣に遭遇した。
僕は指を鳴らし、初めて魔獣を呼び出した時のように、命令する。
「さあ、座れ! 頭を下げろ! 召喚主に従え! このケダモノめ!」
魔獣は、何も言わなかった。先程のハーディンのように、慈悲深く、そして、憐れむような目で僕を見下ろしている。その悟ったような顔が、ますます僕の心をかき乱した。
僕は、上ずった金切り声で、魔獣を怒鳴りつける。
「そんな目で見るなぁ! なんとか言え! 言ってみろよ! ケダモノが! ははっ! 言えるわけないよな!? ケダモノごときが、言葉を喋れるわけ……」
「劣等感にさいなまれた、哀れなる王子よ。悔い改める気はありませんか?」
僕は、絶句した。これまで、タダの一言もしゃべったことなどなかった魔獣が、流暢で、透き通った声を発したからだ。魔獣は、信じられないくらい優しい声で、僕を諭すように言う。
「人は、誰でも罪を犯します。しかし、悔い改める心も持っています。神は人間に対し、罰を与えますが、決して痛めつけるだけではありません」
「…………」
「正しい心を持った人間には、必ず、立ち直るチャンスを与えてくれます。しかし、そのチャンスは、無限ではありません。一度判断を誤れば、もう二度と、許されることはありません」
「…………」
「このバグマルス王国は、罪深い都です。人々は欲望にまみれ、利己心の塊のようでした。それ故に、罰を受けた。しかし少なくない数の人々が、私たちの問いかけに涙を流して反省し、心を入れ替えることを誓いました。さあ、あなたも誓うのです。これからは悔い改め、人として正しい道を進むと」
僕は、叫んだ。
「うるさいっ! 黙れぇっ!! 僕は天才召喚士だぞっ!!! ケダモノごときが僕に命令するなああああああっ!!!」
「そうですか、残念です」
魔獣は、もう僕を諭そうとはしなかった。
大きな口を開き、もの凄い速さでこちらに突進する。
僕が最後に見たのは、審判の剣のような、神々しい魔獣の牙だった。




