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第7話(ウルナイト視点)


「まだ聖女は戻ってこないのですか! 大小問わず、この大陸にあるすべての新聞社に通知を出すように頼んでから、もう4日も経つんですよ!? そろそろ来なければおかしいでしょう!?」


 崩れた王宮のすぐそば。

 突貫工事で作られた簡易的な砦の中で、僕は声を荒げた。


 近衛兵の一人が、負傷した肩を押さえながら言う。


「聖女が国を出てからもう半年以上たっていますから、もしかしたら彼女は、新聞も届かないような、はるか辺境にまで行ってしまったのかもしれません。あるいは……」


「あるいは? あるいは、なんだと言うんです?」


 近衛兵は、ほんの少し黙った後、弱々しく目をそらし、口を開いた。


「何もかもを知っていて、その上で、このバグマルス王国にもう戻ってくる気がないのかもしれません……聖女を追い出す際、我々は彼女を嘲笑い、かなり冷たい仕打ちをしましたから……」


「ぐっ、うっ、ぐううぅぅぅ……っ!」


 まるで殴られたかのような声を出し、僕は唸った。薄々、僕自身もそうではないかと思っていたが、改めて他人の口から告げられると、やはりショックだった。


 くそっ。

 ラスティーナめ。

 なんて薄情な女だ。


 ちょっと冷たい仕打ちを受けたくらい、何だと言うんですか。自分の故郷が崩壊の危機なんですよ? 慌てて戻って来るのが普通でしょう。まったく、『聖女』が聞いて呆れますね。


 ……まあいいです。

 戻ってこない聖女のことなど、もうどうでもいい。


 僕にはまだ、『切り札』があります。

 それはもうすぐ、到着するはずですからね。


 そう思い、椅子に腰かけ、腕を組んで待っていると、待ちわびた『切り札』はやって来た。……その『切り札』とは、かつて、王族に対する不敬罪で国外追放した、衛兵隊のトップ、ハーディン隊長である。ハーディンは以前と変わらぬ鋭い眼光で僕を見て、小さく頭を下げた。


「おひさしぶりです、ウルナイト殿下。大変なことになりましたな」


 僕は立ち上がり、ハーディンを歓迎した。こういう、いかにも武人的な男は苦手だが、このハーディンなら、生き残った衛兵隊を指揮し、魔獣を退けることができるに違いない。


「おお、ハーディン。良く来てくれました。さあ、話している時間が惜しい、さっそく衛兵隊を指揮し、魔獣どもを皆殺しにしてください」


「その前に、国王陛下にお目通り願いたいのですが」


「……父上は、死にました。父上も、この砦に避難しようとしたのですが、過度な美食で太った体では、満足に駆けることもできず、背後から魔獣の牙で首を断たれ、即死でした」


「そうですか、お気の毒に。……この砦には、あなたと衛兵しかいないようですが、大臣たちは?」


「……大臣たちも、全滅です。父上と同じく、皆、丸々と太っていましたからね。誰も彼も、他人を押しのけて逃げようとしていましたが、足が遅すぎて、結局は無駄な努力でした。全員、ひと噛みで魔獣にやられてしまいましたよ」


「なるほど。ここに来るまでに、何匹か魔獣を見ましたが、彼らの俊敏な動きは見事でした。ふふ、堕落し、太った人間の動きなど、彼らにとっては止まって見えたことでしょう」


 緊急事態にもかかわらず、微笑を浮かべ、余裕のあるハーディン。その態度に、頼もしさを感じるのと同時に、少々苛立った僕は、大きく声を荒げる。


「魔獣を褒めてどうするのです! さあ、もうおしゃべりは充分でしょう! 早く魔獣どもを全員殺してきなさい! そのために、一度は国外追放したあなたを、わざわざ呼び戻したのですよ!」


「そうでしたね。あなたと国王陛下は、何かと諫言をする私を、『不愉快だ』『不敬である』『身の程をわきまえろ』と言い、追放したのでしたね。……そしてあなたたちは、あの聖女ラスティーナ様をも追放してしまった。この国のために、あんなに頑張っていた女性を。……なんて、罪深いことでしょう」


「な、なんです。なぜ今、そんな話をするのですか? あなたまさか、追放された恨みを晴らすために、今こうして、やって来たわけではないでしょうね?」


 ハーディンは首を左右に振り、言う。


「いいえ。追放されたとはいえ、かつては仕えていた国ですから、そのような不義理は致しません。しかし私は、魔獣を駆逐するために来たのでもありません。……と言うより、あの魔獣は、われわれ人間の手で、どうこうできるような存在ではないのです」


「ど、どういうことですか……? あなた、魔獣について、何か知っているのですか……?」


 僕の問いに、ハーディンはどこか遠くを見つめるようにして、答える。


「もう何十年前になるでしょうか……はるか遠くの国で、一兵士として働いていた私は、一度だけ、魔獣を見たことがあるのです。魔獣は、ある日突然現れ、それまで国の内外で暴れていた魔物や、邪悪な心を持った人間たちを根こそぎ始末すると、まるで最初からいなかったかのように、消えてしまいました」


「…………」


「その国の神官たちが言うには、魔獣は神の使いであり、時として人の世に顕現し、人間の心を試すそうです。……心優しく、誠実な人間には恵みを。そして、身勝手で、利己的な人間には罰を与えるという形で」


「では、あなたはこう言いたいのですか? 今魔獣が暴れているのは、身勝手で利己的なバグマルス王国の人間に、罰を与えるためだと」


「そういうことになってしまいますね。しかし、まだこの国は滅び切っていない。魔獣はきっと、この国の人間に、悔い改めるチャンスをくれているのだと思います。だから私は、その事実を伝え、皆を諫めるために戻って来たのです」

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