第6話
……『半年以上前に国を飛び出してしまった』って、まるで、私が自分の意思で、ふらりと出奔したみたいじゃない。あなたたちが追い出したんでしょ? もう『用済み』だって言って。
それに、『聖女自身がこの通知を読んでいた場合、ただちに帰国すること』って、何様のつもりよ。『行方をくらましていた』ですって? 誰も、行方をくらましてなんかいないわよ。魔獣が暴走して、国が大変なことになるまでは、私の行方なんて何の興味もなかったでしょうに、今更になって何を言ってるのよ。
追い出すときも勝手なら、助けを乞う時も、勝手すぎる。
この人たちには、私の人格に対する配慮なんて、ひとかけらもない。
いや、恐らく、この人たちは、最初から私を人間だなんて思ってないんだ。ただの便利な『結界発生装置』としか、思ってないんだ。だから、平然と追放したり、呼び戻そうとしたり、私を『モノあつかい』するのね。
昔、聖女の力でバグマルス王国を守っていた頃。ただの一人でも、私を『モノあつかい』せず、真摯に接してくれた人がいただろうか?
……一人だけ、いた。
衛兵隊の指揮をしていた、ハーディンという老齢の隊長だ。
彼だけは、私に親身になってくれたし、王族たちに対し、面と向かって、私の待遇を良くするように直訴もしてくれたっけ。……でも、何かと諫言をしてくるハーディンを不快に思った王族たちは、彼を国外に追放してしまったのよね。
そして私は一人ぼっちになり、周囲には、誰も味方がいなくなった。
……私は一応、善良な人間のつもりである。だから、どれだけ軽んじられても、一人ぼっちだとしても、国のため、皆のためと、十年間、バグマルス王国に結界を張り続けてきた。
その、守り続けてきた国が、致命的な危機に瀕しているという記事を見て、少しも心が痛まないわけではない。……正直、この通知欄を見るまでは、バグマルス王国を救うために、国に戻るべきかもしれない――そう思っていた。
しかし、その気持ちが今、スゥーっと冷めていくのを感じる。
私と同じく、通知欄を見たであろうアンディが、硬い声で問いかけてくる。
「ラスティーナ、どうするんだ? この通知欄を読む限り、きみなら、バグマルス王国を救えるみたいだけど……」
私は、ちらりと振り返り、アンディを見た。
そして、口を開く。
「私……私は……」
かすかに、声が震えている。
……それも当然だろう。私の意思は、もう八割方決まっているが、それは、とても大きな決断であり、一度口に出してしまえば、もう後戻りはできないのだから。
アンディは、決して急かしたりせず、固唾を飲んで、私の言葉を待っていた。
張り詰めた沈黙が、室内の空気を硬いものにしていく。
一秒……
二秒……
三秒……
四秒……
そして、五秒たって、私はやっと、自分の意思を言葉にした。
「私は、バグマルス王国には戻らないわ。もう二度と」




