表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

第6話

 ……『半年以上前に国を飛び出してしまった』って、まるで、私が自分の意思で、ふらりと出奔したみたいじゃない。あなたたちが追い出したんでしょ? もう『用済み』だって言って。


 それに、『聖女自身がこの通知を読んでいた場合、ただちに帰国すること』って、何様のつもりよ。『行方をくらましていた』ですって? 誰も、行方をくらましてなんかいないわよ。魔獣が暴走して、国が大変なことになるまでは、私の行方なんて何の興味もなかったでしょうに、今更になって何を言ってるのよ。


 追い出すときも勝手なら、助けを乞う時も、勝手すぎる。

 この人たちには、私の人格に対する配慮なんて、ひとかけらもない。


 いや、恐らく、この人たちは、最初から私を人間だなんて思ってないんだ。ただの便利な『結界発生装置』としか、思ってないんだ。だから、平然と追放したり、呼び戻そうとしたり、私を『モノあつかい』するのね。


 昔、聖女の力でバグマルス王国を守っていた頃。ただの一人でも、私を『モノあつかい』せず、真摯に接してくれた人がいただろうか?


 ……一人だけ、いた。

 衛兵隊の指揮をしていた、ハーディンという老齢の隊長だ。


 彼だけは、私に親身になってくれたし、王族たちに対し、面と向かって、私の待遇を良くするように直訴もしてくれたっけ。……でも、何かと諫言をしてくるハーディンを不快に思った王族たちは、彼を国外に追放してしまったのよね。


 そして私は一人ぼっちになり、周囲には、誰も味方がいなくなった。


 ……私は一応、善良な人間のつもりである。だから、どれだけ軽んじられても、一人ぼっちだとしても、国のため、皆のためと、十年間、バグマルス王国に結界を張り続けてきた。


 その、守り続けてきた国が、致命的な危機に瀕しているという記事を見て、少しも心が痛まないわけではない。……正直、この通知欄を見るまでは、バグマルス王国を救うために、国に戻るべきかもしれない――そう思っていた。


 しかし、その気持ちが今、スゥーっと冷めていくのを感じる。


 私と同じく、通知欄を見たであろうアンディが、硬い声で問いかけてくる。


「ラスティーナ、どうするんだ? この通知欄を読む限り、きみなら、バグマルス王国を救えるみたいだけど……」


 私は、ちらりと振り返り、アンディを見た。

 そして、口を開く。


「私……私は……」


 かすかに、声が震えている。


 ……それも当然だろう。私の意思は、もう八割方決まっているが、それは、とても大きな決断であり、一度口に出してしまえば、もう後戻りはできないのだから。


 アンディは、決して急かしたりせず、固唾を飲んで、私の言葉を待っていた。

 張り詰めた沈黙が、室内の空気を硬いものにしていく。


 一秒……

 二秒……

 三秒……

 四秒……


 そして、五秒たって、私はやっと、自分の意思を言葉にした。


「私は、バグマルス王国には戻らないわ。もう二度と」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ