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第10話【完結】


 それから、さらに数ヶ月が過ぎた。


 私は今、アンディと一緒に、世界を旅している。


 実はアンディは、世界中を駆け巡る冒険者であり、実家である宿屋には、しばらくの間、体を休めるために戻って来ていただけなのである。……アンディが『そろそろまた、冒険の旅に出ようと思ってるんだ』と口にしたとき、私は迷わずにこう言った。


『私も連れて行って』と。


 私とアンディの関係は、ずっと友達以上、恋人未満といった感じだったが、アンディは私の人生になくてはならないほど大切な存在になっており、もう彼と語らうことのできない生活など、私には想像もできなかった。


 いつも笑顔で私の話を聞いてくれるアンディだったが、その時ばかりは少しだけ悩み、真剣な瞳で、こう言葉を返した。


『僕の旅は、ただの旅行とは違うから、危ない思いをすることもある。……それでも、ついて来るかい?』


 私は、悩まず頷いた。

 アンディは、もう何も言わず、私を受け入れてくれた。


 そして、今に至ると言うわけである。


 冒険者として、洞窟の探索を終え、高原にて二人、腰を下ろす私たち。

 爽やかな風に髪を揺らしながら、アンディは朗らかに言う。


「ラスティーナも、冒険者の生活に随分と慣れてきたね。思った以上に体力もあるし、良い相棒だよ」


 私は、風で少し乱れた髪を整え、微笑した。


「宿屋の仕事で、体はかなり鍛えられてたからね。……旦那さんとおかみさんは、元気にやっているかしら」


「親父とお袋なら大丈夫だよ。僕たちが旅に出る前に、新しい従業員も補充できたし、万事問題なしさ」


「そうね。手際の良さそうな人だったし、私よりよっぽど優秀だったりして。……アンディ、それ、何を持ってるの?」


「ん? ああ、これ? 朝、町を出る時、新聞売りがいただろ? 後で読もうと思って、買っておいたんだ」


「あなた、本当に新聞好きね」


「情報収集も、冒険者の仕事の内さ。さて、今日はどんなことが書いてあるかな。……あっ」


「どうしたの?」


「バグマルス王国の跡地に、生き残った民衆たちの手で、新しい、小さな国ができたらしい」


「そうなんだ。もうあの辺りに魔物はいないから、きっと平和な国になるわね」


「その小さな国から、新聞の通知欄に、メッセージがあるんだ」


「へえ、どんな?」


 そこでアンディは、こちらを見てニッコリと笑い、黙った。

 その思わせぶりな態度に、私は首を傾げ、もう一度問う。


「何よ。いったい、どうしたの?」


「ふふ、この通知欄、見てみなよ」


「通知欄ねぇ……前に、あの傲慢なバグマルス王家から、とんでもない上から目線で『戻ってこい』って言われたし、あんまり良い思い出がないんだけど……」


 そう言いながら通知欄を見て、私は先程のアンディと同じように、「あっ」と声を上げてしまう。……通知欄には、こう書かれていた。


『聖女様。現在、あなたの所在地が分からず、連絡の取りようがないので、このような形での発信になったことを、お許しください。かつての私たちは、あなたに守護されておきながら、感謝することもなく、あまりにも身勝手でした。まことに、申し訳ありませんでした。今後、何かお困りのことがあれば、いつでも我が国を訪ねてください。必ず力になります』


 アンディが、私の肩を優しく叩き、言う。


「生き残った人たちは、ずっときみに対する仕打ちを後悔していて、謝りたいと思ってたんだね。きっとこれからも、何度でも通知欄に、謝罪の文章を載せ続けるんだろう。……気が向いたらでいいから、一度、手紙か何かを書いてあげたら?」


「ええ。すぐにでも『昔のことは、もう気にしてない。あなたたちの国が、ずっと平和であることを願っている』って手紙を送るわ」


 私は本当に、昔のことを、もう気にしていなかった。今となっては、バグマルス王国が私を追放してくれたことに感謝しているくらいだ。だって、心の底から好意を持てる男性……アンディに、会わせてくれたのだから。


 私は、いつかのように、肩に置かれたままだったアンディの手に手を重ねる。……そして、思い切って、感謝の言葉を述べることにした。


「アンディ、私、あなたに会えて、本当に良かったと思ってる。……あなたがあの日、少しだけ強引に私を酒場に連れ出してくれなかったら、きっと私の人生は、まったく違ったものになってた気がするわ。私にとってあなたは、救世主みたいな……ううん、救世主そのものよ」


「そんな、大げさな。……僕はただ、気になる女の子と、一緒にお酒が飲みたかっただけだよ」


「顔が赤いわよ。もしかして照れてる?」


「きみだって、少し顔が赤い」


「そうかな?」


「そうだよ」


 そして私たちは、それ以上何もしゃべらず、見つめ合う。

 数秒後、どちらからともなく、私たちは口づけをした。


 私にとって、生まれて初めてのキスだった。


 唇が触れ合うだけの、子供のようなキス。


 それでも、信じられないくらい心が高揚し、胸がときめいた。


 ……これからきっと、私たちの関係は、一気に進展していくだろう。

 期待感と気恥ずかしさで、胸の鼓動はますます高まり、うるさいほどだ。


 しかし、胸を突き破らんばかりのその動悸が、たまらなく愛おしい。


 これが、恋なのね。


 なんだか面映ゆくて、今までは、あえてアンディに対する恋心を意識しないようにしてきたが、ハッキリと『恋』を自覚するだけで、驚くほどの幸福感で心が満たされていく。


 この日から私の新しい人生が、本当の意味で始まった――




終わり。

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何れ聖女の帰還かな。
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