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「という訳で、ちょっと分かりました」
いつものダスティ+三賢者に向かい、森での顛末を聞かせる。
「へえ。仲間にした魔物には何かできるんですか?」
トライツの問いに、メニュー画面を開きながらキラーヤは話す。
「うーん。色々出来そうなんだけど、
とりあえず『召喚』っていうのが実行できそう。
だけどクダギツネと九尾の狐はできそうだけど、
金色の鹿はできないっぽい」
「仲間一覧」の魔物の名前をタッチすると、横にさらにメニューが表示され、「召喚」が選択できる。だが金色の鹿の召喚はグレー表記だ。なんかできそうにない。
「やってみるか。召喚」
ぽん、と音がして、目の前にクダギツネと九尾が現れた。
「あら先日ぶり、ご用?」
「ううん、ごめん、試したかっただけ」
「そうなの。ごきげんよう、人間たち」
九尾の狐は優美に人間たちに挨拶する。
「喋った・・・!」
「私の力の影響らしいです、聞こえるの」
魔物が想像していたよりもずっと知的な存在であることを知り、キラーヤはあまり自分の能力を恐れなくなっていた。それを賢者たちにも説明する。
「多分、魔物って思ったより知的な存在で、
私が嘯いた「人間を襲わないように制御する」って、
もっと高い次元で可能な気がしていて。
何て言うか、魔物達に自治を求めるというか」
クダギツネは「なにそれ?」という顔でこちらを見ている。
九尾は困ったように首をかしげ、
「でも、魔物は姿を見せた時点で人間に襲われるから」
「それです。
人間側の意識も変えていかないといけないのかも。
魔物すなわちそれは悪ではないと」
九尾の狐は曖昧に笑ったように見えた。
キラーヤは続けて語った。
「でもそれを断じるには、私はこの世界を知らなすぎる。
だからやっぱり、私旅に出ます。
仲間を増やす旅に」
・・・キラーヤはこののち、いかに自分の考えが浅かったのか悔やむことになる。
それでも、旅立ちの決意は固まった。
ーーーーーーー
「それでは気をつけて、行ってらっしゃい」
業務時間外の皇帝親子に見送られ、キラーヤとルカリアは城を後にした。
たっぷりの軍資金とインベントリいっぱいの旅支度を用意してもらい、万端の船出である。
「とはいえ、どこから行くつもりだ」
「あのねぇ、ちょっと行きたい街があるんだよね」
「あ?うちの国の地理なんて知ってんのか」
「トライツに聞いたのよ。
学術都市ロイン。そこに行きたいの」
「げえ、よりによってロインかよ」
「何、何か問題?」
「いや、俺としては学生時代のアレコレがな。
しかしなんでロイン?」
「あるんでしょ?魔物研究所。
実物の魔物を飼育しながら研究してるって?
そこに見学に行きたいの。
ちなみに紹介状は既に貰ってあるわ」
「い、いつのまに」
「私、実践より座学から入りたいタイプなのよね。
まもの使いの癖に魔物のことを何にも知らない、
じゃぁ形無しじゃない」
「なんだ、お前真面目なんだな」
「ええまあ、真面目勤勉で通ってますんで。
で、ここからロインまでは、
大きな街道に沿って行けるんでしょ?」
「ああ。途中小さな街もいくつかあるし、
野営もせず行けるだろう」
移動手段は徒歩。なんと徒歩である。
「徒歩ってのがなあ・・・。
何か無いわけ?秘術で飛行とかさあ」
「俺一人なら問題ないが、
お前を抱えて飛ぶのは無理!」
「じゃあ馬車とかさあ」
「俺は馬の世話はできん!お前できるか?」
「できない」
「だろ」
「辻馬車は?」
「いいけど金が勿体ないぜ」
「それもあるよねぇ」
じゃあ仕方ない、歩こうぜと言われ、とぼとぼ歩を進める。
体力的に厳しくなったら、その時点で辻馬車を考えよう。
気候は暖かくていいものの、病院の中で日の光を浴びずに生きてきたキラーヤにとっては少々つらい。
「車欲しい・・・」
「車?荷車のことか?」
「いんや、人を乗せて自動で走る道具だよ」
「お前の世界、凄えもんがあるなあ」
「その代わり秘術はないけどね」
しばらく歩くと、王都の領域のはずれにやってきた。
すっかり街からは遠ざかり、辺りは穏やかな原っぱである。
「この辺にいる魔物って何だろう」
「この辺は大体がスライムだな。
あとは花の妖精」
「へえ、妖精もいるんだ」
「いるよ~」
・・・と、キラーヤの肩のあたりからふわりと鈴の鳴るような声が聞こえたかと思うと、目の前に何かが飛び出してきた。
「え、えっと?」
「はじめまして、
あなたが新しい『まもの使い』様ね。
鹿爺から聞いたわ」
飛び出して来たのは、人形サイズの可愛らしい女の子に半透明の羽がついた生き物。簡素なワンピースを植物の茎をベルトのようにして締め、そこにスズランを一枝刺している。
「私はスズランの妖精。
ね、ね、どこ行くの?遊んでいかない?」
「こんにちは、スズランの妖精さん」
「ば、ばか相手すんな!」
ルカリアが焦った声を上げる。
「何で?ちょっと教えて欲しいな。
妖精さんはこの辺りにたくさんいるの?」
「ええ、そうよ。
紹介するからちょっとこっちに来てくれる?」
「分かった、あっち?」
「あ~知らねえぞ~」
ルカリアは頭を抱えながらついていく。
「こっち、こっち」
「ほいほい、待ってね」
たくさんの草花が咲き乱れる美しい丘のほうへ導かれる。
花たちがそよそよと風に揺れ、その擦れる音が小さなおしゃべりのように聞こえる。
「すごい、綺麗なのね」
「そうでしょ?もっとこっちに来て」
もうすぐ丘の頂上、少し息が上がりながらも花の明るい色彩を楽しんでいると、
ズボっ!!
足下の地面が抜け、植物が敷き詰められた穴に落っこちた!!
『は?・・・落とし穴?』
・・・幸い穴は浅く、肩くらいまで落ちておしまいだったのだが。
「キャハハ!!
引っかかった、引っかかった!!」
その途端辺りの草花からぶわっと大量の妖精が湧いて出て、キラーヤの周りを飛び回りはじめた。いつからいたんだ!っていうかずっと見てたのか!!
「あ~あ、だから言わんこっちゃない」
ルカリアは穴の中から無様に手を伸ばすキラーヤを引っ掴んで引きずり出すと、
「花の妖精は無類のいたずら好きなんだ。
声が聞こえても相手しないのは常識だぜ」
と呆れるように言った。
「自慢じゃ無いけど常識がないからねえ!!
この世界については初心者だからねえ!!」
「お前の世界には妖精もいねえのか」
「そりゃそうよ、魔物自体いないもの」
「え、それお前今まで言ってたか?」
「うちの世界では魔物はいないのが常識なのよ!!!
わざわざ言わなかったかもしれないわよ!!!」
あちゃ~、と頭を抱えるルカリア。
「まあ、覚悟しろよ。
あいつら鬼のように情報が早いから、
こっからしばらくからかわれ放題だぜ」
「きゃはは、新しい『まもの使い』様は間抜け!!
きゃははは!」
歌うように大騒ぎしながら、妖精たちは散り散りに去って行った。
ーーー
「…腹立つわね…」
「な、だから言っただろ」
歩くのを再開した二人だったが、そりゃあもう周りが煩い。
「やーい、間抜けー!」
「間抜けぇ!」
街道に咲く花に出会うたび、そこにいる妖精たちが間抜け間抜けと騒ぎ立てる。
「うるさ…」
「しばらくは我慢だ」
「しばらくっていつまで?」
「うーん…次の街を出るくらい?」
ルカリアがあからさまに適当なノリで答えると、
「キャハハ!」
とさっきのスズランの妖精がまた躍り出てきた。
「げ、まだ着いてきてたの?しつこいわね」
「しばらくなんてつまんないわ!
ずーっと、国中どこまでも知らせてやる!
あんたはずーっと間抜けのまもの使い!」
キャハハ、とまたキラーヤの周りを飛び回る。
『頭きた』
私が何したってんだ。
ついにプッチンきたキラーヤは右手首を掴むと「開示」を行い、己のスキルページを隅の隅まで読み漁る。
『うん、使えそう』
キラーヤはメニューページを閉じて仁王立ちになる。
「お…おい、」
「ちょっと黙って」
妖精は相変わらず、
「やーい間抜け!
何とか言ったらどうなの?やーい!」
と飛び回る。
『集中すれば多分いける』
キラーヤは己の前で軽く両手を構えた。
「やーい、やーい、やー…あ?!」
ガバッ!と魚のつかみ取りをするようにスズランの妖精を捕獲すると、キラーヤは
「『捕獲』!」
と叫んだ。
「な、何?!離しなさいよ!!」
妖精は騒ぐが、身動きが取れずじたばたしている。
「離せっ・・・!これ、何で?!動けない!」
「『捕獲』スキル発動成功したってことかな。
初心者でも案外うまくできるもんだな。
・・・で、妖精さん」
「ヒッ」
目が据わったキラーヤは無表情で妖精を見下ろし、
「あんた、私に何の恨みがあるわけ?」
と冷静に問いかけた。
「う、恨み?そんな大層なもんはないわよ、
何言ってんの?」
未だ藻掻くのをやめない妖精はそう吐き捨てる。
「じゃあなんでこんなにしつこい訳?」
「そんなに怒んないでよ。
可愛い悪戯に決まってるでしょ?」
「あのねえ。
全く可愛くないわねえ。
そもそも悪戯もしつこさが過ぎると、
そりゃただの嫌がらせって言うのよ!」
キラーヤが一喝すると、
しゅん、と妖精はとたんにしおらしくなる。
しょぼしょぼと眉を下げると、
「ご、ごめんなさあい・・・
私、ただ遊んで欲しくて・・・」
力なく羽を畳み、大きな瞳から朝露のような涙をぽろぽろ零す。
「ゆ、許して、ゆるしてほしいの」
見ると周りの花の妖精たちも同様にぽろぽろ泣いている。
みな同じように祈るように手を組み、
お人形さんのような可愛らしい顔を涙に濡らしている。
『ははーん』
どこかピンと来たキラーヤ、一旦妖精を捕獲したまま再度メニューページを繰ってみる。
『これも試してみるか』
説明を熟読し、ちらりとルカリアを窺い見る。
『上手くいかなかったらよろしく』
視線でこれでもかと訴えかけ、今度は妖精に語りかけた。
「・・・仕方ないわね。
もうすんじゃないわよ」
「わ、わかった、ごめんなさあい・・・。
だからこれ、解いて・・・」
キラーヤは少し膝を落として構え、「解放」と呟いた。
途端に動けるようになった妖精、キラーヤの手をぴょーんと飛び出して騒ぐ!
「やーい、また引っかかったー!
反省なんかするわけないじゃん、まぬ・・・?!」
「『捕縛』」
膝を落としたキラーヤの両手から蔦のようなものが飛び出し、
妖精をまた雁字搦めに捕まえた。
今度は羽ごと捕まえたため、哀れ妖精は草原にぽてっと落ちる。
「できるじゃん!ぶっつけでもやれるじゃん!」
キラーヤはその蔦をしげしげと観察してから、
ザリ、と草花を踏みしめ、
「さて、どうしてやろうかしらね」
と迫った。
「ヒッ・・・!」
とスズランの妖精は声を失い、
周りの妖精は今度こそハラハラしながら見守っている。
「ねえルカリア、妖精たちの元締めっていないの?」
「あぁー、よく知らんなあ。
妖精王ってのは聞いたことあるけど」
「近くにいたりしないかなあ」
「まあ、その辺りはそいつに聞けば」
なあ?
ルカリアは悪ーい顔で、
しゃがみこんでスズランの妖精を睨めつけた。




