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「ところでダスティ」
「なんでしょうか」
皇帝からダスティ、と問われたのは先頭でキーラを迎え入れてくれたダンディである。名前ニアミスかよ。
「建前はさっき聞いたとして、
本当のところはどうなの?」
「『まもの使い』ですよ、陛下」
「またとんでもないジョブを引いたな」
え?え?あっさり『まもの使い』って言っちゃった?
「えーっと・・・秘匿されるんでは・・・」
「キーラ殿、申し訳ない。
『まもの使い』はちょっと要申告です」
ダンディことダスティは事もなげに言う。
「さ、さっきジョブ不明って誤魔化してくれたのは」
「建前ですよ、こういう方針でよろしく、っていうね」
「そういうこと」
皇帝陛下もそれで良し、と頷いている。
「ダスティたちが策を立てたんでしょ?
皇帝としてはそれにGoを出しただけ」
「いいんですか、それで」
「彼らへの信頼の賜物だと思って欲しいね」
それに、と続ける。
「魔物の大量発生は実際起こっている。
だが現在のところ目立った実害はなく、
わが国の防衛機能は問題なく回っているのだ」
「じゃ、じゃぁなんで私が召喚されたんですか…」
「防衛のために膨大な予算をつぎ込み続ける訳にはいかないからな。
根本解決にはやはり聖女を迎えたかったのだ。
それに、今代にソイツがいたことも大きい。
ソイツほどの秘術師は歴代見てもそういない」
と、元『秘術の賢者』を顎でしゃくった。
本人は涼しい顔でアイスティーを飲んでいる。
「ともあれ、こちらの都合に巻き込んでしまったことにはお詫び申し上げる。
万全のバックアップを約束するよ」
皇帝に深く頭を下げられると、キーラとしては「はぁ」としか言えない。ずるい。
「城の蔵書の中に、
確か稀少ジョブについてまとめた書があったはず。
トライツ、そうだな?」
「その通りです。聖女ジョブもまもの使いジョブも、
その中に記載があります」
「ならばそれを学んでから旅に出るがいいさ。
その男は秘術には強いが、それ以外はからっきしだからな」
その男、と顎でしゃくられた元『秘術の賢者』は肩を竦めて反論する。
「からっきしは言い過ぎでしょう」
「しかし、大事な召喚者を守る仕事だからな。
気合いを入れろよ」
「そこは合点承知です。死ぬ気で守りますよ」
真っ赤な瞳を向けられ、キーラはちょっとだけ、ちょっとだけドキッとする。
「まぁ本物の『まもの使い』なら、
俺の首が先に取られそうですがね」
余計な一言がなければ良いものを。
キーラは半眼で男の顔を見つめた。
-ーーーーー
「あった、このページです」
翌日、トライツの案内で王家の図書室へとやってきた。
メンツはキーラと三賢者の四人である。
「稀少ジョブ名鑑」と題されたその分厚い本は、蔵書の中でも特に古いものが陳列された棚にあった。
驚いたのは、トライツが全く迷いなくその本を手に取り、目次を開くことなく該当のページを開いたことである。
「トライツくん、君凄いねえ」
思わずそう声を掛けると、
「僕じゃなくて『知の賢者』が凄いんですよ。
ちなみに国中のあらゆる情報がここに入ってます」
と、自身の頭をトントン叩く。
いや、だからその『知の賢者』が凄いっていうね。
「えーと、何なに?
『まもの使い』・・・『まもの』を操る特殊能力。
その能力から別名『魔王の伴侶』とも称される、ってよ」
元『秘術の賢者』が項目の最初を読み上げる。
キーラも本をのぞき込み、文字を追った。
『まもの使い』が確認されたのはネフェリ歴1600年(今は2026年らしい、あら偶然)。
出自不明の女性がとある村に現れ、記憶喪失であるという申告のもと、例外的に再度のジョブ鑑定が行われた。『まもの使い』であった、という本人の言があった後、姿を消したという。
再度彼女が人々の前に姿を表したのは3年後。
数多の魔物を従え、最初の村にやって来た。
魔物の力を自在に操り、たった一晩でその村を滅ぼしたという。
魔物たちはまるで従者のように彼女の指示に従い、その力を振るったという。
その後度々女性は魔物と共に現れ、
人々を恐怖の渦に陥れた・・・ということだった。
挿絵には黒い衣服を来た黒髪の女性が竜のような魔物に乗り、後ろに大量の魔物を引き連れている様が描かれている。
彼女は悪名高い能力者として記載されているが、功績として数多くの未確認魔獣が実在するものであったことを示した、ともある。
「その根城は国のはずれ、
『ルトアールの霧の丘』にあるとも言われる・・・
ですって」
皇女ナディーンも興味深そうにのぞき込んでいる。
「うーん・・・あまり能力自体のヒントはないんですよね」
考え込むトライツに、キーラは言う。
「そうみたいね。
でも、本当に旅に出るなら、行き先は決まったわね?」
「『ルトアールの霧の丘』か」
元『秘術の賢者』が腕を組む。口をへの字に曲げ、難しそうな顔をしている。
「なに、駄目そう?」
「いや、行けないことはない、が。
相当過酷だぞ」
「え・・・」
「山あり谷あり、森あり川あり・・・
まともな奴は棲み着かないエリアだな」
トライツが帝国地図を出してきて、ここです、と指を刺す。
そこは帝国の中でも未開拓の領域であり、高い山に囲まれてぽつんと開けた地であった。
「ここを目指すのって例えば何者?」
「冒険家」
もうこのやりとりで充分察した。
駄目な気がする。
「しかしここにしかヒントはないんだ。
行くしかないだろ」
「でも私ヒョロヒョロのインドア派でして」
「問題ない、俺がサポートする」
バン、と不安そうなキーラの背中を叩くと、
「理想を言えばだな。
お前がさっさと『まもの使い』ジョブを使いこなせればいい。
そしたら危ないところへ行く必要もない」
と突き放される。なんだこの飴と鞭。
「能力把握が急務というわけですね」
苦笑いのトライツも笑顔でお尻を叩いてくる。
「であれば、皇都の森に行くのはいかが?」
皇女がおずおずと提案する。
「あそこなら、ごく弱い魔物しか出ませんし。
今のところは、ですけど」
「でも、もし私のところにわんさか魔物が寄ってきたら」
「その時は『秘術』、頼みます」
「よしきた、その方が簡単だ」
・・・と言うわけで、近日中に皇都の森で腕試しをする羽目になったのであった。




