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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag


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「さぁ、急ぐよ!

 本当に時間がないからね!」


キラーヤはディアドラと「僕も!」と付いてきたクダギツネと共に壺の中に飛び込み、ダイニングに紙を広げてリストアップを始めた。


「まずは点滴!

 あのね、人間のここ、肘の内側の血管から、

 足りない水分や栄養を補うの。

 この血管を刺せるくらいの細い針を持つ魔物は?

 あとその針、筒状じゃないと駄目なのよ。

 そういうのいる?」


ディアドラは目を閉じて己の知識をフル稼働させる。


「・・・います。

 ハチドリの魔物で、ニードルバードと言います」


「針鳥、ってこと?」


「そうです。ハチドリは華の蜜を吸いますが、

 ニードルバードは樹液を吸います。

 くちばしが針状で、樹の肌に突き刺して飲みます。

 樹上に巣を作り、親鳥は巣近くの樹の肌に針を刺すと、

 そのくちばしを根元から折ります。

 そうするとその刺さった親の針から樹液が巣に垂れ、

 雛はそれを吸うのです」


「そ、それ、親はどうなるの」


「くちばしはすぐさま再生します。

 これが魔物たるゆえんですね」


「なるほど。・・・使える。

 あとその針に管を繋ぎたいんだけど、

 思い当たる?」


「うーん、ちょっと明確ではないですが、

 賢いスライムならできるかもしれませんね。

 普通のスライムでなく、上位種がいいです」


「分かった、頼んでみよう」


「流量調整もスライムに任せられるかも知れません」


「なにそれ、スライムってそんなに賢いの?」


「ええ、賢いです。

 彼らが身体が弱いにも関わらず繁栄できているのは、

 自然界で賢く立ち回っているからです」


「へえ」


「次は何が必要ですか」


「気管チューブが欲しいなぁ。

 あ、これもスライムができるか」


「チューブ系は恐らく可能でしょう」


「じゃあ、電気に強い魔物は?

 微細なものから強いものまで」


「それであれば・・・そうですね、

 ニフラートはどうでしょう」


「どんなもの?」


「カモノハシのような姿の、 

 水辺に巣を作る魔物です。

 個体同士の会話や餌の感知に電気を使うとされ、

 また敵に襲われたときには電気ショックで応戦します」


「それいいね。会いに行こう。

 あとは可能ならだけど、

 身体の中をのぞき見できるものがいればなあ」


「ちょっと思い当たりませんが・・・

 そうですね、もしかしたら、

 湿原の瘴気だまりの主が可能かも」


「げぇ、主か」


「ええ、湿原の主は付喪神です。

 大きな姿見が魔物になったのですが、

 鏡の中へ人を誘って観察するのが趣味なので」


「ほぉ・・・」


「あとは?!」


「一旦そんだけ!すぐ行こう、どこがいいかな」


「す、すとーっっぷ!!」


ガタガタと椅子から立ち上がり、急いて出発しようとする二人の前に、クダギツネが机に飛び乗って二本足としっぽで立ち上がり、短い両手を広げて必死に止めるような仕草をする。


「な、なに、どうしたの」


「あのね、魔物が人間に襲われてる!」


「ハァ?」


魔物が?人間に?襲われてる?


「逆じゃなくて?」


「魔物が!武器いっぱい持った人間に!」


言われたキラーヤ、クダギツネと視界を共有すると。



「ほ、ほんとだ・・・」



武装したたくさんの人間たちが、手当たり次第に魔物を捕らえ害している様が見える。


「っていうかここ、どこよ・・・」


「キラーヤ様、私にも視界を共有できますか?」


「あ、又貸し的な?できるかな」


やってみたらどうやらできたようで、ディアドラは手を顎に添えて考え込んでいる。そしてややあって、


「・・・キラーヤ様。好機です」


と、にやりと悪い顔をして笑った。


「ここは恐らく湿原の瘴気だまり近く。

 そして主はただ長く生きているだけの付喪神。

 戦闘力はほぼありません。

 ・・・ここはひとつ、盛大に貸しを作りましょう」


「・・・なるほど」


すっかり悪い顔が板についたキラーヤも、口角をいやらしく吊り上げしめしめと笑う。


「出動!クダギツネ、首に巻き付いて!」


「あいあいさー!」


「では私は先に参ります」


そういって目を爛々とさせたディアドラが壺から出て行き、転移したのを確認してキラーヤも支度をした。


「壺収納ok、忘れ物なーし、

 魔力充分、よし万全!

 座標ディアドラ、転移!」



ーーーーーーーー



湿原の瘴気だまりの主、姿見の付喪神であるロットンは困り果てていた。


「何でそんなことになってんのよ~・・・」


湿原に立つ古い古い屋敷の中で、その姿見は長い時間を過ごしている。

屋敷が朽ちぬよう自らの魔力で保ちながら、世界のありとあらゆる鏡を行き来し、ロットンは悠々自適の暮らしをしていたというのに。


同じ瘴気だまりの魔物である巨大なフクロウが慌てて飛び込んできて、「湿原の魔物が手当たり次第襲われている」という情報をもたらした。


ロットンは姿見の装飾として付けられている妖精の姿を借り、フクロウの周りを飛び回って慌てふためいている。


「何で?」


「それは儂が知りたいくらいですわい」


老齢の大フクロウはふん、と鼻息荒く羽を震わせると、「とりあえず見てみられるが良い」と促した。


ロットンは頷くと鏡に戻り、湿原の水鏡のひとつへと飛んだ。


「うわ、踏み荒らされて水面が大揺れだわ」


滅多に人の訪れない静寂の湿原は、普段であれば静謐な水鏡がそこかしこにあるロットンの庭だ。大きく揺れる視界の中、大仰な武装をした人間たちが大きな武器を振り回し、また秘術で濡れた魔物を感電させたりしている。


「な、なんでよお・・・!

 ここの魔物はみんな大人しいでしょお・・・?!」


ここ湿原の瘴気だまりは、水を介しているからか瘴気の濃度はやや低く、戦闘力の低い魔物が産まれやすい環境だった。そのため普段生息する魔物達はみな優しい性格で、争いを好むものは多くない。それが災いし、今抵抗する術もなく蹂躙されている。



「ど、どうしよう・・・! 

 私こんな時、何にもできない・・・!」


「あんたそれでも主じゃろ、何か考えなされ」


「殺生な~~~!!」



屋敷に戻ったロットン、大フクロウと喧々諤々と言い合いである。もはやパニックと言って良いロットンの前に、



「助けが必要かしら?」



とやけに落ち着き払った声が響いた。



「だ、誰?」


ロットンが妖精の姿で辺りを飛び回ると、大扉の暗がりの中から、長い黒髪を後ろに流した人間の女性が現れた。


「あ、あんた、人間!

 うちの子たちに何してくれてんのよ!!」


「おあいにくさま、私はあの人間たちの仲間じゃないのよ。

 わたしは『まもの使い』キラーヤ。

 初めまして、湿原の主」


「まもの使い・・・?!イルゼのほかにいたの・・・?!」


「久方ぶりです、ロットン」


さらに暗がりから現れた魔人を見て、ロットンは震え上がる。


「で、で、出たァ!!

 ささささ去れ!!すぐさま去れー!!」


「あらあら、そんなこと言っていいんですかね、

 せっかくキラーヤ様のお慈悲で助けてあげようというのに」


「た、助け?!

 ・・・そうか、まもの使いなら!!

 まもの使い、お願い助けて!!」


妖精の姿でキラーヤに縋り付くその姿を見て、キラーヤは痛ましい顔で優しく語りかける。


「おお、湿原の主よ。

 美しい湿原が魔物達の血で汚されるのは、

 私としても胸が痛みます」


「で、でしょお?!」


「しかしながら私はまもの使いとしては未だ未熟。

 それなりの覚悟を以て当たるべきでしょう、

 それがそう、命に関わることもあると」


「そ、そうよね、そうだよね」


「もし命からがら事を成せた暁には、

 主様は私の功に報いてくださるでしょうか」


「も、もちろん!

 何でも言って、できる限りのことはするよ!!」


「・・・本当によろしいのですね?」


「任せて!!だからお願い、力を貸して!!」


「・・・聞きましたね?ディアドラ」


「は、確かに」


キラーヤはその弱々しい表情を一転させ、いつの間にか後ろに控える魔人そっくりの悪い顔になっている。


「ヒ・・・」


小さな羽を震わせ、ロットンはおびえた。


その姿をにやりと一瞥し、まもの使いはその身を翻す。


「行くよ、ディアドラ」


「仰せのままに」


扉の向こうに二人が消えたあと、一部始終を見ていた大フクロウは盛大にため息をついた。


「まんまとやられちまいおって」


「やっぱり・・・?!」


「とりあえずあんたは首を洗って待っとることじゃな」


「あぁ~!私の馬鹿~!!」


哀れなロットンの嘆きが、屋敷に響き渡った。

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