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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag


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ダンジョン図書館の奥、『知の賢者』の寝床で、

隣の個室で眠るトライツに気付かれぬよう、ルカリアは自らに回復魔法をかけた。



トライツには悪いことをした。

やっと目的の資料を見つけたと思ったら、今度はルカリアがギブアップ宣言だ。


『まずは救援を呼びましょう、

 僕は付き添いますから』


青い顔で言い募る青年を安心させるために、ルカリアは無理に食事を取り、またいつも通り寝台に入った。



・・・ダンジョンに潜り資料を調べるさなか、ルカリアは己の体調が急速に悪化するのを感じていた。


一度に吸える息が少なくなり、努めて深呼吸をしないと頭がぼうっとする。身体が怠く、座っているのもやっとの状態だ。幸運なことに痛みなどはなく、苦痛に顔が歪むことはあまりない。トライツとは手分けして資料をあたっているため、姿を見られることも最小限だったことも幸いだった。


そうして誤魔化して誤魔化して、ルカリアは己の限界を感じていた。


『この力の入らぬ手足では、

 もはや地上まで戻るのは難しい』



寝床の天井を見つめながら考える。


体力の低下とともに、魔力量の減少を感じ取ってもいる。

秘術を使っても地上へはたどり着けないだろう。

トライツは多少の秘術は使えるが、ルカリアを地上まで運ぶのは恐らく難しい。


救援を頼むとしても時間はかかるし、病人を運ぶのには複数人数必要だ。


『ダンジョンで朽ちた骸は、

 人知れずどこかへ吸収されるという。

 踏破されたものも同じだろうか』


持ち上げた腕を額に乗せ、息を吸って、吐く。

痩せた腕に引っかかった金の細い腕輪が目に入る。


『今この腕輪が震えても、

 駆けつけてやることもできない。

 すまない、キラーヤ』


彼女の修行はどうなっただろうか。

連絡がないのを怒っているだろうか。

体調を崩してはいないだろうか。



不甲斐ない。


明日になったら、トライツには瘴気の危険を話しておこう。

あの優しく賢い青年なら、有効にこの情報を使ってくれる。



たとえこの身が近く朽ちるとしても、それで後に続く誰かが救われるなら。


まぁ悪くはない、とルカリアは思った。



ーーーーーーー


「で?」


キラーヤは国王相手に凄んだ。


「話は分かりました。

 ルカリアはまだロインの地下にいるんですね」


「ああ、そうだ。

 トライツが付き添っている」


「なぜ引き上げないのです」


「引き上げるさ。まだその時期じゃない」


「その時期とは?

 病を得た人を長く放っておく理由が分かりかねますが」


国王は言いづらそうに言いよどんだ。


「・・・ルカリアの病は、回復術が効かんそうだ」


「で?」


「で?って・・・」


あっけらかんと聞き返すキラーヤに、国王のほうが頭を抱える。


「回復術が効かなくて、

 なぜ放置する理由になるのです」


「・・・これは、こちらの世界と貴殿、

 価値観が違うかもしれんな」


国王は幼子に語るように、キラーヤに言葉を選びながら伝えた。


「我らが教義において、

 回復術が効かんということは、

 すなわち女神のお呼び・・・死を意味する。

 

 生きとし生けるものはいつか皆死ぬ。

 

 回復術で賄いきれぬ病や怪我や老い、

 それらは女神が御許へ導いている証。

 

 それらに抗うことは女神への背信行為だ」


「・・・背信行為?」


「回復術士がネフェリ教の神殿に属するのも、

 その価値観からだ。

 彼らは回復術の効き目で女神の思し召しを見定め、

 女神の許へ人々を導く」


「・・・続けてください」


「ネフェリ教のご神体は『女神の慈悲』と呼ばれる結晶だ。

 回復術の手の及ばない患者は、 

 神体の力で苦痛が取り除かれ、やがて死を迎える。


 ・・・まぁ、ご神体の元で死を迎えられるのは、

 限られたごく一部の者だけだがな」


語り終えた国王に向かい、キラーヤは畳みかける。


「で?話を戻します。

 回復術が効かないのも、

 貴方方がそれに抗うつもりもないのも理解しました。

 ではなぜルカリアを地下に置いたままなのです」


国王は淀みなく言った。


「・・・あそこには、

 『ご神体の間』に繋がる魔方陣があるからだ」



ルカリアの身体が限界を迎え次第、その魔方陣から神体の間へ送り届ける。


ルカリアはもはや、日の光を見ることはあるまい。



・・・キラーヤは静かに怒りをたゆたわせた。


「・・・なるほど、理解しました」


キラーヤの目は据わり、国王を真正面から見据える。


「ですが、受け入れはしません」


「だが!」


キラーヤの口角が不敵に上がり、その目はギラギラと光を携えている。


「お聞きなさい、国王様。

 私は病を治す者。

 仮にそれが叶わなかろうと、

 患者も見ずにみすみす諦める真似はしません」


「病を治す・・・?!

 回復術士でもないのにか?!」


「私の世界には回復術はありません。

 ですが執念があります。

 病を克服するため、何百年もの間、

 しぶとく挑み、研究し続ける執念が」


「執念・・・」


「蓄積された知識や技術を後生に伝え、

 受け取った人々がまたさらに挑み続ける。


 ・・・人がいつか死ぬのは分かっています。

 

 それに抗うことに、どれほどの意味があるのか。


 その疑問を我々は常に持っている」


「キラーヤ殿、」


「ですが!

 生きたいという欲求ごと否定することは、

 我々の信条に反します!」


キラーヤは立ち上がり、宣言する。


「私はルカリアを治すために、

 これからやれるだけのことをします。


 背信行為を咎めますか?」


じろりと睨み付けられた国王は、しばらく呆けたように目を見張っていたが、ややあって首をゆるゆると振った。


「誰が・・・誰が咎められよう」


その声には湿度が籠もり、伏せたまつげには薄い涙の膜が張る。


キラーヤは満足そうに頷くと、

 


「よろしい。

 まぁ、私は『わるいまものつかい』ですからね。

 反対されてもやりますけどね」


と、その身を出口のほうへ翻した。


「ディアドラ、行こう」


「仰せのままに」


なぜか嬉しそうなディアドラを連れ、キラーヤは歩き出した。



ーーーーーーーーー



「国王、よろしいのですか」


取り残された国王へ、ダスティは問う。


「・・・今は私的な謁見だ。

 国王としては良くなかったかもしれんが・・・

 私人としてならいいであろう。

 

 親しい者を救って欲しいと、

 思うことぐらいは女神もお許しになるだろう」


「・・・そうですな」


「しかしなぜ女神はあのような教義を定めたのか」


「まったくです」


「執念・・・か。

 見違えたな、あの強さを見たか」


「ええ。末恐ろしい」


「監視は続けよ。

 危険な動きをしたら即刻報告。

 困るようなことがあれば・・・手助けせよ」


「は」



ーーーーーーー



「キラーヤ様、お見事でした」


「国王に向かってつい啖呵切っちゃったよね。

 さぁ、やれるだけのことはやろう。


 まずはルカリアのところへ向かわないと」


「しかしダンジョン内は広いです。

 到達するまでにどれほど時間を食うか」


「そうだね、何か手はあるかな」


「考えましょう」


そのとき、キラーヤの頭の中に九尾の声が響いた。


『キラーヤ!聞こえる?

 クダギツネが起きた!』


「起きた?体調は問題なさそう?」


『うん、今ご飯食べてる。

 キラーヤにすぐ話したいことがあるって』


「わかった、そっちに行く!」



ディアドラと顔を見合わせたキラーヤは、


「座標、九尾!転移!」


皇都の森へと姿を消した。



ーーーーーーーーーー


「どうだ、あの二人は」


「相も変わらず熱心なことで」


ネフェリ教本山の一室で、教会の幹部らしき二人の男性が酒を飲みながら語り合っている。


「背信の兆候はあるか?」


「全くないとは言いません。 

 が、概ね問題ございません」


話題の中心は、最近再修行を望んでやってきたふたりの若い回復術士の動向だ。


「若いとは素晴らしいことだ。

 ・・・我々回復術士は皆、一度は背信の道へ入る。

 貴殿もそうであろう」


「ええ。背信の誘惑は抗いがたいものです」


「・・・病を治したい。

 だが人はいつか、女神の許へ帰る。

 

 私はな、その葛藤こそが宝だと思う。

 それが彼らの回復術を強くし、

 人々の安らかな旅立ちの一助となる」


「そのとおりですな」


「・・・そろそろ、あの二人にも任せてみよう。

 『ご神体の間』の業務を」


「ええ、仰せのままに」


回復術士の先達の声は、若い回復術士への期待と愛情に満ちていた。

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