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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag


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トライツに先導され、ルカリアはダンジョン内に作られたロイン大図書館の中を、下層に向かって歩いていた。


「さすが慣れたものだな、トライツ」


「ここには幾度となく来てますからね」


「知の賢者は大変だな」


「それがお役目とあらば、これくらい」


…なぜトライツがこの場所に慣れているか。それには理由がある。


「…最下層に、『過去の叡智』があるのだったな」


「ええ、そうです」




ー『知の賢者』とは、『過去の叡智』の器である。


この世界には、「器」というジョブを持つ者がいる。教えを吸収する能力に長け、どの分野でも成功しやすいと言われている。


そして『過去の叡智』とは。

この世界のあらゆる出来事や数値、学術的知見、文学…そういった知財全てを絶えず吸収し蓄える、古代から伝わる巨大な聖遺物である。


『知の賢者』たる資格を持つのは、「器」のジョブを持つ心身が健康な者のみ。



選ばれた者はその身を以て『過去の叡智』に記された知識をすべて受け入れ、生ける聖遺物となる。


トライツは若くして、聖遺物からの膨大な知を受け止めきった優秀な器であるのだ。



「一年に一度はここに来ます。

 『過去の叡智』に新たに加わった情報を受けるために」


「そうなのか。

 …そのときは一人で?」


「いいえ、必ず複数人で来ます。

 理由は…まぁ、追々分かりますよ」



ダンジョン内は定期的に光源が壁にぶら下がっており、昼のように明るくはないものの温かみのあるオレンジの光が足下を照らしている。


司書に呼ばれた本は書庫の中でふわりと光り、翼を広げるように上層階へと飛んでいく。同様に帰ってくる本に会うこともあり、ルカリアは初めて見る光景に魅入っていた。


「綺麗でしょう」


トライツはルカリアを振り返り、「珍しいお顔を見ました」と笑った。


「そんな変な顔をしていたか」


「いいえ。ところで体調は大丈夫ですか?」


「ああ、今日はまだ調子がいい」


「…最近、ルカリアさんの色んな顔を知れて嬉しいです。

 僕より先に賢者になってたから、

 あの初代を模した仕草の印象ばっかりでしたけど。


 キーラ様が現れてからのルカリアさんは、

 何て言うか凄く…人間くさくて良い」


「おいおい、言ってくれるな。

 …まぁ俺も、なりたくて賢者になった訳じゃないしな」


「そうなんですか?」


「ああ。

 知ってるだろうが、『知の賢者』と違って、

 『秘術の賢者』は前任からの指名と秘術師内での信任制だ。

 たまたまくじを引き当てちまっただけで」


「まぁ、ルカリアさんを信任しない人なんて、

 よっぽど目が節穴な人くらいでしょうねえ」


「もっと政治家みたいな動きができる、

 老獪な人物がなったほうが良かった」


「ああ、だからルカリアさんは、

 次代に老齢の秘術師を指名したんですね」


「その通り」


「サルバドール殿下はそれに大層ご立腹でしたけれど」


「困ったもんだ、あの坊ちゃんにも」



二人は順調に階層を降りる。

徐々に1階層ごとの面積は狭くなっていき、書庫に封じられた書物の内容も物々しいものが増えてきた。


・・・そして、最下層にほど近い深い下層で。



「ここの層はまた広くなってるんだな」


「ええ。

 ですのでここは、古い記録の保存庫になっています。

 ルカリアさん、着きましたよ」



聖女の手がかりに繋がる記録が眠る階層に、やってきたのである。




ーーーーーーー


「なんだ、これは」


「すべて切れている・・・ということでしょうか」



遠く古くなった記録の束は、いずれも図書館に関する秘術がすべて切れていた。


「そのようだ。

 ロイン大図書館に格納される書籍は、

 いくつかの秘術が重ねがけされる。

 状態保存の秘術だとか、

 応召の秘術・・・呼ばれたら出る、ってやつだな。

 あと帰巣の秘術が掛けられているはずだ」


トライツは古い記録のひとつをつまみ上げ、

綻びた綴り紐を引っ張り上げる。


「うーん、皇都の資料庫でも、

 一応状態保存はかけてあるはずなんですが」


「これを見るかぎり、

 この階層ではそれら全てが切れているだろう」


「では、どうしましょうか。

 資料を見つけるのは手動で、ということになるかと」


「仕方ない。

 探しながらこの階層の在庫をすべて地上に出そう。

 地上に出せば手分けして秘術のかけ直しができる」


「合点です」



ふたりは一度地上に戻り、ロイン大図書館の司書たちに状況を説明した。図書館に勤務する秘術師に皇都に応援を要請するように言い、そして地上での秘術かけ直しに了承を得、改めて図書館に潜ることにしたのである。


「次の滞在は長めになるでしょう。

 食糧や備蓄を揃えてきます。

 

 ルカリアさん、すみませんが、

 あの階層から本を運搬する方法をお任せしても?」


「ああ。考えておく」


「それが済んだら体調の回復に努めてください。

 回復士のところにも行ってくださいよ」


「分かった、すまないな」



ルカリアは自らの体調を考慮し、書籍の運搬には紐と木箱を使い、自らの魔力と体力の温存をはかることにした。

地上から目的の階層まで長い長い紐を一本垂らしておき、また本を入れる木箱にも紐を取り付ける。その先端を輪っか状にして通し、ダンジョンを縦断する紐に通す。


ルカリアは秘術を使い、縦断した紐をレール代わりにしたのだ。箱は上層階まで上っていき、また下ってくるという仕掛けを作った。



「まぁ、こんなもんだ」



・・・自分の仕事を終え、また食糧や旅支度を揃えたルカリアは、ロインの街を神殿に向かって歩いていた。


道中、息苦しさに腰を下ろしたベンチで呼吸を整えていると、道行く人の噂話が聞こえてくる。


「殿下はロインを何だと思っておられるのか」


「まったくだ。

 あんなことに協力する奴らも奴らだ。

 学術都市を汚さないでほしいものだ」


この街で殿下、といえばサルバドールのことだろうが。


『またろくでもないことを考えているのか』


まだ駆け出しの頃、幼いサルバドールを助けたという出来事があってからというもの、彼はルカリアに何かと関わりたがり、また余計な支援をしたがった。


金銭的な支援に始まり、屋敷に棲まわそうとしたり、『サルバドールお抱え秘術師ルカリア』などというふざけたキャッチコピーを付けられて、非常に仕事がやりにくかった時期もある。


もちろんルカリアはその都度断固として受け取らなかったし、はっきり迷惑だ、足手まといだとも言った。


だが彼は意に介しない。


「ルカリア、どうだ、嬉しいだろう」


と、ルカリアがその好意を受け入れると疑わず、性懲りもなく同じようなことを繰り返すのだ。


『悪いが今は、あの坊ちゃんに構っている暇はない。

 俺に関係のない事であることを祈ろう』


ようやく落ち着いた身体をまた鼓舞し、神殿でまたあの若い回復術から施術を受け、そうして翌日、ルカリアとトライツはまたダンジョンへ潜ったのだった。



ーーーーーーー


「書籍の書架番号まで頭に入っていれば、

 楽ができたのになぁ」


トライツはバサバサと書籍を捲りながら、「違う、これは店の開店届一覧」と呟き、それを木箱に放り投げた。


「まぁ、気長にやろう。

 良い寝床もできたことだし」


隣でルカリアも同じように本を捲りながら笑う。体力ももったいないため、書庫から山のように書籍を積み上げ、あぐらをかいて座り込み、次々と本を手に取っていく。


「驚きました?あんな部屋があるって」


「ああ、驚いた」


今回二人が寝床にしたのは、『知の賢者』がダンジョンに潜る際に使われる宿泊所だった。

最下層近くにあるその部屋は、中に暖炉があり、キッチンやトイレがあり、ちゃんとした家のようだった。

食料庫には既に多くの保存食品が並べられており、加えて今回持ち込んだ物品があれば、何の不自由もなく過ごすことができる。


「毎年来るところですからね、

 ちょっとした別荘代わりなんです」


「なるほどな」



・・・広い階層の書庫を、ふたりは何日もかけて見て回った。見ては木箱に入れ、また次の書庫を見ては木箱で地上へ送る。


時間を決めて休憩し、夜には宿舎で食事や娯楽を楽しみ、少しなら酒も飲んだ。


そのゆっくりとした作業と同じ足並みで、ルカリアの体調も徐々に悪化した。


そして、


「ルカリアさん、ありました」


トライツがようやく見つけ出した、聖女が存在した時代の収穫量と人口推移の資料。それにルカリアが丁寧に状態保存をかけ、木箱とは別の封筒に入れて皇都へ送り出した直後、


「悪い、トライツ。


 俺はもう地上に上がれそうにない」



ルカリアはそうトライツに告白した。



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