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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag


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ーー時はルカリアがトライツと共に皇都を出発したのと同じ頃。



「ええい、何だこの通知は!!」


ロインにある皇室所有の屋敷にて、サルバドールは吠えていた。


「今朝早馬で届いたものでございます」


側近の男が差し出した書簡を、サルバドールは穴があくほど凝視する。


「聖女召喚を中止せよ、だと・・・?!

 何を勝手なことを!!」


「まぁ、案の上皇帝陛下にはバレてたんですね。

 しかし、理由が気になります。

 聖女の能力について新たな危険性が示唆された・・・と」


「ということは、召喚したとかいう異世界人、

 本当に聖女だったと言うことか」


「それが自然でしょう。

 僕が皇宮で仕入れた情報だと、

 召喚当初能力が開花していなかったために、

 修行としてこの世界を回るため、

 ルカリア殿と一緒に旅に出たと聞いています。

 

 ・・・それも本当だったとすると」


側近はじろりとサルバドールを見つめる。


「な、なんだ」


「殿下の企みはなかなか愚かですね」


ぐっ、とサルバドールは喉を詰まらせる。


皇帝の言葉を勝手に疑い、勝手に虚偽と決めつけ、

勝手に皇家の名を使い協力者を募って聖女召喚のやり直しを企てた。


「だ、だったら!

 ルカリアが賢者を降りる必要もないではないか!」


「いやぁ、賢者って言ったら公職ですからね。

 色々引っ張り出されて旅になんか出てられないでしょ」


「し、しかし…!ルカリアが降りる必要は…!」


「殿下はあれでしょ、

 ルカリア殿が賢者から降りたのが気に食わないから、

 誰かを悪者にしてルカリア殿を無理矢理戻そうとしただけ」


「お、お前、誰に向かって…!」


「で、どうなさるんですか」


側近は遠慮もなくずい、とサルバドールににじり寄る。


「どうって・・・」


「集めちゃった協力者たちですよ。

 聖女召喚についてはまだ触れ回ってないとしても」



サルバドールはロインを中心に、ありとあらゆる方面の有力者に声をかけていた。幸い「サルバドール主導の計画」としか触れてはいないが、少なくない人数が手を挙げている。



「ど、どうする」


「それを考えるのは殿下でしょうが」


「お、お前、役に立たん奴だな!!」


憤慨するサルバドールを横目に、側近はどうでもいいというように耳に指を入れ、明後日の方を見てやり過ごしている。


するとそこに、扉をノックする音が響いた。

これ幸いと側近は扉のほうへ逃げだし、入室してきたメイドと入れ違いで「少しお手洗いへ」と去って行った。


困惑するメイドにサルバドールは「何用か」と短く問うと、

メイドは持参したトレイを掲げ持って見せた。


「殿下、書簡が届きましてございます」


受け取った書簡は良質な紙が使われており、封筒に直に「殿下の新事業にあたりまして」と記載がある。ただし差出人の名が封筒のどこにもなかった。


「これは誰が?」


「配達員でなく、

 下男のような身なりの者が直接持ってみえました。

 早急に殿下のお耳に入れるようにと」


「そうか・・・。わかった、確かに受け取った」


「ありがとうございます」



メイドを下がらせると、ペーパーナイフを入れ開封する。

中にはこれも質の良い便せんに、短文が添えてあった。



『秘術師ルカリアは皇都へ戻られた

 知の賢者とともにロインへ

 異世界人とは行動を別に』



とたった一言の書簡である。



「これが事業にどう役立つと?」


便せんをひっくり返して見たり、何か他の情報が隠れていないかと封筒を覗いてみたりするが、何もない。


「そしてこの文面。

 聖女召喚計画を知っているかのようだ」


差出人の情報はついぞ分からず、サルバドールはその不気味さに顔をしかめた。


が、ふと気付く。


「いや・・・待てよ。

 なぜルカリアは異世界人から離れた?

 聖女であるならば、皇都にお連れするのが筋だろう。


 それに、父上からの書簡。

 『聖女の能力の危険性』とあったな。


 つまりこれはどういうことか」


サルバドールは無地の紙を取り出し、ペンを構えた。

思いつくままペンを滑らせながら、背後に隠されたストーリーに思いを馳せる。


「まず、なぜロインへ向かったか。

 可能性が高いのは図書館だろう。

 聖女の能力について調べでもするのか」


ペン先は止まらない。サルバドールはいつもこうだ。

何か書きながらだと思考スピードが上がる。


「しかしその前に、なぜ皇都に戻った?

 聖女が危険と知りながら、

 単独行動を許すとは思えない。

 ルカリアはそんな愚鈍な判断はすまい」


思案する中ふとある可能性に気付き、サルバドールのペン先は止まった。



「もしや・・・ 

 聖女は既にルカリアが処分したか」



そうだ、きっとそうだと、

サルバドールは己の血潮が沸き、気分が高揚するのを感じ取った。

さらにペンのスピードは上がる。


「それならば! 

 戻れる、ルカリアは賢者に戻れるぞ! 

 聖女の力を覚醒させ、危険性を見いだし、

 そしてしかるべき処分をして皇都へ戻った。

 既に知の賢者と行動を共にしている!」


ルカリアが再び栄光の地位に返り咲くならば、

そのサポートはどのようにする?


今、サルバドールができることは。


思い立った計画を、サルバドールはことさら丁寧に、力を込めて書き記した。


『聖女召喚の原因となった魔物の大量発生を、

 第二皇子サルバドールの名の下鎮圧する』


書かれた一文を満足そうに見つめ、サルバドールは思い出していた。


あの美しき天才秘術師に心奪われた、その日のことを。




ーーあれは10歳になったある日、サルバドールは路地裏で震えていた。



幼少の頃から何よりも読書を好んだサルバドールは、市井で古本屋事業を営むボリード男爵に連れられ、市井にやってきていた。


珍しい書物が手に入ったという誘いに乗りやってきたその店の扉には、「臨時休業」の文字。


ボリード男爵は申し訳なさそうに、


「申し訳ありません、殿下。

 臨時休業の知らせまでは私には届かなかったようで」


と頭を下げた。


「仕方あるまい。また日を改めよう」


残念ではあったが、どうにもならないことはある。

サルバドール皇子は皇宮に引き返そうとするが、男爵は渋る。


「いや、それでは私の気が済みません。

 まだどうにかできるかも。

 殿下、もう少しお時間頂けますか」


「まぁ、それはいいが」


「では、そちらのベンチにて少しお休みください。

 私は少し出て参りますので」


「お、おい」


とサルバドールが止めるのも聞かず、一人だけ馬車に乗り、何の共も置かずさっさと行ってしまったのだ。



・・・ぽつねん、と取り残された、飛び抜けて身なりの良い少年が、無事でいられる訳もなく。



「なんだ坊ちゃん、ひとりか」


柄の悪そうな男たちに取り囲まれてしまった。


「どこの坊主だ?」


「知らねえなぁ」


「さあ、どうしてやろうか」


とたばこ臭い顔を近づけられ、サルバドールは息を止め涙目で首を振る。


『なんだ、この生き物は。

 皇宮の飼い犬のほうがまだ綺麗だ』


普段は身分の高い大人達に庇護されている立場で、このように粗野な平民を見る機会などない。恐ろしさと嫌悪で、サルバドールはパニックに陥った。


「ぼ、僕に構うな!」


10歳の持てる限りの勇気を振り絞り、サルバドールは駆けだした。


走って走って、目に付く角はすべて曲がって身を隠した。


・・・幸い男達は追ってこなかった。

体力が続く限り走って走って、ようやく後ろを振り向いた時、サルバドールは立ち入ってはならないエリアに足を踏み入れた事に気がついた。



『これが貧民街か』



饐えた匂い。

家とも呼べぬ幕の中から覗く、服とも呼べぬ薄いぼろきれを纏った、骨の浮き出た人々。その瞳だけは野犬のように爛々とし、サルバドールを観察している。



『立ち入ってはいけなかった』



恐ろしかった。


初めての飢えの香りを強烈に食らい、足がすくんで一歩も動けなくなってしまった。



住民達は落ちくぼんだ目で、何も言わずじっとサルバドールを睨み付けている。



喉が引き攣れ、吸う息が震える。

前進も後退もできず、ただ立ち尽くす。


そのとき、


「探しましたよ」


という声と共に、濃い青のマントがサルバドールの視界を後ろから抱え込むように遮った。


弾かれたように顔を上げ振り返ると、


そこには若く美しい、青い髪に赤い瞳の男が立っていた。


貧民街に響く声で、


「すまない、立ち入るつもりはなかった。

 見逃してくれるとありがたい」


と言い、耳元でそっと、


「飛びます。私に捕まって」


と囁いた。導かれるまま彼の胴に手を回すと、空気を蹴るように一息で飛び上がった。

目下には家々の屋根が連なっている。


「上手です。このまま跳びます」


と言うと、まるでバッタが高い草を飛び越えるように、大きく跳び上がって屋根屋根を越えていく。何度か着地と跳躍を繰り返して降り立ったのは、



「さっきの古本屋・・・」



青年は面倒そうに頭を掻くと、


「私はこの店のバイトです。

 店主がぎっくり腰で臨時休業だっていうから、

 家でゆっくりしてたのに。

 叩き起こされて店を開けろですって」


と、懐から大きな鍵を取り出しがちゃりと開けると、


「さ、どうぞ、お坊ちゃま」


と店へ導いた。


サルバドールは呆然と青年を見つめると、聞いた。


「なぜ僕が分かった・・・?」


居場所も、店を開ける理由が自分であることも、なぜこの青年は見抜いたのだろうか。


青年はふふ、といたずらに笑うと、サルバドールに目を合わせて言った。



「私はね、秘術師ですから」



そのにやりとした笑顔に見蕩れ、サルバドールは導かれるままに店に入った。



・・・ボリード男爵はほどなく到着した。


その間サルバドールの相手をしてくれた青年は、本の豊富な知識を持ち、また話が上手で勧めてくる本全てを読みたくなった。


熱に浮かされたようにおぼつかない足取りで帰った皇宮で、サルバドールは側近に願った。あの青年が誰か、探し出してくれと。



そして彼が稀代の天才と期待される新米秘術師であることを知り、ますます傾倒していくのであった。


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