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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag


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ロインにある皇家所有の屋敷の一室にて、ネフェリ帝国第二皇子サルバドールは思案していた。


「準備は整いつつある。

 だが、美しくないのだ」


側近である若い男が問う。


「美しさ、ですか。

 殿下は何を求めておいでなのです」


サルバドールはペンを手に取り、指の間でくるくると弄びながらさらに思案する。


「ストーリーだよ。

 僕はただ聖女を召喚できればいい訳じゃない」


弄んだペン先をカツ、と紙に押し当てると、インクが小さな黒子のように滲む。


「大事なのはストーリーだ。

 ルカリアをどう美しく返り咲かせるか。

 ここを間違えてはいけない」


そのままペン先を滑らせて書いたのは、「ルカリア」「聖女」の文字。


「まぁ、密やかにとはいえ、

 『秘術の賢者』の交代は公表されていますしね」


「ああ。だから筋書きをしっかりしておかないと。

 彼に最高の舞台を用意できるか。

 この『作家』サルバドールの腕の見せ所なのさ」



サルバドールは皇家の産まれであるが、その生まれ持ったジョブは「作家」であった。であればこそ、彼は勉学に励み、過去を学び、そして立ち回る。


国にとって最高の物語を描くために。


「彼ほど映える人物もそういない。

 ルカリアはこの国に必要なんだよ。

 ・・・だからやはり、用意しなきゃだよね」



カツ、と強い筆圧で書いたのは、


「悪役」


の文字。



のぞき込んだ側近の男がしかめっ面をし、


「誰がそのハズレくじをひかされるんですかね」


と暗に苦言を呈するがサルバドールは意に介さず、気分が良さそうに隣に重ねられた書状の束を手にする。


「・・・しかし、

 思ったより協力者が得られたのは僥倖だった」


「ばら撒いたかいがありましたよ。

 しかし、事業内容も知らずによく賛同できますね」


「皇帝の後継でなくとも、

 皇家と繋がりたい輩はこうもいるということさ」



サルバドールは再度ペンを走らせる。


さあ、どんな筋書きを用意しようか。


敬愛する美しき秘術師のために。



ーーーーーーーー


「大丈夫ですか、ルカリアさん」


ルカリアとトライツは、皇家の用意した馬車でロインに到着した。

道中ルカリアは体調の回復に努め、顔色は幾分良くなったように見える。


「ああ、よく休ませてもらったよ」


「まぁ宿に入ったら、

 とりあえず神殿に行きましょう。

 回復術をかけてもらって今日はお休みです」


「トライツ、すまない」


「何言ってるんです。

 ルカリアさんは大事な役目があるんですから。

 早く回復して仕事して、

 キーラ様のところへ戻ってください」


「あぁ・・・ありがとう」




トライツに宿の手配を任せ、ルカリアは勧め通り神殿へ向かった。

ロインの回復術士はあまり入れ替わりがなく、今回も顔見知りに会えるかと思っていたが、当たったのは年若い回復士だった。


「それでは施術を始めます。

 ご調子の悪いところはどこですか?」


「身体全体が怠いんだ。

 歩くとすぐに息があがる」


「息があがるのであれば、

 肺の臓におかけしましょう」


「ああ、頼む」


そう言ってルカリアが服を脱ぐと、「少々目を閉じていてください」と指示のあるままに静かに目を閉じる。


みぞおちの辺りに両手をかざされ、そこから温かな回復術が身体に触れてくる。術が肌を越えて臓に入る過程でチクリと刺すような感覚はあるものの、術が届いてくると呼吸も楽になり、身体がじわりと暖まる。


「・・・これで終了です。具合はいかがですか」


「息が楽になった。ありがとう」


「良かった、また近いうちにお越しください」


そうはにかむように笑う若い回復士は、ルカリアの言葉を嬉しそうに噛みしめている。


「ご高名なあなたに施術させて頂けたこと、

 光栄に思います。ルカリア様」


バレていたか、と苦笑いすると、再度礼を言って施術室を後にした。




ロインの大通りを宿に向かって歩くルカリアは、息苦しさに近くのベンチに腰掛ける。


「・・・やっぱり効いてないな」


施術直後は確かに効果を感じるものの、外に出て活動するとすぐ元通りだ。



『心当たりは、ある』


この体調不良の原因としてルカリアが思い至るのは、あの森の瘴気だ。


果実に含まれる瘴気が人間にとって毒となるように、空気に含まれる瘴気だって人間には害がある、と言われている。


あのハイエルフと対峙した湖のほとりは、すぐ近くに瘴気だまりがあったはずだ。ルカリアの目には瘴気は映らないが、可視化すれば相当濃い瘴気が漂っていただろう。


キラーヤはまるで平気そうだった。

だが、同じく何とも思わなかったルカリアは皇都についたあたりから徐々に体調を崩している。



・・・離れるべきではなかったかもしれない。


今もしかしたら、キラーヤだって体調を崩しているかもしれない。


キラーヤはまだ、神殿での施術の受け方も知らないはずだ。



『その辺は教授がサポートしてくれていると思いたいが』



ルカリアはキラーヤを案じていた。

体調の面でも、またその対処を魔人であるディアドラがどのように導くかも。


『魔物流の対処をされていたらどうする』


ルカリアには何も確証はなかったが、ずっと心の底を流れている不安があった。



『頼むから人間でいてくれよ』



『まもの使い』は・・・キラーヤは、いつか魔物そのものになってしまうのではないか。万が一その懸念が当たってしまったとして、その時理性が残っているとは限らない。



『俺は・・・あいつの命を奪いたくはない』



キラーヤがあまりに普通の、いやまぁあんまり普通じゃないが、いわゆる全うな人間だったため、ずっとその可能性を押し込めていたのだ。魔物のほうに揺らいだとき、自分が引き戻すつもりで。


ロインの大通りで、脚を怪我したキラーヤの手を引いて歩いたことを思い出す。



国への報告を優先した選択は間違っていないと、今も思っている。が、自分の体調が悪くなってから不安に飲まれるなんて。


「離れるんじゃ、なかったな」


小さな自嘲は、雑踏の中に消えた。



ーーーーーーーーー


「お二人とも、

 さらに研鑽されてのお戻りを期待しております」


ねずみ色の服を来た神殿の職員は、馬車に乗り込む二人ににこやかに声をかけた。



「はい、行ってきます!」


森近くの街の回復士であるリンネは、その激励に元気に答える。


「ありがとう、留守を頼みます」


そして同僚のシルヴァも、丁寧な見送りに礼をする。



・・・二人は先日、揃って神殿長に修行を申し出た。


「ほお、総本山で修行をし直したいと」


「はい、神殿長」


回復士はジョブが深く関係する数少ない職業だ。


成人すると共にジョブの鑑定が行われ、そこで「回復士」と出た者は申請を義務づけられている。そうすると神殿からスカウトが来るのだ。スカウトに乗るかは個人の自由だが、回復士の道を選んだならば、神殿の総本山に連れられ、そこで修行が行われる。


そうして回復士としての技能を習得したと認められると、各地の神殿へ派遣されるのである。

一度一本立ちすると、その後は派遣された街に居住し、総本山へは数年に一度の挨拶回りくらいでしか出向くことはないが、今回二人は「修行のし直し」を望んだ。


神殿長は若い二人を深い頷きと共に見つめ、


「先日も悔しい思いをされたばかりですからね。

 大変立派な心がけです。

 総本山へは私からお願いをしておきましょう」


その意気や良し、と神殿長は背中を押してくれたのだった。


そして二人が修行している間の代わりの人員の確保ができたということで、その人材が総本山からやってきた帰りの馬車に乗って、二人は総本山へ向かうことになったのだ。



がたがたと揺れる馬車の中で、シルヴァは問う。


「リンネ先生は、良かったのか」


「何がですか?」


急に話しかけられたリンネはきょとんとし、すぐさまシルヴァは補足する。


「留まっていたら、もしかしたらまた、

 あの声を聞けたかもしれないだろう」


「あぁ・・・」


それは、確かに。

と小さく呟いたが、リンネは顔を上げて言った。


「でも、次に現れるのが数年後だったら?

 そんな不確実なものを待つより、

 自分が動いたほうが良いと思ったんです」


それに、と笑った拍子に下ろした白い髪が揺れる。


「でも、驚きました。

 シルヴァ先生も同じ事を考えていたなんて」


「ああ。あの声が言った、

 『症状の原因を考える』ということのヒントが、

 総本山にならあるかもしれない」


掌を見つめてそう言うシルヴァに、リンネは苦笑いで返した。


「正直に言うと、ないかもしれない、

 という予感のほうが強いんです」


「・・・俺もだ。

 そんなものがあったら、最初の修行にあるはず」


「だけど、あそこには蔵書があるから」


「同意見。どうだリンネ先生、

 修行の合間で手分けして蔵書を当たるのは」


「賛成です、そうしましょう、先生」



馬車はがたがた、二人の若い回復士を乗せていく。

この世界の医療の要、ネフェリ神殿総本山へと。

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