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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag


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「先生、このところぼぉっとしてるわねぇ」


常連の患者の肩に回復術を掛けながら、リンネは指摘されてハッとした。


「す、すみません」


「いいのよ、ちゃんと施術はしてくれてる訳だし。

 何か悩み事?話くらいなら聞くわよ」


「い、いえ、悩みという訳では」


「そうなの?恋の相談とかなら楽しかったのに」


「はは・・・」


苦笑いで患者を見送り、リンネは肩を落とした。



『結局、あれからあの声は聞こえない』



先日、何もないところから聞こえた声。


毎日毎日、顔を合わせる度にシルヴァには「まだか」と急かされてはいるものの、リンネもあれから一度も聞いてはいない。


『その症状の原因が何か・・・か。

 私なりに調べてみたけど、そんな教科書はなかった』


シルヴァもシルヴァで、教会内の蔵書はしらみつぶしに探したらしい。が、あの声が言っていたようなものが書いてあるものは見つからなかったという。

どの本を見ても回復術の精度や深度について書かれたものばかりで、病そのものについての記載はない。


『少し前までは、疑問にも思わなかった。

 だけど今は・・・』



「先生、先生!!」



そのとき、数名のねずみ色の服を着た教会の職員に急患が担がれて飛び込んできた。

あいにく他の回復士が空いておらず、リンネの狭い部屋に押し込むように入り込んでくる。


「この人は!」


担がれていたのは、先日シルヴァが施術した・・・「声」が降ってきたあの患者だ。

手足は全く力なく垂れており、呼びかけても返答がない。ただ、喘ぐようにはくはくと、顎を大きく動かしている。


『これは、もう・・・』


リンネは既に、彼には回復術の力が及ばないことを悟った。


『それでも』


「声」は、病の原因は心臓にあると言った。

リンネは職員に対し、「ご神体への導きの準備を」と告げると、患者の左胸にそっと触れ、深く深く回復術をかける。


「は・・・」


気のせいかもしれないが、患者の呼吸が少し楽になったようにリンネには感じられた。


『彼の最期が、少しでも安らかでありますように』


最後にそう祈りをこめて、リンネは患者から手を離す。


「女神の御許へお送りします」


職員はその言葉に深く頷くと、全て白で統一された専用の担架を厳かに部屋に持ち込んだ。患者は担架に丁重に乗せられ、言葉少なに奥へと運ばれていく。


決して広くはない廊下の端で、額に汗をかいたシルヴァが患者の顔を見て一瞬呆然とし、すぐに状況を察したのか目を伏せ、頭を下げた。


担架について彼の横を通り過ぎたリンネは、シルヴァが奥歯を噛みしめ、頬がかすかに震えているのに気付く。




白い担架は、物言わぬまま長い廊下を奥へ奥へと進む。

通りかかった職員たちは皆厳かに頭を下げる。


そして他に何の部屋もない教会の最奥、分厚い壁で覆われた特別な部屋へと辿り着く。



「それでは・・・リンネ先生、よろしいですね」


「はい」


リンネは担架の前へと移動し、自らその重い扉を開けた。


何もない、真っ白な小さな部屋。


正面の壁に、大きく女神の紋章が掲げられている。


リンネは部屋の手前で跪き、頭を下げて祈った。



「新たな旅路に、女神のお導きのあらんことを」



それを合図に担架の担い手は部屋の中に入り、何もない床に患者ごとをそれを置くと、さっと部屋から出て、リンネの隣に跪いた。


「それでは、お送り致します」


ドアの脇に控えた別の職員の言葉とともに、扉は閉められた。




ーーーーーーーー



「シルヴァ先生」


それからも続く患者の列を捌き、長い一日を終えたリンネのところに、同じく業務を終えたシルヴァが訪れていた。



「リンネ先生、今日はお見送りをありがとう」


「いえ。・・・先生は、悔しいですよね」


「ああ。やはり・・・治せてはいなかったのだな」


シルヴァは自らの右手を左手で揉み、声のトーンを落として囁くように言った。


「ずっと・・・

 自分のできることをやってきた、つもりだった。

 だがこうして無力に患者は命を落としていく。

 俺は今、回復術そのものへの理解が揺らいでいる」



シルヴァは若く真面目な回復士だ。

その術の強さは誰も疑うところなく、またその境地に達するまで彼が地道な努力を重ねてきたことも知っている。


シルヴァは伏せていたその顔を上げ、リンネをまっすぐ見据えた。


「リンネ先生、あの声はやはりまだ聞こえないか」


「はい。あれから一度も」


「そうか・・・。

 天啓かもしれないと、思ったんだがな」



天啓。


シルヴァもまた、どうしようもない無力感に苛まれ救いを求めているのだと思い至り、リンネは痛む胸をぎゅっと押さえた。



ーーーーー


「お、お見事です、キラーヤ様」


ぱちぱちと拍手をするディアドラと、地面に這いつくばる寸前のキラーヤ。


肩で大きく息をしながら、キラーヤは構えた銃型のライターを腰ベルトに引っかけた。


「なんのなんの。

 ・・・ごめん、スムージーくれる?」


「ただちに!」


ディアドラがショットグラスで持ってきたのは、紫色のスムージーである。それをぐいっと飲み干し、キラーヤはどさりとその場に仰向けに倒れ込んだ。





ーここはロイン、「魔物生態研究所」ことディアドラ製のダンジョン内である。



シータの森にほど近い街で座学を終えたキラーヤは、実践に移ることにした。その場所に選んだのがこのダンジョンである。



「まぁ浅層であれば、

 チュートリアルの場としては丁度良いでしょう」



森からロインへの移動中、スレイプニルの背中の上で、製作者であるディアドラは言った。


「難易度調整とかはできないんだ?」


「まぁ、産まれたダンジョンは独自の意思を持ちますからね。

 多少は介入できますが、深層になるとなんとも。

 オリジナリティ出してくるので」


「じゃあ、ディアドラも踏破はしてないんだ」


「何度もしてますよ。

 その度になにくそと思うのか、

 その次はもっと悪辣な仕様になっているんです」


「じゃ・・・じゃあだんだん攻略難しくなってる、ってこと?」


「そうとも言います」



と何とも物騒なやりとりの後、辿り着いたロインの街は何やら騒がしかった。


ディアドラの影武者を務め、教授職を担ってくれていた魔物が、大量の書簡を寄越したのである。


「何ですかこれ。

 どれも皇宮印のシーリングがしてありますね」


「え、大丈夫なの?」


「一旦開けてみますが」


そう言って教授室のデスクに嵩高く積まれた書簡タワーを一つずつ開封していく。


「問題ないですね、

 いずれも不特定多数に宛てた募集の類です」


「へぇ。どんな?」


「サルバドール第二皇子がなにやら事業をするようですね。

 協力者を求める募集です。

 曲がりなりにも公立機関の長なので、

 お情けで声がかかったみたいなもんですよ」


「大丈夫ならいいけど・・・」


「構いません。

 無視してダンジョンへ籠もりましょう」



ということでやってきたダンジョン内。




・・・結論から完結に言うと、


キラーヤの能力はあっという間に覚醒を成したのである。





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