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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag


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「おし、読んだ」


キラーヤはぱたん、と本を閉じると、深く息を吐いて目を閉じた。


さすが人間界でも学術的に評価を受ける人物(魔人)、非常に文章が上手く、分かりやすくまとめてあった。



「さて。整理するか」



壺内の疑似太陽は既に沈み、とっぷり夜更けである。

自室の寝床で眠っているクダギツネが、「そっち行っちゃだめぇ」と寝言でうなされている。


キラーヤはクダギツネを起こさぬよう立ち上がりダイニングに移動すると、キッチンで自分のマグを取り出した。

小さな鍋にミルクを入れ、軽く暖めだす。

後ろの戸棚から蜂蜜とシナモンの粉も一緒に取り出しておく。


『ショックがないと言われれば、嘘になる』


小鍋の中のミルクの白い縁に、ふつふつと小さな気泡が上がる。


『ただ、方向性は見えた』


ミルクをマグに移し、蜂蜜を混ぜかき混ぜる。

小さな渦の中にシナモンの粉を落とすと、あっという間に溶けて見えなくなった。



マグを持って再び自室に戻り、デスク前に腰掛けたキラーヤは、また攻略本の目次を開く。


『整理しよう』


目の前に紙を広げ、今度はペンで書きだしをし始めたのだった。



ーーーーーーーー


「ルカリアお前、どうしてここに?

 キーラ殿はどうした」


皇都に飛び込むように帰り着き、ルカリアはすぐに大臣であるダスティの執務室を訪れた。


幸い在室だったダスティは、デスクから立ち上がり呆れたようにルカリアに近づいてきた。


「一旦座れ、何があった」


「大臣、賢者を呼んでくれ。

 いや、違うな、キーラの召喚に関与した二人だけだ。

 皇女と、トライツを頼む」


「あ、ああ。すぐに声をかけよう。

 お前はひとまず休め」


ダスティは秘書官に目配せして伝達に走らせ、自らは自分用に置いてあったピッチャーから新しいグラスに水を注ぎ、ルカリアに渡した。


「もう一度聞くが、キーラ殿はどうした。

 まさか何かあったのか」


「あいつは大丈夫だ、

 不本意だが信頼できる奴が傍に控えてる。

 一緒に来て欲しかったが、

 あいつにはあいつのやることがある」


「そ、そうか、まぁ無事ならいい。

 お前がそのように慌てるなぞ珍しい」


「詳しくは皆が揃ったら話そう」



ほどなくやってきたのは、「予見の賢者」皇女ナディーン。


「ルカリア!キーラ様は?!」


「あいつは無事だ、安心してくれ。

 トライツが来たら話そう」


そう言って待ったものの、トライツが到着したのはそれからしばらく後だった。

走ってやって来たトライツは、額に汗を滲ませている。


「すみません!少し王城を離れていて」


「いやすまない、

 今日は国立図書館で仕事だったと聞いている。

 むしろ早いほうだ」


「いえ、実は先ほど、

 廊下でサルバドール殿下にお会いしまして。

 少しばかり足止めを食いました」


「げ」


苦い顔をしたのはルカリアだ。

サルバドール第二皇子のルカリアへの執心は、皇宮では有名な話だ。


「大丈夫です、

 ルカリア殿がここにいるとは言っていませんから」


「恩に着る」


「で、話って何です。キーラ様は無事なんでしょうね」


「ああ、それは大丈夫だ。

 では、本題に入らせてくれ。

 『聖女』の話だ」


そしてルカリアは語った。

瘴気だまりで聞いた、聖女の力の話。


自分たちが召喚しようとしたその救世主が、破壊者となり得たかもしれないという事実。


「だが、鵜呑みにしてはならないと思う。

 まずはトライツ、聖女いた時代からしばらく、

 飢饉が起こった記録はないか」


トライツは目を閉じ、己の中に刻まれた過去の叡智を辿る。


「飢饉、という歴史上の事案としては記録が残っていません。

 しかし、収穫量推移の数字を辿ると、確かに低い。

 ・・・なぜこれが問題になっていないか分からない」


「収穫量の記録はどこにある」


ダスティは問う。トライツは即答した。


「ロインの図書館です。

 国立図書館からダンジョン内に移してあります。

 なんせ数百年も前の記録ですので」


「そうか、ロインか」


「取り寄せますか」


「ああ、確認はしよう。

 あとトライツ。

 疑う訳じゃないが、聖女の力に関する情報は、

 本当に残っていないんだな?」


トライツは目を瞬かせて驚いたような顔をすると、

すぐさま深く頷いた。


「申し訳ありませんが、過去の叡智の中の記録は、

 既にお出ししたもので全てです」


「と、言うことは、だ」


ルカリアはダスティを窺い見る。

ダスティはようやく、何を言いたいかが分かったと腑に落ちた顔をし、


「誰かが情報を消した、ということだな」


と、静かに言った。ルカリアの声も、


「・・・俺にはそう思えてならない」


と低くなる。

皇女ナディーンは細い指で額を押さえる。


「・・・キーラ様が聖女じゃなくて、

 セーフだったってことですわね」


「そういうことになる」


その場の四人は深く安堵の息を吐いた。


ダスティが重い口を開く。


「まさか、聖女がそのような存在だとは」


ルカリアは緩く首を振り、


「いや、違うな。

 瘴気の見方を間違えていたんだ、俺たちは」


とあざ笑った。


「瘴気は魔物を生み、人にとっては毒になる。

 そう思っておりましたわね、私たち」


「正確にはそれだけではなかった、

 ってことなんですね」


皇女とトライツも、納得したように頷いている。


「まずは聖女を召喚せず済んだことに感謝しよう。

 資料が届き次第、改めて事実確認を」


ダスティの一言で、その場は解散となった。


「ところでルカリア、

 お前はすぐキーラ様のところへ戻るのか」


ダスティの問いかけにルカリアはしばし逡巡すると、


「・・・いや、資料が届くまでは皇都にいよう。

 あいつは今修行中だからな、邪魔はすまい。

 次に会うときが楽しみだ」


にやりと笑ったその顔に、ダスティは面食らう。


「・・・なんだ、ずいぶん仲良くなったと見える」


「どうかな。

 ・・・でも、あいつといると面白い。

 魔物の女王になる日はきっと近い」


「おいおい、それは喜んで良いのか」


「さあて、それもどうかな」


そう言ってまた笑い、ルカリアは立ち上がって執務室を辞した。





・・・皇宮の廊下をルカリアは慎重に歩いた。サルバドール第二皇子に出くわすと厄介だからだ。


『しばらくは皇都の自宅にいるか』


そう決め、たくさんある勝手口のひとつの方へ歩き出す。



「・・・そっち行っちゃだめぇ・・・」



遠くか細い声が聞こえたような気がしたが、ルカリアは気に留めず、ほの暗い廊下の角を曲がった。

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