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ルカリアが皇都へ旅立ってしまった後、キラーヤとディアドラは街で旅支度を整え直していた。
「フィーロさん、肩はどう?」
今来ているのは先日肩関節亜脱臼の応急処置をした、フィーロの店である。
「ああ、すっかり大丈夫だ。
回復士に回復術もかけてもらったしな」
ぐるぐると肩を回し、白い歯を見せてフィーロは笑った。
「良かった!でも気をつけてね、
あれ何回もなって癖になっちゃう人がいるから」
「そうなのか。酒でまた転ばないよう気をつけるよ」
「そうして」
フォーロの店はアウトドア雑貨の店のように見えた。
テントや寝袋、携帯食料や馬の鞍まで置いてある。
「割引するから、商品を見ていってくれ」
「うん、ありがとう」
キラーヤはいくつかの携帯食糧と小さなナイフ、そして、
「フィーロ、あれ何?」
「あれはライターだ。
銃みたいな形だが、出るのは点火用の小さな火だけ。
綺麗だろ、女性冒険者に人気だ」
キラーヤが目を付けたのは、金色の小銃型ライターだった。
キラーヤの掌にも収まる小さいタイプで、カチ、カチとトリガーも軽く、引いても小さな火が出るだけで反動もない。
「これ、欲しいな」
何となく、こういう道具があったほうが、自身の術の発動トリガーとして易しい気がした。より分かりやすい、というか。
「ああ、じゃあこれはだいぶオマケしとこう」
「ありがとう!節約したいから助かる!」
フィーロは他にも色々とオマケしてくれ、キラーヤはほくほく顔で買い物を終えた。最後に商品を受け取る際、店内に他の客がいないことを確認し、フィーロはキラーヤに顔を寄せた。
「ところで、念のため忠告だ」
「忠告?」
「あんた、怪我の応急処置にずいぶん詳しいんだな」
「うーん、まぁ、そうかもね」
「俺はあんたに助けられたが、
本来ああいうことは町中じゃしちゃいけねえ」
「え、なんで?!」
「・・・ああいうのは回復士の領分だ。
あまり出しゃばると、目を付けられる」
「目を付けられるとどうなるの?」
「下手すると一族皆、神殿から出禁を食らう。
病気になったって見てくれねえ」
「な、なるほど・・・」
「神殿の連中は気難しい。
気に食わないとすぐに回復術を盾に脅してきやがる。
・・・そうなって野垂れ死んでいったやつを、
俺は何人も知ってる」
「神殿は患者を選り好みしてるっこと?」
「ああ。
神殿に忠実で、寄付額も多いものから優遇する。
盾突いたり、気に障ることをしたやつは即冷遇だ」
「うわぁ・・・」
「どこの街もそうだが、この街は特に酷い。
だから、今後は気をつけな」
「わ、わかった、教えてくれてありがとう」
フィーロは良い旅を、とウィンクをひとつくれ、荷物を抱えるキラーヤのために扉を開けてくれる。
「ちなみに神殿ってどれ?」
と聞くと、苦虫を噛みつぶしたような顔で、「あれだ」と、背の低い建物から頭ひとつ抜き出た、背の高い尖った塔を指してくれた。
「まぁ、用事がないなら避けた方が身のためだ」
とさらなる忠告付きで。
「うん、そうする。ありがとう」
フィーロの店に背を向けて歩き出したキラーヤは考える。
石畳の隙間を数えるように下を向いて歩くと、どんどんと歩調が早くなる気がした。
『じゃぁこの国の人たちは、
回復士たちにへりくだらないと医療が受けられない訳か。
程度にもよるけど・・・。
そもそもこっちの医療ってどんなんだろう』
少し興味が出てきてしまったキラーヤ、壺に帰るなり、エプロン姿で台所仕事中のディアドラに突撃した。
「ねえ、透明になれる魔物っている?」
「ええ、おりますよ。何に使うのです?」
皿を棚に片付けながら、ディアドラは首をかしげる。
「ちょっとした見学に使えるかなぁと」
「見学、ですか」
「うん、秘密の見学」
目を輝かせたキラーヤを見て、ディアドラはにやりと笑う。
「キラーヤ様、まもの使いらしい顔におなりです」
「そう?それ褒めてる?」
「最上級の褒め言葉ですよ」
では、とディアドラはエプロンで水気を拭くと、キラーヤを外へ誘った。
ちなみに壺は街のはずれの草むらに隠してあり、さらにディアドラにより隠匿の術が施されているため、住民である4人以外には見えない仕組みとなっている。
「透明になれる魔物、と言いましたね」
「そう。小さいのが良いな」
「では、カクレコウモリが良いでしょう。
キラーヤ様、呼び寄せてみてください」
「え、やったことない。できるの?」
「できるはずです」
キラーヤはもう自分の能力を疑っていない。
目を閉じて思考する。
イメージ、そして発動のトリガー。
空気を伝って、自分の呼びかけを広げるイメージ。
「名前しか知らないけど、答えてくれるかな」
「大丈夫です、あなた様なら」
「じゃあ」
来い。来い。
カクレコウモリ、ちょっとこっち来て!
キラーヤは両手を前に突き出し、空気を震えさせるように大きく柏手を打った。
ぱあん、と音が波となって広がっていく。
耳を澄ましてその音に集中していると、
「キィ」
と目の前から鳴き声がした。
そっと目を開けると、
「成功ですね。お見事」
ディアドラの腕に、小さなコウモリがぶらさがっていた。
ーーーーーー
カクレコウモリを仲間にすると、キラーヤは試運転を始めた。
「共有」
目を閉じ、カクレコウモリと視覚を共有しながら、念話で操作を行う。
「じゃあ、ちょっと街に入ってみようか。
街に入ったら透明化してみて」
「了解」
指示に従い、カクレコウモリは街の中で飛んでいく。
そして同時に、視界に入っていた翼が消えた。なるほど、これが透明化か。
「そのまままっすぐ、その赤い屋根の店に入って。
お客さんの後についていけるかな」
「できそう、やってみる」
賢いカクレコウモリは、器用に客のすぐ後ろを飛んで店内に入った。
色とりどりのキャンディやジェリービーンズが並ぶ、どうやら子供向けの菓子店のようだった。
「わお、可愛い。天井の梁に捕まって、
しばらく店の中を観察したいんだけど」
「了解」
カクレコウモリは透明化したまま、天井の梁に逆さまにぶらさがった。
「う、視点は逆さまのままか・・・」
思わずキラーヤは目を閉じたまま首を傾けてしまう。
「キラーヤ様、多分調節できます」
横からディアドラがアドバイスをくれる。
カメラを回すつもりでうーんと手をぐるーんと回すと、
「あ、できたできた、視点だけ回った」
そのままきょろきょろと店内を見回す。
「あ、あの売り子、今チョコ食べた」
カウンター内の店員の盗み食いを発見したり、
「あ、あそこの棚の後ろに瓶が一つ落ちちゃってる」
これはなかなか楽しい。
あまりキラーヤ自身にも大きな負担がかかっている感じもない。
そしてしばらく試運転したあと、そろそろ頃合いかと切り上げることにした。
「よし、戻って貰うか。共有解除、召喚!」
ぱち、と目を開け、カクレコウモリを召喚すると、問題なく目の前に小さなコウモリがパタパタ現れる。
「ご苦労!うまくいったわ!」
「僕、うまくできた?」
「上出来!」
じゃあ本番行きましょうか、と、
キラーヤは尖った塔を見つめた。




