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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag


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結局ほとんどまともに話ができなかったこともあり、野営することなく日暮れには街に帰って来れてしまった。


昨夜と同じ飲食店に入り、今度は酒を交えず食事を取る。


「門前払いだったわねえ」


「ああ。だがはっきりしたな。

 ここの主はもし自分とこの魔物が悪さしても、

 関与する気はなさそうだぜ」


「むしろやっちまえ、くらいの感じだったわね。

 人間に恨みがありそうだし」


「ああ。・・・で、教授さんよ。

 洗いざらい吐いて貰おうか。

 以前の奴がハイエルフと樹に何をしたんだ」


「大したことじゃないんですよ」


ディアドラはチキンの煮込みを小さく切って口に放り込むと、咀嚼しながら小さな声で呟いた。


「・・・ただちょっと服従させただけなのに」


「おい待て、どういうことだ」


「いや、前のまもの使い様がこの森を訪れたのは、

 もうほとんど能力が高まりきった段階で。

 こんな話し合いみたいなまどろっこしいことなく、

 問答無用で平伏させたんです」


「そ、そんな事ができるようになるのね」


「ええ。キラーヤ様も言っておられたように、

 ハイエルフは非常に美しい外見をしています。

 前のまもの使い様はそれを気に入られましてね。

 人間どもの夜会に出るときなんかに、

 よくお供として呼び出したんですよ」


「おい、それあいつの意思は無視してか」


「当然です。まもの使い様の僕なのですから」


「そ・・・それは怒るかも・・・」


「樹は?!樹には何したの?!」


「あぁ、あれは違いますよ。

 あれをやったのは『聖女』です」


「は・・・?聖女って・・・

 どういうことだ」


思わぬ名前が出て驚いたのはルカリアである。


「前のまもの使い様のおわした時代の少し前、

 聖女とかいう忌まわしい者がおりまして。

 あの樹がああなったのは聖女のせいです」


「だから何をやったんだって!」


「私も見てもいないし興味もないので、

 詳細は存じ上げませんが。

 どうやら聖女の力を浴びた瘴気溜まりは、

 大抵あのように荒れるようですよ」


「荒れる・・・」


「そうです。あいつは根に持つタイプですからね。

 聖女に瘴気溜まりをやられたことを、

 ずっと引きずって引き籠もってたんですよ。

 それを外に連れ出してやったのです、

 素直に喜べばいいものを」


「それは・・・やっちゃ駄目だよね・・・」


令和の感覚で生きてきたキラーヤ的には正直ドン引きである。


これは説得するの厳しいかも・・・と思い始めたその時、


ドンガラガッシャーン!!と、金属やら木やら何やらがぶつかり合うけたたましい音が響く。


「酔っ払いか」


どうやら酔っ払ったオジサンが何かの拍子に転び、周囲のテーブルをひっくり返してしまったらしい。


店員たちはサッと慣れた手つきで片付けを始めるが、問題のオジサンが起き上がってこない。どうやら意識はあるようだが、何やら痛そうにうずくまっている。


『おっ、ちょっとやばいか』


怪我でもしたか、辺りに流血はなさそうだが。

頭を打ったか。

色々考えながらキラーヤは立ち上がり、そろそろとオジサンに近づいた。すると小さな声で、


「肩が・・・肩が、痛い。動かない」


と喘ぐ声がする。


「あぁ」


と一言漏らすと、迷わずオジサンに近寄り抱え起こした。


「大丈夫?痛いのは右肩?」


酔っ払った焦点の合わない目でキラーヤを捉えると、


「すまないお嬢さん。

 明日にでも神殿に行くよ。迷惑かけて悪いね」


「いやいや。ちょっと見せてね。

 ごめん、少し肌着になれる?」


「お、おい、何してるんだキラーヤ」


突然オジサンの身ぐるみを剥がし始めたキラーヤに、慌ててルカリアが駆け寄ってくる。


「ごめん、怪我のとこ確認したくて。

 おじさん、嫌だったらいいんだけど。

 ちょっと診せてくれる?」


「あ、あんた回復士か?」


「いや、ちょっと違うんだけど。

 応急処置くらいならできるかも」


オジサンは少しずつ酔いが冷めてきたのか、割としっかりした目でキラーヤを見た。しばらく何か迷っていたようだが、


「なら、見てくれるか。

 神殿は朝まで開かないし、明日大事な仕事がある」


「よしきた」


幸い前開きのシャツを着ていたため、肩に負担をかけずに脱がせることができた。

肩周りをしげしげ観察し、ぺたぺたと優しく触る。

時折指で押し、「ここ痛くない?」と問いかける。


「うん、肩関節脱臼。亜脱臼かも?

 骨折の有無はちょっと分からないけど、

 とりあえず鎖骨・肩甲骨・上腕骨に圧痛なし。

 どうしよっかな・・・。

 骨折除外するまで整復したくないけど」


キラーヤはルカリアを振り返ると、


「ねえ、骨折ってどうやって診断するの?」


と小声で聞いた。


「あぁ?」


「いや、骨が折れてるのってどんな検査すんのかな、と」


「知らないな、触ったら分かるんじゃないのか」


「まぁ・・・疑いくらいは分かるするけど、

 正確かは分からんよね・・・」


どうやらレントゲンなんてものはなさそうである。

しゃあないとりあえず固定するか、と、

そおっと右腕を持ち上げた、そのとき。


カコッ


と気持ちいい感触が手に伝わる。


「あ、入った」


どうやら専門外のキラーヤでも簡単に整復できてしまったところを見ると、「肩関節外れかけ」状態だったらしい。


「痛みどう?」


オジサンに問うと、


「まだ痛いは痛いけど、だいぶマシだ」


「じゃ問題ないかな。

 神殿にはすぐ行ってね、骨折れてるかもしれないし。

 今日は固定しておくかぁ」


・・・とここまで言って、自分が良いものを持っていたことに気づいたキラーヤ。


「ルカリア、あれ出して!昼間の白い布!」


「あ、あれか?」


「ちょうど良さそう!」


と、持ってこさせたのは自らがぐるぐる巻きにされたあの白い布である。


この弾力性、それでいて身動きを封じる強度、あと色。


「見れば見るほど、弾性包帯ぃ・・・」


思わずうっとりとするキラーヤ、転院に裁ちばさみを借りて布を良い幅に裂くと、オジサンの肩から胸まわりにかけてぐるぐると巻いていく。


「おお、こりゃ楽だ」


「すごい!使いやすい!」


最後に紐状に裂いてぎゅっと結べば、


「はい固定完成!」


「いいのか?この布、上等なもんだろう」


「いいよいいよ、タダで手に入ったものだし!

 しばらくは痛むと思うからね」


オジサンはありがとう、とシャツを肩から羽織ると、


「今日は帰るよ。いや、本当にありがとう。

 お代はこっちで持つから好きに飲んでくれ」


と店員に目配せしていた。店員も心得たとばかりに手でオッケーサインを作っている。


「いいの?ありがとう!

 ここのご飯美味しいから嬉しいわ」


「なんのなんの。俺はフィーロ。

 この街で店をやってる。

 もし必要なものがあったら安くしとくよ、

 フィーロの店って言えば大抵分かる」


では追加のご注文を承りましょう、と、キラーヤは店員に促されて卓へ戻っていった。



・・・キラーヤがこちらに背中を向けたのを確認し、じゃあなと去ろうとするフィーロを、ルカリアが呼び止める。


「おやっさん、分かってると思うけど、

 神殿に行くときはその布は外して行けよ」


「・・・あぁ、分かってる。

 お互い因縁つけられちゃかなわんもんな」


「ああ。悪いね」


「いや、助かったよ。旅の者かい?」


「そうだ」


「じゃあ余計に店に寄って行ってくれ。

 御礼もしたいしな」


「そうさせてもらうよ」



そうしてフィーロは帰って行った。

思いがけず前の世界での日常に似た体験をし、無意識に高揚していたらしいキラーヤは、その日なかなか眠れなかった。



ーーーーーー


壺の家のリビングにて、


「キラーヤさまは眠られましたか」


「ああ。そのようだ」


ルカリアは目の前の魔人に対峙していた。

ダイニングに腰掛けるディアドラに、一歩近づく。


「なぁ、教授。

 あんた、あいつに何をさせたいんだ」


「・・・何です、急に」


「あいつをどうしたい。

 前のまもの使いと同じようにしたいのか」


「同じように、とは?」


「前の奴は人間の街を侵略し恨まれた。

 あんたの話を聞く限り、

 すべての魔物に愛されていたというわけでもない。


 ・・・前のやつがどんな人間だったか知らないが、

 もしあんたの『理想のまもの使い』に仕立てるつもりなら。

 傀儡になるほどあいつは愚かじゃないぞ」


ディアドラはくはは、と魔人らしい低い声を上げる。


にたりと笑ったその口元には、先ほどまで無かった鋭い牙が生えている。


「笑わせるな、人間。

 お前こそキラーヤ様の命を付け狙っている癖に。

 お前達は危惧しているはずだ。

 占術の示す『大災害』が、

 キラーヤ様を中心に巻き起こることを」


ルカリアは口を噤んだ。


ディアドラの言うとおりだ。ナディーンの占術はキラーヤを救世主と見ているが、能力の特性からは危険性のほうが高い。

もしキラーヤが人間に対して害となった場合には、ルカリアは自らすぐさまその首を掻き切るつもりで同行している。


「殺すつもりの者を気に掛けるとは、

 最強の秘術師様はお優しい事よ。

 それともお前達こそキラーヤ様を利用し、

 魔物を統べるつもりなのか」


「そんなことはない」


「この先の旅の中で、彼女がその意思で、

 人より魔物に近しい存在になったとき。

 お前はどうするのだ」


「そのときには・・・」


そのとき、キラーヤの部屋のほうでカタン、と物音がし、二人の会話は途切れた。


「・・・とにかく。

 あまりあいつに無理をさせないでくれ」


「あなたこそ、あの方を侮るのはやめてもらおう」


そう言って、二人はそれぞれ自室に戻る。


キラーヤの部屋で寝泊まりし、会話を聞いていた拍子に物音を立ててしまったクダギツネはひとり慌てていた。


「二人とも、キラーヤを気遣ってるのは一緒なんだけどな・・・」


振り返ったベッドですうすう眠るキラーヤを窺い見て、ふう、と小さなため息をついた。

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