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ざわざわと騒がしいホールの中、慣れたようにテーブルを確保し店員にオーダーを頼むルカリア。
「アーッ!!お酒が美味しいねえ!!」
キラーヤは叫ぶが、周りの喧噪に上手い具合に紛れて周りも特に気にする者もない。
あまりお淑やかとは言えないその飲みっぷりを、ルカリアとディアドラは生温く見守っている。
時は数時間遡る。
「さあ、明日は森に入ることだし、
今日はよく休もうぜ」
森の近くには比較的大きな街があり、
本日はそこで休むこととなった。
「食糧も買い足しましょう」
「ごみも捨てたいねぇ」
「あと綺麗な水もいるな」
3人は家事を分担し、家の維持に必要なことリストを作成する。
じゃあそれぞれやることやったらあとは自由!と、スレイプニルはダンジョンに帰ってもらい、3人と1匹は街に繰り出した。
とはいえこの世界での生活に不慣れなキラーヤには、ルカリアが付き添っている。
ロインで数日過ごしたおかげで、お金の感覚や買い物くらいなら問題なく出来るようになった。だからまぁひとりでも大丈夫だと思うのだが、過保護なこの男はさりげなく同じ方向へ歩き出すのだ。
「さてと、何をしようかな」
宿代が浮いたとは言えお金は無駄遣いできないし、かといって壺に閉じこもるのももったいない気がする。
「じゃあ一通り買い物して、飲みにでも行くか」
「おっ!いいねえ!お酒ってことでいいよね?」
「ああ」
『お酒・・・!お酒が飲める・・・!
いつぶりだろう・・・!』
実はキラーヤ、結構な酒好きではあるが、飲酒後に病院から呼び出されるのが怖くて滅多に飲めなかったのである。ちなみに呼び出し当番以外の日でも普通に電話はかかってくるし呼び出されるので、気が休まる日がなかった。
と言うわけで、衣服やちょっとした雑貨を購入したあと、
ディアドラと落ち合って飲食店に入ったのである。
「果実酒って言ってたよね?何の果実?」
「これは桃だな」
「あまーい!うまーい!」
「ほら、食事も取れよ。酔いが回るぞ」
世話焼きなルカリアがせっせと皿に料理を取り分けてくれる。
「ほんと・・・マメな男だよねえ」
「お、褒めてんのか?それ」
「褒めてるよお。ねえ、聞いていい?」
「ああ」
茶色いお酒に口を付け、開いた襟の奥の首筋がやたら色っぽい紅い眼の男に問いかける。
「あの最初のさ、胡散臭い役者みたいなキャラなんだったの?」
ぶっ、と軽く飛沫で口元を濡らし、それを乱暴に腕で拭うルカリアは、たちまちその顔を真っ赤に染め上げた。
「う、う、胡散臭いとはなんだ」
「いや胡散臭いでしょ、
何なのあの『おほほ』って笑い方」
「あれはなあ!!そういう決まりなんだよ!!」
はあ?
笑い方に決まりなんてあるの?
キラーヤの価値観だと馬鹿げた発想に、酒の力も相まって笑いが止まらない。
「いや真面目な話、歴代『秘術の賢者』はああするんだ。
初代がああいう人だったんだが、病で急に亡くなってな。
『秘術の賢者』はその時で最も優れた秘術師が就任するんだが、
政局が不安定だったこともあって代替わりを隠したんだ。
初代の身振りを真似したってことだな。
それからは慣例として、
『秘術の賢者』の代替わりはひっそり行われ、
就任した『賢者』は業務中は初代になりきるんだ。
その間は自分の名も使わず初代の名を使うんだよ」
「へぇ-、面白いー!!」
世の中には色んな職業があるもんだ、と感心する一方、
「ルカリアは凄いんだねぇ、一番だってことでしょ?」
「ま、まあ、な」
あまりこれまでの旅で秘術らしきものを使ってこなかったが、この若さで国一番だったということだろう。
しかもこの容貌だ、しかも世話焼きだ。さぞかしモテただろう。
「ねえ、今更なんだけど、
あんた妻子とか恋人とかいないよね?」
「何だ藪から棒に!
いたらここにいねえよ!」
「あ、だよね、良かった」
もし妻子でもいたら慰謝料もんである。やましいことはなにも無いとは言え、実質壺の中でルームシェア中であるわけだし。
「でもどうしよう、あんた多分モテるよね?
私と旅に出たなんて知れたら、
あんたを狙ってた女性陣から恨み買うかなあ」
「うふふ、それはあるかもしれませんね」
突然ディアドラが話に入ってきた。
「ルカリア殿は人気でしたからね、
若く美しい天才秘術師として。
ロインにお仕事で来られた時なんて、
女子たちが大挙して押しかけてましたから」
「やっぱりそうなんだ-!
あんな胡散臭くてもモテてたんだー!」
当のルカリアはやたら恥ずかしそうにしていたかと思うと、ふと何かに気づいたように動きを止めた。そしてその口の端をにやっと引き上げ、
「へええ、お前も思ってるんだな。
俺のことを美しいと」
いやー罪作りだな-、これだけ美しいとやっぱ心惹かれちゃうよな-、と鼻高々になりだしたルカリアを一発叩き、
「知らない!!!」
とキラーヤは果実酒を煽ったのであった。
ーーーーーーー
「で、明日のことですが」
「うぅ~ん」
だいぶ良い感じに腹も膨れ、酔いも回ったところでディアドラが喋り出す。
「森の主がいる瘴気溜まりの中心までは、
日中に到達できると思います。
そのまま森の中で野営して帰るかたちですね」
「まあ、主とどういう話ができるかにもよるよね」
「その通りです」
「なあ教授、主といきなり戦闘になったりはしないのか?」
「主は非常に知能の高い魔物ですので、
その可能性は低いです。
ですが、その前が問題ですね」
「主に辿り着く前ってことか」
「そうです。
幼弱で未熟な個体は見境なしに人を襲いますし、
何らかの理由があって人を襲うものあります」
「せ、戦闘スキルゼロなんですが」
「心配するな、そのために俺がいるんだ」
ポン、と肩を叩かれたがそんなもんで安心なんかできやしない。
「逃げ足も遅いんですけど!」
「逃げる必要もない。
どうしてもとなったら抱えてやるよ」
そういってルカリアは片方の肩に何かを担ぐ仕草をする。
「荷物じゃないんだぞ!丁重に扱えー!」
と抗議する酔っ払いキラーヤを尻目に、「もちろん私もいますし」とディアドラも余裕たっぷりに胸を張る。
「ですが、主に会いに行くにしても、
手ぶらで行くのは望ましくないですね。
何か手土産があればいいんですが」
「そ、それ、昼間に言って欲しかった・・・」
「忘れてました、私だけならぶん殴るだけなので」
肩をすくめてチャーミングに舌を出すが、言っていることが物騒なので何も可愛くない。
「ここの主はどんな魔物なの?」
「ハイエルフです。魔人に近い存在ですよ」
「おお、ハイエルフ・・・!」
「知ってるのか」
「物語の中だけでね。
長命で見目麗しくて、知識人っていうイメージ」
「ほぼ正解です」
そう言ってディアドラはきょろきょろと辺りを見回す。
そうしてうん、と一つ頷くと、
「手土産は・・・そうですね。
これがいいでしょう」
そういって自らのグラスを揺らした。
「さ、酒・・・!」
「ええ、そうです。
たくさん貢げば、ひとまず会話はしてくれるかと」
「敷居の高いホストみたいなこと言うわね・・・」
という訳で、居酒屋でギフト用のお酒を各種買い占め、壺の中へ持ち帰ったのだった。




