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ルカリアはすぐさま立ち上がり、目の前のローテーブルを吹き飛ばし、ヨーク教授に相対してキラーヤを背に庇った。
「どういうことだ、教授」
ヨーク教授は動じた様子もなく、ルカリアを凪いだ目で見つめる。
「どうもなにも」
そっと先ほどキラーヤとの糸が結ばれた胸元に手を当て、
「私は『魔人』でございますゆえ」
と微笑んだ。
「魔人・・・?!」
「そう。魔物でありながら人の姿を持ち、
人でありながら人を超える者。
それが魔人です」
「だから私の仲間になれたの?」
「その通りです」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。
色々聞きたいことがある」
「何なりと」
「まずはこいつに敵意はないな?」
「滅相もございません。
すでに私はキラーヤ様の僕。
主を傷つけることはありません」
そうして警戒を解いたルカリアの疑問に導かれるように語られたのは、ヨーク教授の知られざる秘密だった。
「私はあなた様を待っていたのです。
もう何百年前になりますでしょうか。
以前の『まもの使い』様を見送ってから、
ずっとずっと。
すぐにお守りできるよう馳せ参じるために、
人の中に紛れることに致しました。
紛れているうち、人間の世界においては、
力だけではお守りできない可能性があると知り、
「地位」「権力」とやらを求めるに至りました。
今の職はちょうど良かったのです。
いずれお渡りになるあなた様の助けになり、
あなた様の知となり力となる、
そういう準備をするにちょうど良かった。
拙作はすべて、あなた様のために書いたのです」
慈しむようにキラーヤを見つめるその瞳は、母のような姉のような、とても初対面の者に向けるものとは思えない優しさで満ちていた。
「あ、あの、
前の『まもの使い』と親しかったのですね」
「ええ、最後まで共におりました」
「では、まもの使いの能力についても?」
「ずっと隣で見て参りましたよ。
ですのでキラーヤ様の力にもなれるかと」
「そ、そうなんだ。
それなら助けてくれるなら有り難いです。
でも私、魔物を制御することで、
人間への害を減らそうとしているんですけど、
その辺は同意頂けますか?」
「・・・そうですね、簡単ではないと思いますが、
そのお力を上手く使えば可能でしょう。
ただいっぺんに済むものではありませんよ」
「それはもう、心得ております」
「では可能な限りお助けすることを誓いましょう」
「ありがとう!」
強い味方ができた、とルカリアのほうを見ると、
またぶつぶつ脳内ディスカッションを始めていた。
「ル、ルカリア?」
「ああ、悪い悪い。
なあ教授、魔人ってのは魔物より強いのか?」
「いつからかは分かりませんが、
魔人は大抵の魔物より強いです」
「魔人ってのは普段どこにいるんだ?」
「我々の棲まい近くを縄張りにしていますね。
人間にはたどり着けないはずです」
「へえ。人間界に魔人が他にも潜んでいる可能性は?」
「今のところ聞いたことはありません。
が、私ができたので皆できるでしょう」
「なるほど。
しかし凄いなあんた。
こいつがどんな奴かも知らず盲信していいのか?」
「問題ありません。
人となりはこれから長い旅のなかで、
お互い知って行けば良いでしょう」
「え、一緒に来てくれるの?」
「もちろんそのつもりです」
「おい待て教授、お役目はどうする」
「ほい」
教授の合図でポン、と音がし、ソファの隣にヨーク教授そっくりの女性が現れた。
「身代わりです。これで問題ナシ」
「おいおい、それでいいのかよ・・・」
「そもそもこのダンジョンも私が作ったものですし、
遠隔でもコントロール可能ですし」
「なんだそれは!!
もう理解できん!どうにでもなれ!」
ついに思考を放棄したルカリアの許可により、教授はこれから同行してくれることになった(らしい)。
ーーーーーー
「で、今お困りなのは移動手段、と」
さっそく始まった本来の目的である魔物レクチャーは、場所を移してダンジョンで行われることになった。
『やっぱ行くのか、ダンジョン・・・』
できれば日を改めたかった気持ちはあるが、
元『秘術の賢者』ルカリアと『魔人』ヨーク教授の守護があると考えると、まぁなんとでもなる気もした。
「手っ取り早いのは、
乗り物魔獣を仲間にしてしまうことですね」
「へえ、そういうのがいるんだ」
「ええ。例えば・・・そうですね、
6階層に行きましょうか」
近くに、と呼び寄せられると、足下にぽかっと穴が空き、エレベーターのようにゆっくり下降していく。
「こんな風に降りるんだね」
「そんなわけあるか!!通常は階段を探すんだよ!!」
ルカリアは吠えている。
「これはアレです、制作者特権」
ヨーク教授は人差し指をピンと立て、得意げにすまし顔をした。
そうして降り立った6階層。
そこは草原のエリアで、どういうわけか太陽のような光が差していた。
「おーい」
ヨーク教授は呼びかけながら、空中に向かって掌からポン、と狼煙のような煙を出す。
すると向こうから、ドドドっとやたら多い足音がしたかと思うと、大きな馬が現れた。
「スレイプニルです。
スレイプニル、まもの使い様にご挨拶を」
「ぶるるん」
教授を格上と見ているからか、非常に従順な態度であった。
スレイプニルは非常に大きく、あの鹿神と同じように例えるなら軽トラくらいあった。またその背は広く、数人余裕で乗れそうである。そして特徴的なのはその足の数だ。
「えーっと・・・8本足?」
「そう。スレイプニルはその力強さから、
戦車を曳くのに重宝されましたが、
そのまま乗っても非常に快適です」
キラーヤはおそるおそるその馬に近づき、
「すみません、
ちょっと旅のお手伝いをしてほしいんですが」
話しかけた。
スレイプニルは嬉しそうにぶるるんさせ、
「いいですねえ、
外の空気も吸いたいと思っていたところです。
ディアドラ様のご推薦とあらば張り切らねば」
「では、私はキラーヤ。
仲間になってくれますか?」
「喜んで、キラーヤ様」
胸に結ばれた糸を確認し、二人を振り返ると、
「これで陸路は確保できましたね」
とにっこりの教授と、
「こんなにイージーでいいのかよ」
と首をひねるルカリアが対照的で笑ってしまった。




