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ルカリアが語るには、
制圧されたダンジョン(現図書館)を中心として、ここロインの街が興された。その後街は順調に栄え、学術都市として多くの学者を集めたが、
ある日街のはずれに、突如として新たなダンジョンが現れたそうだ。
既にロインは学問の街としてのブランディングを確立し、ダンジョン制圧目的の荒くれ者や冒険者、獲得品売買目的の商人の跋扈により街の景色が変わることを許容し得なかった。
どうしたものか、しかし管理なきダンジョンは悪しき者を集める。
ということで頭を抱えていたところに参じたのが、現魔物研究所所長、「史上最強の学者」ディアドラ・ヨーク教授であった。
「え、その人ルカリアより強いの?」
「どうだかな、
だがヤバさで言えばあっちが数段上だ」
ディアドラ・ヨークは当初一介の学徒に過ぎなかったが、調査員としてダンジョンへの立ち入りを求めた。学術的な調査目的であれば街の方針と違わず、その要求は許可された。単身で潜入したディアドラ・ヨークはそのままダンジョン内に居座り、魔物の生態に関する優れた論文を発表し続けた。
「え、ダンジョンの中で論文書いたって事?」
「そう。ダンジョンの中で魔物の観察をして、
それをその場で寝泊まりしてまとめたんだ」
「ヤッバ」
もちろん道中魔物に襲われることもあったが、その攻撃パターンや威力についても独自のカテゴライズを用いて分析して己の学術業績としてしまったらしい。
もちろん魔物には勝ったということでもある。
「その功績が認められて、
ダンジョンそのものを研究機関とし、
ディアドラのために魔物研究所が設立され、
教授に就任し今に至る」
「それは最強だわ」
「俺たちが今から会いに行くのはそういう人だよ」
どうしよう、コミュニケーション取れないくらいヤバい人だったら。
キラーヤはめかし込む間にリサーチすれば良かったと悔いた。
が、時既に遅しである。
「ル、ルカリアはあったことある?
そのヨーク教授に」
「いや、ない。
ある人のほうが少ないと思うぜ」
なんせ普段はダンジョンにいると思われるからな。
あぁ~やっぱり行くんだ、ダンジョン・・・。
ルカリアに引きずられるように門についた呼び鈴を鳴らす。
ガラーンコローン、とやたら大きな鐘の音が屋敷中に響き渡る。
『頼む、留守であってくれ』
との祈りもむなしく、ガガガッと大きな音を立てて門が開いた。
とほぼ同時、庭を挟んだ向こうの建物の大扉がバン!!と勢いよく開き、
「ようこそ~~~!!!」
とロングワンピースを纏った女性らしきシルエットの人物が両手を広げて絶叫した。
「な、なにあれ大歓迎」
「なんだろな」
女性は砂煙が上がりそうな勢いでこちらへ走ってきて、迷わずキラーヤの手を握った。
「またお会いできると信じていましたよ!!」
とちぎられそうな力で握った手を上下に振られ、キラーヤは目を白黒させる。
「また、って・・・あ、」
よく見ると、その女性はロインに入った当日にキラーヤに絡んできたあの女性だった。
『ここの関係者だったのか』
「どうぞどうぞ、お入りになって!
この日をどれだけ待ちわびたか!」
歌い出しそうな上機嫌で屋敷に迎えられ、案内され「お茶を淹れてきます」と待たされた来賓室で、キラーヤとルカリアは身体を縮ませた。
「うーん、
もしかして入門希望と間違われたかもな」
「や、やっぱり?!どどどうしよう」
「どうしようも何も、正直に言うしかねえだろ。
紹介状もあるんだし」
とコソコソ小声で相談していると、
「お茶が入りましたよ!!」
と先ほどの女性がまたも扉をバン!と勢いよくあけて登場した。
「どうぞお飲みになって!」
何とも強めの圧で進められるがまま恐る恐る口に運んだ茶であったが、
『あ、美味しい』
意外な滋味に思わず頬が緩んだ。
「お好みだといいのですが」
女性は相変わらずキラーヤをロックオンし、脇目も振らずその反応を窺い見ている。どう答えようか口を開こうとすると、ルカリアが横から肘で小突いてきた。
あぁ、切り出せってことね。
「あ、あの。
私たち皇都から参りました。
こちらのヨーク教授にお目通り願えますでしょうか。
これ、トライツ・ティンバーレイクからの紹介状です。
仔細はこちらに」
そう言って紹介状を女性に手渡す。
女性は全くためらいなくその文書を開封すると、内容をガッツリ読み出した。
『えええ、開封しちゃったよ・・・』
どういう関係者か知らないが、ヨーク教授宛の書状を読むことを許されているのだろうか。
確認し終わった女性は紹介状を丁寧に畳むとテーブルに置き、
「こんなものなくとも、
あなた様ならいつでも大歓迎ですのに。
申し遅れましたが、私がディアドラ・ヨークです。
お目にかかれて光栄ですわ、『まもの使い』様」
目の前の女性は姿勢を正すと、ポケットのカードケースから写真入りの証明書を二人に見せ得た。
『魔物生態研究所 主任教授
ディアドラ・ヨーク』
確かに女性の顔写真に添えて記載があった。
二人は慌てて深く頭を下げ、「とんだご無礼を」と謝罪する。
「いいえ、全く気にしておりませんわ。
私のほうこそ始めに名乗らず申し訳ありません」
深く頭を下げたヨーク教授は、ややあってガバッと頭を上げた。
「というか、
私からお訪ねするつもりだったのです」
ヨーク教授はぶつぶつと独り言のように呟いた。
「あなた様のご降臨を察知してから、
すぐさま馳せ参じたかったのですが。
生憎いろいろとやることがありまして。
その些事を片付けている間に、
あなた様がこちらの方角へ旅立たれ、
有り難くもこの街に立ち寄られ、
さらには拙作をお手に取って頂いたことの喜びときたら!」
あまりに当然のことのように語るが、いくつか言っていることが可怪しい。
『私たちの行程を何で知ってる?』
と二人は目を点にする。
「え、えっと、
教授は私のことはいつ知って頂いたのでしょう」
「ご降臨のすぐ後から」
「一応トップシークレットでは・・・」
「魔力を感知致しましたから」
「おま、お待ちください」
ルカリアが割って入る。
「申し遅れました、
私は前任『秘術の賢者』ルカリア。
口を挟んで申し訳ないが、
魔力の感知とは何のことですか?
私でも知らない術のようだが」
ここでヨーク教授は初めてその視界にルカリアを入れたようにじろりと彼を見ると、
「あら、初めましてルカリア殿。
ご功績はこの街にも轟いておりますわよ」
と軽く頭を下げた。
「あと、拙作を手に取った、とは、
こいつが図書館で借りたあなたの著書か?」
「えっ」
「ええ、その通り」
全く気づいていなかったが、
先日借りたものの中にヨーク教授の著書があったらしい。
「なぜ借りたと分かった」
「それは私の著書ですから、
私の耳目であり手足でもありますでしょ」
「なんだそれは・・・!
そんなわけあるか・・・!」
ルカリアは驚きに顎を落とし、ゆるゆると首を左右に振っている。
そのままぶつぶつと自分の世界に入り、「どういう術だ?ジョブが関与してるのか?」などと脳内ディスカッションを始めたルカリアを放置し、ヨーク教授は朗らかに笑いかけた。
「という訳で『まもの使い』様、
私をあなた様の下僕にしてくださいませ」
「は、ハァ?!下僕?!」
「そうです。
どうかあなたの真名をお授けください」
「真名?そ、そんな、魔物じゃあるまいし」
「いいのです、その御名を、さあ」
じりじりと迫るその圧に堪えきれず、
「き、キラーヤ、です、教授」
思わず答えたキラーヤに更に教授は詰め寄る。
「その後は?!
魔物達を仲間にする際なんと?!」
「『仲間になってください』!」
「喜んで!!!」
その瞬間、キラーヤとヨーク教授の間でピン、と張られたのがお互い分かった。
胸を押さえてほくほく顔の教授に対し、
「何で?」
と驚愕するキラーヤとルカリアだった。




