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「あら、他の街に来てるのね」
一人になったホテルの部屋で、キラーヤはクダギツネと九尾の狐を呼び出していた。
「そうなの。
ちょっと協力してほしくて」
「なんなりと」
九尾はしっぽを揺らめかせて答えた。
クダギツネは何かそわそわと、頭を上げたり下げたりしている。
「魔物図鑑っていうのを手に入れたのよ」
「ふうん?」
「色んな魔物が載ってる本なんだけど。
九尾の狐、はこのページね」
「どれどれ。
あら、可愛く描けてるじゃない」
キラーヤが広げて見せたページを一緒にのぞき込むと、炎を纏って尻尾を大きく広げた自らの挿絵を見て嬉しそうに笑う。
「実物のほうがもっと綺麗だけどね。
で、ここ、火属性ってあるじゃない」
「ええ、そうよ」
「火が出せるってこと?」
「そうね。だから攻撃や目くらましには火を使うわ」
「じゃ、弟のクダギツネくんは?」
「僕?僕は特になにもないの」
「へえ?
魔物ってみんなが何か属性持ちな訳じゃないんだ」
「まぁ、その属性っていうのも人間が考えた区分けだから。
この子も大きくなったら何かの能力に目覚めるかも」
「そういうものかぁ。
あのね、協力してほしいことなんだけど。
今後何か私に危険が及んだりしたとき、
こうやって呼び出して技を使って貰う事って、
お願いできたりする・・・?」
キラーヤは旅の途中、『まもの使い』の能力の使い方について考えていた。
伝承による『まもの使い』によると、魔物を操り我が物のように使っていた、とのことだった。そしてこのスキルにある「召喚」、これすなわち?
某ポケット系魔物に準じた使い方かなぁ、と思い至ったのである。
九尾は首をかしげ、不思議そうにする。
「何言ってるの?
駄目な訳ないじゃない」
「あ、ありがとう・・・!
ごめんね、あなたに全然メリットないのに」
「いや、それがあったのよ」
「そうなの?」
「金色の鹿神がいたでしょう」
「あ、神なんだ、あの金色の鹿」
「土地神ってやつよ。
彼に聞いたのだけど、あなたの魔力って、
私たちにとってご馳走らしくて」
「あ、なんか言ってたかも」
「あなたの仲間になってから、
あなたの魔力が少しずつ流れ込んでくるの。
これがまた、毛並みは良くなるわ、
火の威力は増すわで凄いんだから」
「そ、そうなのね」
「だからお安いご用よ、いつでも呼んでね」
そう言って九尾は帰って行った。
クダギツネはそのまま残り、まだ何かそわそわと言いたそうな顔をしている。
「どうしたの?クダギツネ」
「あのね、キラーヤ。
僕、一緒に行っちゃだめかなあ」
「え、どうしたの」
「僕、キラーヤの魔力をもらって、
何だかとっても力が満ちてるんだけど、
どうやって力を使って良いか分からないの」
クダギツネは足らない言葉を一生懸命紡ぎ、自分の身体にめぐるエネルギーの変化や、「何かできそうな気がする」という予感、その「何か」が分からないもどかしさについて説明しいた。
「そうかぁ、申し訳ないけど、
私も力の使い方は分からないなあ・・・」
「でも、キラーヤといたほうが良い予感がする!
お願い、お願い!」
「そうなの?こっちは構わないけど、
人間の前に出たら迫害されたりしない?」
「わ、わかんない。
じゃあ、この姿なら?」
クダギツネは顔を自らの毛皮に突っ込むと、
手足も毛の中に収納してしまう。
そうするとまるで、
「マフラーみたいじゃん」
「でしょ?」
「これなら首に巻いて出かけられそう。
苦しくないの?その体勢」
「大丈夫、僕寝るときは大抵こう」
「じゃいいか、一緒に行こう」
「ありがとう!
お姉ちゃんには言ってあるから、
心配しないでね!」
こうしてクダギツネは森に帰らず、キラーヤと行動を共にすることになった。
夕食を共にしたルカリアの前にクダギツネマフラーを巻いて行くと、「マフラー買ったのか?あんまり季節じゃないけどいいじゃん」とお褒めにあずかり、「じゃーん!クダギツネでしたー!」とネタばらしするところまで存分に楽しんだキラーヤであった。
ーーーーーー
「じゃ、行くか」
本日はついに、この街での目的地である魔術研究所に向かう予定である。
「行きましょう」
首にクダギツネ、手にはメモ帳と筆記具、そしてトライツからの紹介状をしっかり抱え、キラーヤは気合いを入れた。
「変じゃない?失礼じゃないかな?」
そういってルカリアにファッションチェックを頼む。
この日のためにロインの衣装屋で店員の手ほどきを受けながら、研究機関に挨拶に行く際に相応しい服装を揃えたのだ。
今のキラーヤはシャツにトラウザーズ、そしてクリーム色のローブ姿であった。
『白に近い色を身につけるのが、
教えを請う相手に対する敬意を表すのよ』
とのことだった。
曰く、各学術分野ごとにおおよそテーマカラーが決まっており、そのどれもに属しない白に近い色を選ぶことは、教えを請う相手を尊重することに繋がるのだそうだ。
普段から白衣を着慣れているキラーヤにとってはなじみが深いとも言えた。
「ああ、問題ない。旅装には向かんがな」
「いいのよ、こういう日に使う服も必要」
「そんな事言ってると山ほど服が必要になるぞ」
「だまっらっしゃい」
軽口を叩きながら大通りを歩き出す。
てっきりあの広場に向かって歩き出すかと思いきや、全く見当違いの方向へ歩き出すルカリアにキラーヤは怪訝な顔をする。
「あれ?広場のほうじゃないの?」
「あー・・・魔物研究所は、ちょっと・・・
別のエリアにあってな」
何となく歯切れの悪いルカリアについていくと、どんどん街の外れのほうに歩いて行く。
「あれあれ、これもしかして」
「お気づきですか、キラーヤ殿」
「その危険性故に、
ちょっと辺鄙なとこに追いやられているとか」
「当たらずとも遠からず。
魔物研究所は特殊なんだ。
大事な機関として尊重されてはいるが」
着いた、と見上げた建物は、
「おお、意外と普通だ」
こじんまりとはしているが、立派な洋館で手入れも行き届いているように見える。
良かった、ボロボロの吸血鬼伯爵が出そうなところじゃなくて・・・!
「でも、意外ね。
魔物を飼育しながら研究してるって割には、
周囲に特に柵もないし」
「そう。
この魔物研究所は、
このロインの街では新興の機関なんだ。
そしてその設立のきっかけが・・・」
グオオ、グオオオオ!!
「な、なに、この声」
どう考えても魔物研究所の方角から何某かの雄叫びが響いている。
「実はここ、
ダンジョンそのものなんだよな、
・・・未踏破で現役バリバリの」
「・・・え?」
今から私、ダンジョン行くの?
キラーヤの膝関節は途端にギギっと軋むのだった。




