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その後、ルカリアの「数日休もう、金も時間もあるし」との温情により、キラーヤはロインで療養と観光を兼ねた時間を取ることになった。
回復術もどきを掛けて貰った足は確かに傷の治りが早い。
ゆっくりではあるが、一日のうち数時間はルカリアと共に外へ出て、街の見物もできるまで体調も戻った。
「へえ、街でいちばん大きな建物が図書館ってすごいわね」
大通りから広場をまっすぐ突っ切った先、街の最奥にある大きな建物にやってきた。
つやつやした黒い石づくりの重厚なエントランスをくぐると、天井に白い明かりがいくつも浮いている広い空間が広がっている。
大きなカウンターの奥ではたくさんの人が静かに、でも忙しそうに働いている。
「蔵書が多すぎてな。
利用者はカウンターで必要な本の名前やキーワードを書いて、
それを窓口に提出するんだ。
本はそれぞれ秘術に紐付けられて管理されてるから、
それを引っ張ってきて貰うシステムだ」
「おおー!あるある!うちの国にもそういうシステム!」
「そうなのか。
そっちの国でもダンジョンを使ってるのか?」
「ん?」
「ん?この図書館は制圧した元ダンジョンに作ったんだが」
「ごめん、うちの世界にはダンジョンはない。
ゲームや物語の中にしかない」
「ないのか!便利なんだがな。
一度完全に制圧してしまうと、
地下何十層もの空間が手に入るし」
「凄い活用法だね」
「ただ確かに扱いは難しいから、
ここロイン大図書館の司書ってのは超エリートなんだ」
「へえ」
「本の管理と同時に、
利用者が何を調べたいか聞き取りして、
必要な蔵書を提案してリストアップする頭脳も必要だ」
「なるほど確かにそりゃ大変だ」
「退官した各機関の教授とかがゴロゴロいるぜ」
「ルカリアとどっちが偉いの?」
「『賢者』やってれば業務上は当然俺だった。
今は何者でも無いからあっちのが偉い」
「あ、そうだった。その辺ドライなんだった」
ルカリアはカウンターに近づくと、
「やあ、ゼペットさん」
と声をかけた。
振り向いたのは白い髭を顎中に蓄えた、サンタクロース縮小版みたいなおじいさんだ。
きっちりとしたシャツにループタイを締め、ベストを身につけている。
『おお、ザ・司書って感じ』
「お前、ルカリアか。
賢者の仕事をやめたって本当か」
ゼペットと呼ばれたおじいさんはすぐにルカリアに詰め寄ってきた。
「ああ、それより面白いもんができたんでね」
そう言って赤い瞳でキラーヤにウインクを寄越す。
やめろやい。
ゼペット爺さんはルカリアとキラーヤを交互に見やり、
「お前さんがそういうタイプだとは思わなんだ」
と呟いた。
なんか盛大な誤解を生んでいる気がする。
「で、今日は何しに?」
「ロインの街案内さ。
ここに来なきゃ始まらないだろう?」
「まあそれはそうだな。
お嬢さん、学術都市ロインへようこそ」
「ありがとうございます。
こちらは素晴らしい図書館とお聞きしました」
「そうだ、ゼペットさん。
こいつに本を選んでやってくれ。
初学者向けの魔物図鑑がいいな。
旅の途中なんだが、
こいつてんで魔物の扱いを知らないんだ」
「魔物図鑑か。よしきた、まかせろ。
お嬢さんが持てるサイズで、
旅の途中困らぬように知識を授けるものじゃな」
ゼペット爺さんは振り向き、何やら机に向かって作業を始める。
「ゼペット爺さんは司書の中でもベテランだ。
任せておけば良い本が手に入る。
貸し出しは2週間まで可能だから、
休んでる間にでも読むと良い」
「ありがとう!助かるわ。
ああやって必要な本を考えてくれるんだ。
司書ってほんとに凄いのね」
「ああ、凄いぞ。
ちなみにここの司書が束になっても叶わないのが、
『知の賢者』トライツだがな」
「あの若さでどうなってんのよ・・・」
「まあ、それが『知の賢者』ってやつだ」
ルカリアはなぜか少し寂しそうに笑った。
そうこうしている間にゼペット爺さんが戻ってくる。
「さあ、このくらいでどうだ」
書き付けられたリストには3冊の本の名前が書いてある。
「ど、どう?ルカリア」
「良い感じだ。
ゼペットさん、これ3冊とも頼むよ」
「分かった。お嬢さんは初めてだったな?
せっかくなら見においで」
「え、何を?」
「本が出入りするところさ」
サンタクロースばりのチャーミングなウインクを寄越し、「さあどうぞ」とゼペット爺さんはカウンター内へ案内してくれた。
司書のデスクがたくさん並ぶエリアを抜け奥に進んでいくと、突き当たりの壁に大きな扉付きの穴が空いている。
「業務時間内はこの扉は開きっぱなしじゃ。
ここから先が元ダンジョン。
各階層にところ狭しと書架が並んでいる」
その穴に向かってゼペット爺さんが先ほどのリストをかざすと、紙は金色の粉に変化し、穴に吸い込まれていく。
「魔物関係は下のほうの階層じゃから、
少し時間がかかるぞ」
じいっと穴を眺めている間、別の司書さんが返却された本を持って穴に近づいてきた。穴に本をかざすと、ヒュ、と本が吸い込まれていく。
「ここの本たちは自分の家を知っとるからな。
ああして投げ入れれば自分で勝手に帰って行く」
「すっご・・・」
あまりの非現実感に顎が落ちっぱなしのキラーヤに、「いいリアクションじゃ」とゼペット爺さんは嬉しそうだ。
「さ、来るぞ」
本が出てくる予兆を感じ取ったゼペット爺さんは両手を摺り合わせ、パン、と腿を叩いて構えた。
じいっと穴を見ていると、穴の奥からもの凄い勢いで本が飛んでくる!
それが三冊立て続けに飛び出してきて、ゼペット爺さんはバシィと見事に受け止めた。
「久しぶりの出番で張りきっとるわい」
と本を撫で、「ほらよ」とキラーヤに渡してくれた。
「この知識はきっと君の役に立つ。
連れて行ってやってくれ」
「あ、ありがとうございます。
大切に勉強させて頂きます」
ニカッと良い笑顔のゼペット爺さんに見送られ、図書館を後にした。
宿に戻ってベッドで眺めた本は確かにわかりやすく、「あんたたち有能ねえ」と本を撫でると、
ぶるり
と本が震えた気がした。




