≪ふとくてじょうぶなひもの専門店≫
≪ふとくてじょうぶなひもの専門店≫
ノルエアには『ふとくてじょうぶなひもの専門店』なる謎の店がある。
まあまあ。けっこうみかける。よく。そしてやばいくらい行列になっている。
今日、俺は、この店にきてみた。
よく行列になっているので一度はいってみたかった。よくだ。
俺は流行には興味がないが継続して人気があるようなので一時的な〝流行りもの〟というわけでもないのだろう。いまもさまざまな髪の色をしたひとたちがならんでいる。
ピケとタイケにもいかないかと声をかけてみたが、ふたりともえんりょするとのことだったので、ひとりで、はいることにしたのだ。
(タイケはいま店の前までついてきてくれているが)
行列やひと混みはとくいなほうではないが、まあ。まずそうだったら退避すればだいじょうぶだろう。
はじめての店にひとりではいるのはきんちょうする。いざ、はいってみる。
(俺は兵士だからかひとりのときはこういうかたいかんじになってしまうのである)
◇
そんなにひろくない店の中では、まさになまえのとおり〝ふとくてじょうぶなひも〟がたくさん売られていた。
なんと、そのままもっていってもいいものまであるようだ。
たいへんひとでにぎわっており、人気店なんだな。とおもった。
でも しずかだ。
こんなにひとがいるとはおもえないほど、しずかだ。
なんだかうっすらと泣いているような音もきこえる。
(そんなにかんどうするのか。みんな、だまって真剣に商品をみているんだな)
商品を見る。ふつうのロープのほかにも青とか、黒とか、きいろとか、深緑といった色とりどりの太いロープがあったり……いぬの首輪などもあるな。ふーん。たしかに、じょうぶそうだな。
値札には〈せめてすきないろをつかおう〉とかいてある。
(「せめて」ってなんだ。おかしくないか。急に。せめ、なくていいだろう。そこは。こくごがすきだからかこういうのは気になる。正しければいいというものではないが。いや、むしろそういう小うるさいかんじはいやなのだ。が。ここにかんしてはまちがいなく『すきないろをつかおう』だけでいいだろう。きゅうにでてくるな。きゅうに。「せめて」は。
ちなみに俺は倒置法がすきだ。どうでもいいし急だけどな)
かべの掲示板には記事のスクラップがはられている。この国の王と王子にかんする出来事の内容のようだ。むこうにある窓のそとからはタイケがこちらをみている。
(…………。にしても。なににつかうんだ?)
みんなかってるけど。荷物をしばったりするんだろうか?
こんなにたくさんいるのか、荷物をしばりたい人が。ひっこしでもするのか。
(でも、いっぽんだな。みんな、かってるのは。荷物をしばるにはたりないな。
ひとりいっぽんまでというきまりでもあるのかな?)
かべや掲示物を見たけどとくにそのような規則はかいていない。
まあ。せっかくきた記念に俺もすきな「空色」のロープでもかっていくか。
とおもったが空色はなかったので、なにもかわなかった。
そのまま店を出た。
◇
「(……。よくわからない店だったな)」
いまは食堂でいっしょに夕食を食べているがタイケもピケもなにも聞いてこないので、とくに興味がないらしいな。
(人気みたいだったから、たのしみにしていたんだけど。とんだ肩透かしである)
……まあ───。
『みんながすきで、世間で人気でも、じぶんにあうかはわからない』
ってことかな。
そうだ。そういうことなのだろう、きっと。
なにせすきなものは人それぞれなのだから。
なにも異常はない。
──≪ふとくてじょうぶなひもの専門店≫おしまい──
'25/08/11




