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風を呼ぶ器  作者: katari
7/9

第七話 再

灰が積もった棚田の端から、緑が顔を出していた。

焼けた畦の割れ目に、小さな芽が揺れている。

それは、風が運んだ命の記憶だった。


ムラは静かに復興を始めていた。

倉の扉が開き、誰もが話し合いながら、風の通り道を探して、手が動いていた。


ツカサは、焼けた工房の跡地の地面に新たな図を描いていた。

かつては、完成した図をみて、ただ命令するだけだった彼が、今は風の流れを見ていた。

「ここだとまずい。建物は少し北へずらそう」

彼は、風に従いながら配置を調整していた。その作業には、祈りが満ちていた。


アマギは、考えていた。

火山の夜以来、彼の中には言葉にならない揺らぎがあった。

秩序が崩れたとき、風が道を示した。

それを否定することは、もうできなかった。


彼は混乱を覚えながらも、復興の指示を出した。

「倉の再建は、対話をもとに。水路は、、、ええいトモリはどこだ?」

その声は、かつてのような威圧ではなかった。 村人の顔を見ながら、少しだけ言葉を選んでいた。

その目には、気遣いの色が混じっていた。


鍛治炉の跡地では、モリヒコが羽根を転がしながら、風の通りを確かめていた。

そこへカネハラが炉の図を持って近づいてきた。

「ツカサから聞いた。再建するときは、風の道を考えるように、と」

「風を遮らない場所はどこだ?」


モリヒコは、持っていた羽根をそっと離した。

それは地面に落ちることなく、風に乗って小さく舞って、焼け跡の外縁で止まった。

モリヒコはその場所を指差した。

「この向きなら、風が通る。鉄とも、争わずに済む」


カネハラは頷いた。

「風は命令を聞かない。 なら、こちらが譲るしかないな」


モリヒコは少しだけ笑った。 「譲るんじゃない。風と共にあるんだ」


二人は、図をみながら話し込み出した。

それは、風の道を設計する作業にもみえた。


小さくなってしまった草地では、カザマが怪我してしまった馬の足を見ていた。

灰の中で蹄が痛まないよう、地面を選びながら歩かせていると、風がさっと吹いた。

サネヒコ横にやってきて馬の耳元に囁いていた。

「風が戻ってきた。もう迷わなくて良いね」


子どもたちは、変わらぬ表情で遊んでいた。

灰の中でも、笑い声は風に乗って響いた。

最も変化に強いのは、いつも子どもだった。


そのうちの一人が、地面に指で円を描いた。

もう一人が、方形を重ねた。 それは、オウの印だった。


だが、彼らは続けて、その中心に、渦を巻くような線を描き、

そこから羽根のように広がる曲線を伸ばした。


アマギは、その模様を見て、息を呑んだ。

「これは……良いのか?」


「風の模様!」

子どもたちが楽しそうに叫ぶ中で、トモリが静かに言った。

「子どもは、命令をなぞらない。包まれたものの中で、形は変わる」


「これで……良いのか」

アマギは、自分に言い聞かせるように小さく頷いた。

かつてのオウの印は意味を変えていた。

ハネサトの中で、アマギは生きていく。


カネハラと別れ、丘へと上がったモリヒコ。

風が、彼の髪を揺らした。

胸に抱いたカネは、風を受けて、かすかに音を鳴らす。

モリヒコは、そっと呟いた。

「風よ、人の形が変わろうとも、ともにあらんことを」

一条の風が吹いた。

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