095 やり過ぎの先頭、迫る紺碧
スタートラインの中央に立つと、七体の機人たちに挟まれた。隣に立つシンヤさんの魔導機人を見上げる。
紺碧の機体の装甲は薄く、他の機人よりも細い。両肩に載る砲身は太く短く、砲口も大きい。遠距離の射撃には適していない形状に、眉をひそめた。
細身の機体に、巨大な砲身が二門。不安定な機人のはずだが、真っすぐ立ち、微動だにしない。シンヤさんの操縦士としての実力を垣間見た。
あの砲身にどんな意味があるのか――考えても仕方ない。前を見据えると、スタートを知らせる信号機のライトが赤く灯った。
その瞬間、観客席から歓声が轟き、地鳴りが起きた。かすかに足元が揺れる。俺はすぐに、魔力消費を抑えるため停止していた各機能を起動させた。
モニターは映像を鮮明に映し出し、背中の魔燃機関が唸る。排気口から熱風が吹き出し、かすかに機内の温度が上がった。
ファンが猛烈に回転し始めると、信号機の最後のライトが青く灯った。
俺は腰を深く沈めると、一気に地面を蹴った。ボォン、と轟音をあげ、視界が高速で流れる。モニターの左下に映る背面映像には、小さくなっていく機人たちが一瞬だけ見えた。
昨日よりさらに魔力の総量は増えている。それに明日は競技がない。魔力残量を気にせず、思い切り武蔵零式を動かせる。
とはいえ、優勝することが第一の目的だ。全身の神経を集中し、無駄な動きを削ぎ落として燃費を抑える。
膝の上げ方や、つま先が地面に接触するときの角度――全身の神経を研ぎ澄ませて制御する。疾走しながら、先生の言葉を思い出す。
『武蔵零式も他の機人と同じく、魔核を通して動きのイメージを伝達しているんだ。機人は操縦桿を通して伝えているが、武蔵零式の場合は首筋にある装置からイメージを送っている』
武蔵零式も機人と同じ原理らしい。というか、この武蔵零式をもとに他の機人は生まれたから、当然と言えば当然だ。
俺は首筋にしっかりと固定された装置――『ブレイン・コア』に意識を集中させると、より詳細に体の動きをイメージした。
その瞬間、さらに加速した。思わず魔力残量を確認する。モニター右下には『122/125』。
スタートしてから一分も経っていない。本来なら魔力消費は『1』だけだ。だが、高速移動並みの動きをして『3』なら、悪くない。
俺はほくそ笑み、ふと視線を上げる。目の前には第一の障害――急勾配の四連の悪路が迫っていた。
◆
一気に先頭に立ったソウガに、苦笑いを浮かべる。もはや周囲から注目され、実力を隠す必要はないとはいえ――やり過ぎだ。
隣に座るナツメとハンナに視線を向けると、二人とも複雑な表情をしている。
ハンナはトップを走るソウガに喜んでいいのか迷い、ナツメは如何に武蔵零式の能力を隠そうか思案しているように見えた。
ソウガに対する婚約者としての二人の立ち位置がはっきりと分かり、口元を綻ばせた。
――ハンナは心を支え、ナツメは外敵から守る。いい関係を築きつつある。安堵の息を吐きながら、思考を巡らせる。
ソウガを取り巻く環境は、徐々に悪くなりつつある。まだ十六歳で、王族や反乱勢力の貴族たちに目を付けられ、冒険者ギルドもその動向を注視している。
それに噂では、光武七翼もソウガにちょっかいをかけようとしているらしい。
規格外の魔法と機人を併せ持つ風雲児。仕方ないかもしれないが、俺の教え子だ。できる限り、守ってやらなければならない。
俺だけでは限界があるが、ナツメとハンナ――この二人の才女が支えてくれれば、大抵の困難は退けられると確信している。
思考の海に沈みかけたとき、急に歓声が上がった。視線を上げると、ソウガが第一の障害である傾斜四十五度の坂を、一気に駆け上がっていた。
首を横に振り、気持ちを切り替えて目の前の試合に集中する。
急勾配の坂を登るソウガから、後続に視線を向ける。スタートこそ出遅れた他校の機人たちだが、その差は詰まっていた。
二メートル強の武蔵零式と、八メートルの機人では歩幅が違い過ぎる。一歩進むごとに、その距離は縮まる。
ソウガが坂の頂に到着したときには、その麓まで迫っていた。だが、七体の機人はすぐには登ろうとしなかった。
昨日の試合でソウガが頂上を穿ち、土砂崩れを起こしたことを知っているからだろう。すべての機人が立ち止まり、猛烈な速度で登る武蔵零式を見上げる。
そのとき、坂の頂部が爆ぜた。昨日よりも激しい土砂崩れが起き、急勾配の坂は大きく形を変えた。
顔を上げると、空高く舞うソウガの姿があった。やはりやり過ぎだ。ため息を堪えて視線を戻すと、半壊した坂が目に飛び込んできた。
変わり果てた坂を前に誰もが言葉を失う中、紺碧の機人が動き出し、悠々と進み出した。多少ぬかるんでいるが、傾斜は緩くなり、高さも半分以下だ。
すぐに一つ目の坂を越えると、次の坂を目指す。その姿に他校の機人も我に返り、後に続いた。
後続の状況が分からないソウガは、三つ目の坂に降り立つと、再び跳躍した。
そして、その反動で坂を半壊させ、緩やかな勾配に変え、後続の機人たちを有利にした。
まだ十六歳の学生だ。詰めが甘いのは愛嬌だと、苦笑する。
やがてソウガが黒鉄の柱が乱立する第二の障害に着くころには、その差はわずかとなり、紺碧の機体――シンヤ君の魔導機人が、すぐそこまで迫っていた。
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