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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


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086 『火』と揺れる心

 私たちが訓練場の壁際まで避難すると、機械で拡張されたソウガの声が届く。


『あつか』


 全員が息を呑み、じっと見守る――が、一向に何かが起こる気配はない。堪らず、リュウゾウ先生が声をかける。


「おーい、ソウガ。<五大>機能『火』は起動したのか?」


 武蔵零式がこちらを向き、小さく首を横に振った。バイザーに浮かぶ光る目が、わずかに暗くなったような気がした。


「ぷっ、まただね。ちょっと前も同じことなかったかな? たしか学園の訓練場でキヨコさんに武蔵零式の性能を見せたときだったっけ?」


 思わず憎まれ口が出てしまった。装甲で表情が見えない武蔵零式――ソウガからは傷つき、落ち込む気配が漂う。


 ――その姿を見て、後悔する。


 悪い癖が出た。他人を揶揄い、つい主導権を握ろうとしてしまう。貴族社会で生き抜くために自然と身についた処世術。


 悪気はなかった。反省する私をハンナが軽く睨み、言葉を引き継ぐ。


「ソウガ、何か変化はなかったの。あったら教えて。リュウゾウ先生なら、何か分かるかもしれないから」


 その言葉にソウガは頷くが、何も言わない。些細な変化がなかったか思い返しているみたいだ。


 やがて装甲が開き、彼は武蔵零式から出て来ると、ハンナのもとへ歩き出した。私の前を通るが、一瞥もしなかった。


 やはり怒っている。胸の奥がきゅっと縮む。視線が落ちて足元を見つめると、ソウガの声が届く。


「ハンナ、さっきと同じだ。『あつか』と言った直後、『火』が点灯したが、一瞬だった。今度は魔力を込めて唱えたが、起動しなかった。……ほかに変化はなかったと思う」


 頭を掻いて項垂れるソウガ。ハンナが優しく肩に手を置いて慰める。その姿に、また胸がちくりと痛む。


 気持ちを切り替えようと、リュウゾウ先生に尋ねた。


「先生、<五大>機能『火』だけど、どうやって使えるようにしたの? <五大>っていうくらいだから、あと四つぐらいありそうだけど……」


 先生は落ち込む私に、柔らかな表情を浮かべて答えた。


「ああ、知り合いに古代文字に詳しいヤツがいることは話したと思うが、そいつが五琳書(ごりんのしょ)の一部を解読して、見つけたんだ。<五大>機能と、その中のひとつ――『火』の始動方法についてな」

「……それで、どうやって眠っていた『火』の機能を起こすことができたの?」


 もったいぶるつもりはないだろうが、少し回りくどい。そう思った私は言葉がきつくなった。


 それでも先生は気にした様子はなく、一枚の紙を差し出した。


「この紙に書かれている言葉を胸のパネルから入力したら、『火』の機能が目覚めたんだ」


 その紙を受け取り、中身を確認しようとしたとき、いつのまにかソウガが背後に立ち、顔を近づけて覗き込んだ。


 心臓が跳ねる。肩越しに紙を見やるソウガ――頬と頬が触れそうになり、わずかに頬が染まる。だけど、それを悟られまいと紙に書かれた文字に集中する。


(いし)()のあたりを(さと)ること、剣を交える刹那、勝敗は一瞬に決まる』


 兵法書に出てきそうな言葉だった。これが<五大>機能『火』を始動させるためのキーワード。


 『火』という言葉は含まれているが、とくに手掛かりとなるようなものはなかった。リュウゾウ先生に紙を返そうとしたとき、ソウガの手が伸びた。


「ありがとう、ナツメ。もしかしたら本当に起動方法が分かったかもしれない。お前のおかげだ!」


 私の手の上に、彼の手が重なる。興奮のせいか、ソウガの手が熱い。――いやもしかしたら、それは私のほうかもしれない。


 背後から手を握られ、頬が触れるほど近くにソウガの顔がある。ちらりと彼を見る。黒髪の隙間から金色の瞳が輝いていた。


 新しい玩具を前に興奮する子供のようだ。再び、とくりと心臓が跳ねた。ぼうっとする私に気づくことなく、彼は紙を受け取り、先生のところへ走っていった。


 耳まで真っ赤に染まった私が、その背中を見つめていると、頬を膨らませて睨むハンナと視線が重なり、苦笑いを浮かべた。





 リュウゾウ先生に紙を返すと、駆け足で武蔵零式のもとに戻り、急いで装着した。すべての装甲が閉じ、一瞬、視界が真っ暗になる。


 次の瞬間、モニターが起動して視界が開ける。すぐに魔力残量を確認すると、画面右下に『72/115』が浮かんでいた。


 ハンナから貰ったポーションのおかげで、半分以下まで落ちていた魔力もかなり回復し、控室からここまでの移動でも『2』しか消費していない。


 これなら、おそらく<五大>機能『火』を起動しても魔力枯渇は起きないはずだ。振り返り、先生たちが壁際から離れていないことを確認する。


 もう一度、心の中で新機能『火』を目覚めさせた言葉をなぞる。


『石火のあたりを覚ること、剣を交える刹那、勝敗は一瞬に決まる』


 この言葉は、俺の前世にいた剣豪・宮本武蔵が綴った五輪書(ごりんのしょ)にあった一節だ。


 やはりこの異世界は、俺がいた世界――『日本』、もしくは『熊本』と、どこかでわずかに重なっている。


 この世界で規格外の方言魔法。地球の神だと名乗ったあの女神が、この世界に干渉して創った機人――武蔵零式。そして、それに搭乗できるよう転生させられた俺。


 地球と異世界の神の思惑が何かは分からないが、関係ない。運命に抗うためにも力がいる。<五大>機能『火』を解放する覚悟を決める。


 ――ゆっくりと長く息を吐き出しながら、自分の考えを整理する。


 『火』を目覚めさせる言葉の中に『剣』があり、『あつか』で起動しかけた。そして、最強は方言。機人の名前は武蔵(むさし)零式。


 ――ふざけているようで、間違いない。俺は両手を天に掲げて、起動の言葉を叫んだ。


『あつか、――けん!』


 刹那、訓練場の天井を突き破るほどの閃光が迸った。

読んでくださり感謝です<(_ _)>

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