084 <五大>『火』への手掛かり
<五大>機能のひとつ、『火』の起動方法が分かったかもしれない――。
そう思った瞬間、思わず大声で叫んでしまった。周囲を見渡すと、他校の生徒たちが目を見開き、こちらを見ていた。
興奮のあまり配慮が足りなかったと頭を掻く。リュウゾウ先生はそんな俺を見て、苦笑いを浮かべながら場所を変えようと促した。
俺はすぐに空間魔法『なおす』で武蔵零式を亜空間に収納する。その瞬間、格納庫にいた生徒たちはざわめき始め、首を傾げる。
「ソウガ、空間魔法なんて宮廷魔導士でもごく一部の者しか使えない伝説の魔法。皆が驚くのは当然よ」
小さく首を横に振り、やれやれと呟くハンナ。
どうも最近は魔法を使っておらず、武蔵零式で戦っていたせいで、魔法に対する感覚がおかしくなっているようだ。
「そうだった、確かに気が緩んでいた。騒ぎになる前に場所を移ろう」
そう言ってハンナのほうを向くと、彼女はそっと魔力回復ポーションを差し出した。宮廷魔導士が愛用している高級な物で驚く。
「これを飲んで、ソウガ。気にしなくていいから。だ、だって、つ、妻なら夫を支えるのは当然だから!」
さっきの俺よりも大きな声で叫んだハンナ。耳まで真っ赤だ。そんなに恥ずかしいなら、言わなければいいのに――。
わずかに俯く彼女の頭を優しく撫でて、ポーションを受け取る。殺気を感じて振り向くと、周囲の男子たちが怨嗟に滲む視線を向けていた。
そのとき、背後から声が届く。
「色んな意味でこの場を離れた方がいいね、ソウガ。ハンナも、いつまでもモジモジしないで、さっさと行くよ」
振り返るとナツメが腕を組んで半目で睨んでいた。いろいろな意味で配慮が足りなかったと反省していると、リュウゾウ先生から頭を軽く叩かれた。
「もういいから、さっさと行くぞ」
それだけ告げると、先生は足早に格納庫を後にした。その背中を見つめ、我に返った俺たちは急いで、そのあとを追った。
◆
俺が格納庫を出ると、ソウガたちが追ってきた。その背後には、ソウガを睨む多くの男子生徒たちの姿があった。
ナツメとハンナ――二人の才媛から慕われる姿を見れば仕方ない。肩をすくめて三人を待つ。
ほどなく追いついてきたソウガに声をかける。
「とりあえず、次のレースが始まるまで控室に行くぞ。そこで詳しく<五大>機能『火』の起動について聞かせろ」
「わかりました、リュウゾウ先生。ちょっと待ってください」
そう言って、先ほどハンナから渡された魔力回復ポーションを一気に飲み干す。宮廷魔導士が愛用する最上級のものだ。大抵の者は一本で完全に回復する。
「……どうだ、回復したか?」
ソウガの魔力量は十万八千ほど。どの程度回復したのか気になった。
「そうですね、体感ですが、二割強ほど回復したと思います。さっきのレースで半分以上魔力を消費したので、今の魔力量は七割ぐらいかな?」
その言葉に呆れてしまうが、確信も得る。王家が秘蔵する魔力測定器が示した数値は間違いなかった。
一万から二万が宮廷魔導士の平均魔力量だ。それを全回復させるポーションを飲んで二割ほどしか回復しないなら、ソウガの魔力量は十万以上になる。
常識はずれの教え子にため息をつく。やはり学生召集は避けられそうにない。
ならば、少しでも戦場で生き残れる可能性を上げるために、新機能の起動は急いだほうがいい。
空になった瓶をポケットに押し込むソウガを見つめる。教え子を守るのは教師として当然の務め――必ず<五大>機能『火』を起動してみせる。
そう決意し、ソウガたちとともに足早く控室に向かった。
――――――――――――
大会本部が用意した控室。一番奥の人気がない部屋に入ると、ナツメが最後になり、そっと鍵をかけた。
そのまま無言で彼女は椅子に座り、机の上に防音の魔導具を置いた。相変わらず、準備に抜かりがない。ナツメに礼を述べ、ソウガを見やる。
「ソウガ、疲れているところ悪いが、新機能についてお前が知っていることを教えてくれ。起動方法が分かったと言ったが、本当か?」
じっと見つめると、ソウガは大きく頷いて右手をかざした。
「きなっせ」
その瞬間、空間が捲れて武蔵零式が現れた。黒い機体は土埃で多少汚れていたが、傷は付いていなかった。
ソウガが胸部のユニットに触れると、各装甲が一斉に開かれ、内部をさらけ出す武蔵零式。胸に埋め込まれた上級の魔石が赤く妖しく輝いている。
「……まだ魔石は大丈夫そうだな。取り付けてから一週間ほど経ったが、問題がなくてよかった」
思わず呟いてしまった。上級の魔石でなければ起動しない武蔵零式。大喰らいではあるが、稼働持続期間は変わらないようだ。
――おそらく一カ月は持つだろう。
とはいえ、中級と上級では内包されている魔力エネルギー量が違うため、やはり規格外の消費量には変わりない。
つい研究者の癖が出て、思考が逸れてしまった。
今は<五大>機能『火』の起動方法を確認するほうが大事だ。俺は首を振り、思考を切り替える――そのとき、ソウガが声をかけた。
「リュウゾウ先生、装着してもいいですか?」
俺が頷くと、ソウガは武蔵零式に背中から倒れ込んだ。その瞬間、すべての装甲が閉じて装着が完了する。
そして、静かに動きだし、こちらを向く武蔵零式。バイザーに浮かぶ青い目が、一瞬だけ点滅した。
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