083 格納庫の孤独と『火』の兆し
競技場の横に設置された格納庫に向かうと、他校の機人の整備担当の生徒たちから、化け物でも見るような目で見られた。
「……そぎゃん、怖がらんでもよかたい」
つい前世の言葉が漏れる。もちろん、方言魔法は発動しなかった。とりあえず、ここで武蔵零式の装着を解除してよいか悩んでしまう。
大勢の前で素顔を見せたくない。これ以上目立つのは勘弁してほしい。どうしたらいいか分からず、立ち尽くす。
そのとき、モニター右下の魔力残量が『1』減少し、『50/115』に変わり、少しだけ焦る。
これ以上魔力を消費したくない俺は周囲を見渡す。どこかに座りたいが、武蔵零式の重量は五百キロ以上あるので、椅子が壊れてしまう。
仕方なく地面に座り、ほとんどの機能を停止する。膝を抱えて座る俺を遠目で見る他校の生徒たち。あまりにも暇なので、集音装置を起動する。
「おい、あれがリュウゾウ先生が新たに開発した小型機人らしいぞ。漆黒の機体なんて王導機人下位機種――細川三式みたいだが、気品は感じられないな」
「ああ、そうだな。どちらかというと聖書に出てくる悪魔に見えるぜ。応援していた後輩から聞いたが、第一の障害のとき、土砂崩れを起こして飲み込まれる機人を見て、高笑いをあげていたらしいぞ」
「ま、まじか。こえーな、あいつ。リュウゾウ先生も、とんでもない生徒に新作の機人を預けたな」
耳が痛い。自分のことなら耐えられるが、先生まで批判されるのは耐えられない。それに土砂崩れを起こしたが、わざとではない。
四十メートルの跳躍をするため、思い切り踏み込んだ結果だ。加えて、あの光景を見て、笑ってなどいない。
恐怖の眼差しを向ける生徒たちの誤解を解こうと立ち上がろうとしたが、わずかに動いただけで、生徒たちは顔をこわばらせた。
「……そぎゃん、怖がらんでもよかたい」
再び方言が漏れる。俺はため息をつき、地面に腰を落とす。ほとんどの機能が停止しているため、武蔵零式の中が次第に熱くなる。
早くリュウゾウ先生たちに来てほしい。疎外感がすごい。それに梅雨の合間の晴天のせいで湿度も高く、汗が滲んできた。
「あつか~」
思わず方言魔法『あつか』が口をついて出てしまい、焦る。
だが、武蔵零式装着時は口元の装甲を開かなければ発動しないことを思い出し、ほっとした――そのとき、モニターの『火』がわずかに点滅した。
◆
ナツメとハンナ――二人と一緒に格納庫に向かう。そこには、他校の生徒から恐怖の眼差しを向けられるソウガの姿があった。
武蔵零式を装着したまま体育座りをし、周囲から視線を集める光景は、あまりにもシュールで、哀愁が漂っていた。
――まあ、先ほどの想像を絶する武蔵零式の動きを見せられれば、仕方ない。
ソウガと他校の生徒――両者に同情しつつ格納庫の中に入ると、ナツメは足早く、ぽつんと座るソウガに歩み寄った。
「ぷっ、どうしたの、ソウガ? 黄昏ちゃって。落ち込むことでもあったのかい。なら、婚約者の私に相談しなよ」
ナツメがソウガを揶揄う。じっと体育座りのまま動かない武蔵零式の頭を、ぺしぺしと叩く。その姿を見て、周囲の生徒たちも少しだけ緊張が解ける。
彼女の行動で、同じ学生だと彼らも気づいたようだ。
ナツメなりの優しさを感じ、口元が綻ぶ。隣に並ぶハンナも同じく、笑みを浮かべていた。
俺たちもソウガのもとに向かうと、武蔵零式の青い目が光り、背中の排気口から微かに熱風が漏れた。
『リュウゾウ先生、待っていました。少し話したいことがあります!』
機械音越しでも、言葉から高揚感が伝わる。いまだに頭を叩くナツメを無視し、ソウガは俺に話しかけた。俺は肩をすくめ、ソウガを落ち着かせる。
「珍しいな、お前が興奮するなんて。何かあったか? いろいろと話したいことはあるが、まずは武蔵零式から出たらどうだ。今も魔力は消費しているんだろ?」
ソウガは頷き、すぐに立ち上がった。無視されたのが気にくわないのか、ナツメは叩くのを止めない。
とはいえ、立てば不安定になる。ソウガは顎の付け根のボタンを二回押して口元の装甲を開くと、ナツメのほうを向いた。
「ナツメ、心配してくれて嬉しかった。ありがとう。だが、今は先生に話がある。あとから、ゆっくりと相談させてくれ」
先ほどまで無視していたソウガからは想像できないほど、優しい言葉と声色に、ナツメが動揺する。
「な、ならいいけど。ちゃんとあとから話してね」
わずかに頬を染めるナツメ。その様子を、頬を膨らませて睨むハンナ。モテる男は辛いと言うが、朴念仁のソウガには関係なさそうだ。
肩をすくめ、三人を眺めていると、ソウガはナツメを下がらせた。
その瞬間、鈍い摩擦音とともに、武蔵零式の脹脛の装甲が開き、アンカーが地面に食い込んだ。
普段は自動自立機能が作動して転倒することはなく、アンカーを出す機会はなかった。だが、人も多く、万が一を考えて危険だと判断したようだ。
小さな気配りだが、好感が持て、自然と口角が上がる。ナツメが武蔵零式の背後に回り、珍しそうに見つめる中、前面の装甲が開いた。
興奮なのか、気候のせいなのか――どちらか分からないが、少し汗ばんだソウガは飛び出すと、駆け寄ってきた。
「先生、<五大>機能『火』の起動方法が分かったかもしれません!」
その声は思いのほか大きく、格納庫中に響き渡り、再び多くの生徒の視線を集めた。
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