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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


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082 歓声なきゴールライン

 後続の機人がしばらく来ないと分かると、ソウガが両手を地面につけて腰を上げ、クラウチングスタートの姿勢になった。


 観客席からでは遠く、はっきりとは見えないが、背中の排気口から勢いよく空気が出たのか、背後に土煙が舞っている。


 また、何かとんでもないことをやらかそうとしている――そう直感し、苦笑いを浮かべた。


「ナツメさん。ソウガが一気に高速移動でゴールするようですね」


 ハンナがソウガを見ながら声をかけた。たしかに高速移動だと思うが、バックアタック・マッチとは少し様子が違う。


 ――排気口から出る空気が揺らめき、熱風と化していた。


「そうだね。他の選手たちもまだ第四の障害――疑似迷路の中だし、追いつかれる前に勝負をつけるつもりみたいだ」


 頷きながらも、いつもの高速移動とは異なる点は伏せる。私の勘違いかもしれないし、言ったところで意味がない。


 すぐに答えは分かる。


 じっと見つめていると突然、地面が爆ぜ、ボォン――と衝撃音が轟き、大気が揺れた。


 衝撃波は観客席まで届き、体を打ちつける。私は一瞬、目を閉じてしまう。気づくとソウガは消えていた。


 誰もが彼を探した。その瞬間、ゴールのほうで大きな摩擦音が上がった。視線を向けると、百メートルほどにわたり、地面を抉った三つの線が伸びる。


 それはゴールラインを超えていた。


 息を呑み、その先に目を向ける。そこには砂塵が舞う中、地面に片手をつけた武蔵零式の姿があった――。


 観客席に沈黙が落ち、やがてアナウンスが流れる。


<オ、オブスタクルレース、第一予選。ベアモンド学園のソウガ・アクオス選手が、只今、一着でゴールしました!>


 それでも歓声が上がることはなく、隣に座るリュウゾウ先生が、ひゅっと息を呑んだ。





 俺は高速移動するために両手を地面につき、脚に力を込めてモニター右下の魔力残量を確認する。


 『69/115』


 さっきから『1』消費しただけ。これなら実験しても問題ない。武蔵零式の高速移動に、親父から教えてもらった『縮地』を重ねることを決める。


 全身の神経を集中し、前方を見据えて深呼吸をする。緊張と弛緩――『縮地』の極意だ。


 力を入れるべき箇所を意識した――そのとき、武蔵零式の魔燃機関が唸り出した。


 背中の排気口から熱と振動が伝わってくる。俺は額が地面につくほど体を傾けると同時に、両足を蹴った。


 ボォン、と真正面から衝撃を受け、止まりそうになるが、さらに前傾姿勢になり、倒れ込むように足を大きく前に出した。


 刹那、景色が線となり、目の前が真っ白になった。一瞬の間もなくアラートが鳴り、モニターが赤く染まる。


 本能的に危険だと察し、両足に力を入れて急停止を試みる。凄まじい推進力で転びそうになり、反射的に後ろ向きになり、前方に倒れ込む。


 つま先に力を入れると、地面が抉れて線を引く。それでも後ろへの力は衰えず、転倒しそうになり、右手で地面を掴む。


 ザッザーッ、と激しい摩擦音を上げながら、俺は地面に三つの線を描くと、やがて速度は収まり、ようやく停止する。


 顔を上げて三線を辿り、ゴールラインを過ぎていることが分かると安堵する。小さく息を吐き、魔力残量を見る。


 『51/115』――五百メートルの距離を一瞬で駆け抜け、さらに急停止して消費した魔力が『18』。悪くない数値だ。


 これなら空間魔法『なおす』は使える。もう少し消費するかと覚悟していたが、予想より低かった。


 少しずつ武蔵零式での体の動かし方が分かってきたのかもしれない。笑みが零れると、ゆっくりと起き上がる。そのとき、アナウンスが流れた。


<オ、オブスタクルレース、第一予選。ベアモンド学園のソウガ・アクオス選手が、只今、一着でゴールしました!>


 なぜ声が上ずっているのか、首を傾げて観客席を見やると、全員が呆然とした表情をしていた。


 ――再び首を傾げる。


 理由を探るべく観客席を見渡し、リュウゾウ先生たちを見つける。目を凝らすと、モニターがズームされ、三人の表情がはっきりと映る。


 ハンナと先生は目を見開き、驚愕の表情を浮かべ、ナツメは額に手を当てて首を横に振っていた。


 その瞬間、自分がまたやらかしたことを察し、観客から向けられる畏怖に似た視線に気づく。


 梅雨の合間の晴天。空から強い日差しが差し込み、競技場に陽炎をつくる。それは静寂をいっそう印象深くした。


 観客席から、ひゅっ――と息を呑む音が届き、我に返る。俺は勝利の余韻を噛み締める間もなく、沈黙に満ちる競技場を足早く後にした。

読んでくださり感謝です<(_ _)>

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