078 鉄球の草原、陽炎の疾走
巨岩弾を回避して黒鉄の森に入ると、すぐに走り始めた。
たまに魔法を撃たれるが、傾斜がある悪路から狙っているせいで狙いが甘い。避ける必要もない砲撃が多い。
だが、万が一にでも直撃したなら、魔法防御で大きく魔力を消費する羽目になる。慎重に足を止めて背後を振り返りながら走った。
中盤に差し掛かったころ、後続の機人たちも森の中に入ってきた。黒鉄の柱を回避して進むためか、魔法の妨害は少なくなった。
しかし、距離は近くなり、射撃の精度は上がった。油断できず、より慎重に進むと、森を出るころには後続との距離は十メートルを切っていた。
せっかく稼いだ距離だったが、使い果たしたようだ。肩をすくめ、前を見据えると、広大な草原が広がっていた。
競技前の説明では第三の障害は鉄球が飛び交う草原だった。おそらく至るところに機人が鉄球を握りしめ、身を潜めているはずだ。
少ない距離のアドバンテージを捨て、他の機人たちを待つ。鉄球の的を俺ひとりに集中させるつもりはない。
やがて多くの機人が森を抜けて現れると、そのまま草原へ向かう。
何体かの機人は俺に気づき、一瞬足を止めるが、後続の機人たちに追い抜かれると、すぐに駆け出した。
土煙を上げて通り過ぎる機人たちを見送る中、モニターの魔力残量を確認する。
『89/115』
黒鉄の森を通過するのに約十一分。平常稼働時は三分で『1』が消費される。第二の障害で使った魔力は『4』だけだった。
節約できたことに安堵の息を吐き、視線を草原に向けると、半数近くが突入していた。俺も草原に向かって走り出す。
やがて第三の障害――鉄球が飛び交う草原が近づいてくる。そこには無数の鉄球に打ちのめされ、なかなか前に進むことができない機人の姿があった。
◆
先頭で森を抜けたソウガ。だが、足を止めてコースの脇に移動し、次々と黒鉄の森から出てくる機人たちを見送る。
おそらくわずかな距離のアドバンテージに執着するより、先行させて鉄球の標的を分散させるほうが合理的と判断したらしい。
戦略は苦手なようだが、戦術に関しては非凡なものを感じ、思わず口角が上がる。
大局的な方針――戦略は私やハンナが考え、それを実行するための局地的な具体策や手段はソウガが考えて実行する。
――意外といいチームになれるかもしれない。四日後のトライアド・サバイバルが、少しだけ楽しみになった。
「どうしたんですか、ナツメさん? 笑みを浮かべて」
リュウゾウ先生の隣に座るハンナが声をかけた。不敵に笑う私を見て、首を傾げている。
まだレースは中盤。それに学生召集の問題も解決していない。何もかも先が読めない状況で、口元を緩める私を彼女は不思議に思っている。
「ごめん、ハンナ。ちょっと、ソウガのことを再評価しただけだよ。彼は魔導士というより戦士だね。実戦において反射的な判断力や鋭い勘がずば抜けている」
肩をすくめながら答えると、先生とハンナが同時に頷く。
あれほどの魔法を使えるのに、考え方や戦い方は戦士そのものだ。しかも一流の、だ。剣機――ライガの息子というのも納得だ。
私の言葉に得心した二人は、競技場に視線を戻した――そのとき、歓声が轟く。
急いで私も競技場を見ると、ソウガが陽炎のように揺れながら走っていた。
◆
草原に入るとすぐに鉄球が飛んできた。あまりにも正確な一投に、一瞬動作が遅れた。
慌てて迫り来る鉄球を身を屈めて回避するが、掠ってしまう。モニターの魔力残量が『1』減ってしまった。
油断していた。鉄球を投げる機人の操縦士の技量を見誤った。
ボランティアで参加した学生が投擲していると思っていたが、れっきとした騎士か、それに準ずる者が搭乗している。
唇を噛み、反省するが、すぐに気持ちを切り替える。すでに草原の中。足を止めるのは危険だ。
俺は深く息を吐き、心を沈める。そして、つま先から指先まで、全身の神経をとがらせて駆け出した。
大きく一歩踏み出した瞬間、鉄球が迫る。だが構わず、さらに歩幅を広げて踏み出した。
刹那、地面に膝がつくほど脚を広げ、身を沈ませた俺の頭上を、鉄球が大気を切り裂き、通り過ぎた。
すぐにモニターを確認する。今度は掠ることはなかったようだ。魔力量は減っていない。安堵の息を吐く。
再び神経を集中すると、足を止めることなく、加速する。次第に速度は上がり、地面から伝わる衝撃が軽くなる。
飛ぶように走る俺は、親父から教えてもらった走行法――『幻徒』に切り替える。
俺は踏み出す歩幅を意図的に変え、不規則に左右のステップを踏む。その瞬間、モニターの映像がぶれる。
上下左右に激しく揺れ、不自然に速度が変わるため、映像処理が間に合わない。
だが、それゆえに確信する。周囲から俺は陽炎のように揺れ、実体を正確に把握できないのだと――。
俺を狙う鉄球が止んだことに、ほくそ笑むと、無慈悲な投擲に晒され、前を進むことができない機人たちの横を颯爽と走り抜けた。
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