077 黒鉄の森、四倍差の追走
四連の急勾配を抜け、黒鉄の柱が並ぶ第二の障害地帯の前に着く。
モニターの右下に浮かぶ魔力残量は『93/115』。加速と跳躍で『5』を消費し、着地でさらに『5』を使った。
それを二回繰り返し、これまでの経過時間七分を考えると、妥当な数値だ。
着地のときに膝のサスペンションが軋み、背部の魔燃機関が唸った。慎重につま先、膝、腰を使って衝撃を分散したが、それでも魔力を『5』も消費した。
だが、衝撃はわずか、着地は安定し、肉体の負担はなかった。武蔵零式が魔力を消費し、補助した結果だ。
――もう少し扱いが上手くなれば、魔力消費も抑えられるかもしれない。
反省して黒鉄の森に入ろうとしたとき、モニターの左下の画面が切り替わる。坂の頂に立ち、砲口をこちらに向ける魔導機人の姿が映る。
振り返ると、砲身は橙に輝き、砲口の前に魔法陣が浮かび上がっていた。刹那、鋭く尖った巨大な岩が放たれた。
猛烈な勢いで迫る巨岩弾。慌てて黒鉄の柱の影に飛び込んだ。ゴォンと轟音を響かせ、柱は揺れたが、倒れることはなかった。
――さすが、アダマンタイト、オリハルコンに次ぐ硬度を誇る黒鉄。
頑丈な柱に救われる。影からそっと顔をのぞかせ、様子をうかがうと、次々と坂の頂上に機人が現れた。
――かなり距離を開けたつもりだったが、あまり余裕はなさそうだ。
他の機人より走行速度では負けている。すぐに追いつかれるかもしれない。俺はため息をつくと、黒鉄の柱を盾に静かに走り出した。
◆
四連の急勾配の一つ目の坂で、一気に先頭に立ったソウガ。彼に早く追いつこうと、他校の機人たちは妨害をやめ、先に進むことに専念する。
彼らは互いに距離をとり、ぶつからないように慎重かつ迅速に急勾配の坂を攻略していく。中には助け合う機人もいた。
今も機動力が低い魔導機人を、先に登った武導機人が引っ張り上げている。あれは姉妹校の大智学園と大仁学園だ。
直接触れることは禁止されているが、それは妨害したときのみ。加えて鎖の鞭――武器を仲介に使えば、なお問題はない。警告のアナウンスは流れない。
次々と最後の急勾配に向かう機人たち。意外にも最初に頂上に辿り着いたのは魔導機人だった。
背後に赤い機体が見える。武導機人に押してもらったのだろう。
決勝に進むためには四位以内に入らなければならない。わざわざ敵である他校の機人を助ける意味が分からない。
首を傾げ、見つめていると、魔導機人は肩の砲身を倒してソウガに照準を合わせた。
理解した。ソウガの足を止めるために、彼らは協力したのだ。
紺碧の機人の砲身に紋様が浮かび上がり、橙色の光を放つ。次の瞬間、魔法陣が現れて砲口から巨岩弾が放たれた。
大気を切り裂き、真っすぐソウガに向かう砲弾。その正確な射撃に、操縦士の技術の高さが垣間見える。
だが、砲弾に気づいたソウガはすぐに黒鉄の柱の裏に飛び込むと、巨岩弾は柱に直撃して粉々に砕け散った。
たった一撃だったが、効果はあった。ソウガは背後を気にしつつ、慎重に柱の影に隠れながら走り出した。
黒鉄の森は、全高八メートルの機人を想定して設置されている。
二メートル強しかない武蔵零式なら、一直線で突き抜けることも可能だ。だが、先ほどの一発で、それはできなくなった。
頂に着いた魔導機人たちは示し合わせたように全員が砲身を倒し、いつでも魔法を発射できるとソウガを牽制した。
そんな中、最初に真紅の機人――武導機人が滑るように下りると次々と続き、中には下りながら魔法を放つ機人もいた。
あくまで牽制で直撃することはなかったが、ソウガは柱を縫うように走り、たまに背後を確認するため立ち止まった。
気づくとソウガとの距離は詰まり、八十メートルほどあった差は四十メートルまで縮まっていた。
「やはりどこの学園もソウガを警戒していますね、リュウゾウ先生」
隣に座る先生に視線を向ける。いつもの癖で顎に手を当て、見つめていた。
「そうだな、ナツメ。昨日のバックアタック・マッチでセイセイのテッペイをあそこまで追い込んだんだ。仕方ないだろう」
肩をすくめる先生。その向こうに座るハンナも頷き、言葉を返す。
「それでも予想以上です。坂を下りながら魔法を放ったのは大智学園の機人でした。あんな無理な体勢から妨害するなんて、下手をすれば転倒していました」
ハンナの指摘は正しい。無謀な行為と受け取られても仕方ない。
ただ、五つある障害のうち、ひとつ目で大きな差がついた。後続の機人が取るべき行動は二つだけ。
先頭のソウガのことは無視し、四位以内を目指すか、まだ最初の障害ということで妨害して距離を詰めるか――このどちらかだ。
迷わず全員が後者を選択した。誰も抜け駆けすることなく、頂に立つとソウガに魔法を放つ体勢になった。
違和感がある。だが、確証はない。学生召集以外にも裏で不穏な動きがあるのでは――かすかに不安がよぎる。
考えすぎだとため息をつき、頭を軽く横にふって視線を上げる。気づくと黒鉄の森をソウガが抜けるところだった。
その後ろには四倍の機体差がある機人たちが列をなして迫っていた。
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