074 表彰の歓声、密室の決意
私たちが内乱鎮圧への学生召集――ソウガの優勝阻止について打ち明ける意思を示すと、リュウゾウ先生は彼の魔力量を知った経緯を語ってくれた。
「――というわけで、王都の学園で我が校と済聖光学園の入試のときだけ無条件で魔力測定用の魔導具が貸し出される。二校の入試日が違うのはそのためだ」
リュウゾウ先生の声は、防音の魔導具のおかげで響かず、すぐにかき消えた。だが、その内容ははっきりと届いた。
話し終えた先生は、襟をわずかに緩め、大きく息を吐いた。
「なるほど、わかりました。たしかに優秀な人材を育てるためには必要な措置ですね。入試では魔法の威力しか測定しません。いくら魔力が成長するからといっても限度があります。事前に調べておくことは大事です」
ハンナは納得したが、重要な個人情報を勝手に測定してよいのか首を傾げる。ただ、簡易な魔力量測定なら比較的誰にでもできる。
特殊な薬が染み込んだ紙に魔力を込めて触れると色が変わり、千以下は赤、千から五千は黄色、それ以上は緑――そんな大雑把な尺度だ。
平民の多くは黄色で、緑はごく一部。五千を超える者のほとんどは貴族とされる。だから民衆も「どの層が危険か」くらいは分かるし、力の誇示は牽制になる。
だが『正確な数値』は別だ。公人でも魔翼のクロメ様や宮廷魔導士の一部の者の魔力量が噂として語られる程度で、真偽は確かめようがない。
唯一、正確に魔力測定ができる魔導具は国が保管しており、陛下の許可がなければ使えないからだ。
――思考が逸れてしまった。
ひとまずリュウゾウ先生がソウガの魔力量を知っている理由は分かった。十万八千――馬鹿げた数値だが、信憑性は高い。
そしてなぜ、私たちに打ち明けたのかも予想はついた。大きく息を吸い込み、覚悟を決めて口を開いた。
「リュウゾウ先生、極秘事項です。他言無用でお願いします。実は近いうちに反乱が起きます。場所は聞いていませんが、間違いないです。
その鎮圧に学生を召集することをコイズミ陛下がお決めになりました」
その言葉に先生は驚くことなく、ただため息をついた。やはり気づいていたようだ。だから、ソウガの魔力量をわざと私たちに見せた。
「話してくれてありがとう、ナツメ。昨日、お前たちの態度がおかしかったから、俺なりに調べてみた。といっても昔の同僚に聞いただけだが――そいつは俺がこの控室から動けないと分かっても、わざわざ来てくれたよ」
そこで言葉を切り、防音の魔導具に視線を落とす。
「この魔導具も、そいつが持ってきたものだ。聞いた内容もほぼ同じ。陛下が学生を戦場に送り込もうとしている――そう言っていた」
下を向く先生の表情は憂いを帯びていた。ふと、思い出した。たしか陛下と先生は同級生だ。
コイズミ陛下は王国の歴史で初めて王太子でありながら、市井の学園に通った人物だ。
――そして、そこで得た経験と人脈を生かし、革新的な制度や役職を設け、善政を行った。
コイズミ陛下を賢王と讃えられる際に最初に出る逸話だ。
リュウゾウ先生も陛下とベアモンド学園で出会い、その機人工学に対する類まれな才能を見出され、平民でありながら工業庁の技術長官に抜擢された。
そのころから二人は親友だった――と父から聞いたことがある。
眉を曇らせ、黙ったままの先生。ハンナも心配そうに見ている。私はまっすぐ先生を見つめ、尋ねた。
「先生、ソウガはすでに反乱鎮圧の学生召集のメンバーに入っている――その可能性が高いってことですよね?」
その言葉にハンナは目を見開くが、リュウゾウ先生はやはり驚くことはない。長いため息をついた後、静かに語り出した。
◆
ソウガが反乱鎮圧部隊に召集される可能性が高い――ナツメさんの一言に息を呑む。リュウゾウ先生に視線を向けると、ため息をつき、頷いた。
「ああ、ほぼ確定だ。これほどの魔力を持ち、そのことを国は把握している。コイズミ陛下でなくても召集するだろう」
そこで気づく。なぜ先生がソウガの魔力量を見せたのか。このことを教えるためだ。指先が冷たくなる。そのとき、ナツメさんの声が届いた。
「なら、総体で優勝できなくても関係ないってことですね。残された手段は、競技中、ソウガに大怪我を負わせる――」
その瞬間、彼女を鋭く睨む。いくら召集させないためとはいえ、ソウガを傷つけることは許さない。
私の視線を受け、彼女は肩をすくめ、首を横に振った。
「もちろん、そんなことはしないよ、ハンナ。だけど、戦場に出れば、万が一もある。ソウガの方言魔法と膨大な魔力、それに武蔵零式――どれも最前線に配属されるに十分な理由になる」
言葉に詰まる。たしかにその通りだ。死ぬより怪我のほうがいい。召集を回避する方法が思いつかなければ、その選択をしなければならない。
唇を噛みしめ、俯く。反乱がいつ起きるか分からない。もし明日にでも起きれば、間に合わない。
残りわずかな時間だと気づき、ナツメさんがなぜ非情な方法を口にしたのか理解して顔を上げる。
自然と彼女と視線が重なる。それだけで通じ合えた。
たとえソウガに恨まれても、絶対に召集を阻止する――そう決意して頷き合った。
そんな私たちを見た先生が防音の魔導具に触れる。その瞬間、遠くで歓声が弾ける。ここだけが、その熱気とは無縁だった。
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