070 消える一秒、揺れない盾
試合開始と同時に、近距離の高速移動で背後に回り込み、跳び蹴りを放った。だが、テッペイは一瞬で俺を捉えて攻撃を防いでみせた。
――その動きに驚嘆する。
あいつは右足を引き、首を向けた。そのわずかな動きで後方にいた俺を見つけ、右盾を突き出し、蹴りの軌道を逸らした。
最小限で無駄がない動き。一秒にも満たない刹那に、緻密で高度な機体操作をやってのけたテッペイ。
<聖騎士>の称号に恥じない実力だ。
(まあ、称号というより「才能」らしいが、<聖騎士>と呼ばれることには変わらない。やっぱり羨ましい)
顔は外装に覆われて見られていない。テッペイに悔しがる表情を見られていないことに安堵の息を吐いた。
そのとき、純白の機人は正面になり、緑色に発光する目でこちらを見据えた。
強者の気配をまとい屹立する姿に息を呑む。気持ちが飲み込まれそうになり、唇を噛み、気合を入れ直す。
――もう一度、近距離の高速移動に入った。
次の狙いは機人の死角――足元だ。さらに短い距離を一瞬で詰める。無音の縮地。今度は音もなく影の中に潜り込んだ。
成功を確信した瞬間、頭上から歯車が軋む音が落ちる。仰ぎ見ると巨大な足裏が迫っていた。
慌てて前へ飛び出した。地面に外装が擦れ、甲高い摩擦音を立てる。転がりながら起き上がると、白い機人を見る。
地面を踏みつける振動が足裏から伝わってきた。同時に剣のように尖った盾が迫る。
テッペイは躱されると分かった瞬間、刺突への踏み込みに変えたのだ。再び想像を絶する操縦技術を見せつけられ、舌を巻く。
だが、感心するよりも回避が先だ。俺は腰を落とし前傾のまま踵に重心を移し、強引に後方へ高速移動した。
ドンッ、と背中に衝撃が貫く。無理な体勢で移動したせいで着地がとれず、壁に激突した。武蔵零式のおかげで傷も痛みもなかった。あるのは悔しさだけだ。
性能ならこちらが上だが、技術は相手が勝っている。原初の機人の所有者という自負が、俺を天狗にしていたのかもしれない。
研鑽も練習も、何もかも足りていない。武蔵零式の性能に頼りきった自分が情けなくなった。
ふとモニターの魔力残量に目をやると、『90/115』。三分も経たず、魔力を二割以上も消費していた。
このペースなら、十分も持たない。思わず息を呑む。
その瞬間、熱を帯びた空気が口元のフィルターから流れ込み、かすかに焦燥感を煽った。
◆
苦戦するソウガに、まずは胸を撫で下ろす。一方で素直に応援できない自分が嫌になる。だが、このまま試合が進めば、ソウガは敗北する。
テッペイさんとの対戦を見て、思い知らされた。圧倒的な性能で勝ち上がる姿に、『制御に慣れた』と錯覚していたのだ。
けれど、テッペイさんの繊細で緻密な操作が、彼の未熟さを浮き彫りにした。
――アクセル全開で暴走する魔導車そのものだった。
想像を絶する機動力で強引に勝ってきただけ。もちろん、それで決勝まで勝ち進むこと自体すごいことだ。
だが、真の実力者の前では通じなかった。
小さく息を吐くと、隣に座るハンナがじっと見つめていた。
「ごめん、ハンナ。正直、ほっとしている。本当にソウガには勝ってほしいと思っていたんだ。例の召集を知る前まではね」
彼女は眉を下げ、頷く。
「ナツメさん、仕方ないと思います。それにこの試合を見て、まだソウガには実戦は無理だと分かりました。制御できていると思っていましたが、まだ未熟だったんですね。テッペイさんには感謝しかないです」
手を握りしめ、振り絞るように呟くハンナ。
私も同意する。戦場には実戦を経験した化物のような連中が存在する。神技のような剣術を機人で再現する天才。そんな噂を耳にしたことがある。
ハンナと頷き合うと、アリーナに視線を戻す。
テッペイさんの刺突を強引に避け、壁に激突したソウガが静かに起き上がるところだった。
武蔵零式は立ち上がり、肩に付いた壁の破片を払うと、両手を上げて背筋を伸ばした。あまりにも人間らしい動きに、アリーナの空気が一瞬、揺れた。
小型機人と呼ばれてはいるが、見た目は厚いプレートアーマーに近い。操縦も身体を動かすだけで、複雑な操作は要らない。
本来の機人とは違い、人間のような動きは簡単にできる。武蔵零式にソウガ本人が重なって見えて、自然と口元が綻ぶ。
戦いには不要なその仕草に、観客席がかすかにざわめく。
そんな中、ソウガは静かに白い機人――蘆花三式に向かって歩き出した。
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