069 白と黒、静寂の開幕
目の前に立つ純白の機人を見る。これまで対戦してきた武導機人は、機体に施された攻撃強化の術式のせいで赤かった。
だが、防御に特化した聖導機人は白い。
<聖騎士>という羨ましい才能を持ち、純白のカッコいい機人に搭乗するテッペイに少し嫉妬してしまう。
思わず唇を噛む。ライトを浴びて白く煌めく外装――あれはずるい。
沈む気持ちを、モニター右下の魔力残量を見て奮い立たせた。表示された数値は『115/115』。思わず口元が綻ぶ。
パーセンテージでの測定ではなく、絶対値。最初の装着時に基準値が決まり、その後は増分を記録する仕様――嬉しい誤算だ。
これで俺の魔力量が簡単に分かる。成長を目視できることに喜びを感じながら周囲を見渡す。
観客席は大勢の人で埋まっており、入口の「満員御礼」の立て札に納得する。
――だが、決勝戦というわりには、アリーナは静寂に包まれていた。
テッペイの機人は八メートル、俺は二メートル強。その機体差に全員が驚いているのかもしれない。
だが、すでに三試合に出場している。小型の武蔵零式を知っている観客も多いだろうと考え、自分の考えを改める。
――では、なぜ?
思考の海に沈みかけたとき、突然、静まり返ったアリーナに、試合開始のアナウンスが流れた。
◆
アリーナで対峙するソウガとテッペイさんを見つめる。結局、説得は失敗した。
反乱鎮圧のための学生召集令――リュウゾウ先生だけなら伝えてもよかった。だが、盗聴防止の施されていない控室では話せなかった。
情報を伏せ、ナツメさんと二人でソウガに決勝戦を棄権してほしいと頼んだ。
だが、彼は頑なに拒否して帰宅した。私もすぐにナツメさんと別れて王都の別邸に向かい、すぐに父の書斎に入った。
部屋の中には侵入や盗聴を防ぐ魔導具が備わっている。四隅に設置された監視魔導具を確認すると、父への手紙を書き始めた。
内容は学生召集とその阻止だ。もちろん、ソウガが巻き込まれる可能性があることも書いた。
封筒に収め、呼び鈴を鳴らす。やがて使用人が入ってきた。封筒を手渡すと、彼女の顔が青ざめる。
封筒には極秘事項を示す金色の蝋印があった。彼女は恐る恐る顔を上げ、こちらを見る。
「これには国の根幹に関わる重要な情報が書かれているわ。分かっていると思うけど、公的な通信手段は使わず、我が家の者が直接届けて。護衛も忘れないでね」
封筒を持つ彼女の手が震えている。最初から執事を呼べばよかったと後悔する。だが、もう封筒は彼女の手にある。今さら返してもらうのも気が引ける。
私は笑顔を作り、そっと彼女の肩に手を置くとゆっくり頷いた。彼女は真剣な表情を浮かべ、深く頷き返すと足早く部屋を後にした。
――アリーナ中央に立つ純白の蘆花三式と漆黒の武蔵零式。
間に合わなかった、と思う。すべてが後手に回っている。
二体の機体を見つめながら昨夜のことを思い返していると、試合が始まってしまった。
◆
試合開始のアナウンスが耳に届くと同時に、ソウガは消えた。
とっさに半身になり、首だけを後ろへ向ける。モニターに跳び蹴りを放つソウガが映った。
すぐに盾を構えて突き出す。ゴンッ、と鈍い音。直後、操縦桿に振動が伝わってきた。
危機一髪だった。シンヤの言う通り、あいつの試合を見ていてよかった。目の前から消えてから一秒以内で攻撃。
――事前に動きを見ていなければ、対応できなかった。
胸を撫で下ろす一方、背中に冷たい汗が細く伝う。機体差は約四倍、重量はそれ以上。それでも押し返すだけの力がある。
なおも微振動が残る操縦桿を握りしめた。
地面に降り立つソウガを見つめる。顔は装甲に覆われ、バイザーに浮かぶ青い目からは表情が読めない。
だが、じっと立つ姿から、防がれたことにわずかに動揺していると察した。俺は半身の機体を正面に戻し、ソウガを見据える。
あいつの高速移動には対応可能だと分かった。足元の死角に潜り込まれることだけに注意する。いざというときは、監督席からの指示も入る。
対策は万全だ。<聖騎士>の俺にここまで警戒させ、準備させたソウガ。一年生だが、ライバルと認めてもいい。
自然と口角が上がった――その瞬間、再びソウガが目の前から消えた。
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