表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/64

063 雨に消える歓声

メリークリスマスイブ!

 ――俺の勝利を告げるアナウンスが流れた。


 大智学園の機人の背から飛び降り、眼前のモニター右下の魔力残量を確認する。『65/100』――思った以上に減っていた。


 特に近距離の高速移動は『10』も使った。急加速で『5』、急停止でも『5』を消費した。


 だが、納得している。亜音速から一瞬で止まり、しかも体に大きな負荷や衝撃は感じなかった。それで魔力消費が『10』なら割がいい。


 武蔵零式の性能に驚嘆しつつ、先ほどの試合を思い返す。


 戦闘時間は約十五分。通常の高速移動が四回と近距離が一回だった。それで魔力消費が『35』――計算が合う。


 二回の実戦を経験し、消費と操作――二つの感覚を掴んだ。


 残量は約三分の二。ポーションで回復できる。午後の準決勝は万全の態勢で臨めそうだ。


 次戦へ向けて思考を巡らせながら、静まり返ったアリーナを歩く。一回戦と違い、歓声も拍手も起きない。少し目立ち過ぎたのかもしれない。


 反省しつつ歩を進めると、出口で待つリュウゾウ先生が目に入った。顎の付け根のスイッチを二回押し、顔の下半分の装甲を開く。


「すみません、リュウゾウ先生。やり過ぎました。また、変な噂がたちそうです」


 先生は観客席を見渡して肩をすくめた。


「まあ、仕方ないさ。手加減できる相手じゃなかった。それに武蔵零式は稼働だけでも魔力を消費する。短期決戦にならざるを得なかったのは分かる。とりあえず、他校の目がある。控室に戻るぞ」


 その言葉に視線を上げると、観客席からカメラを向ける生徒たちが見えた。そんなに探られても、出てくるものはない。


 解除した機能も使えないのだ。もし何か分かったら、ぜひ教えてほしい――意地の悪い考えがよぎる。


 せっかく勝利したが、祝福のない観客の態度に心がささくれたようだ。頭を軽く振り、ため息をつくと、リュウゾウ先生の後を追った。


 天蓋を叩く雨が、遅れて耳に戻ってきた。――勝ったのに、祝福の音じゃなかった。





 ナツメさんの友人に呼ばれ、アリーナの外へ出た。本当はソウガに祝福を言いたかったが、緊急の用事らしく諦めた。


 小雨の中を歩く。やがて目の前に一台の魔導車が見えてきた。先端の紋章はピクセル家のものだ。


 あの車にナツメさんが乗っているのか尋ねようと振り向くと、彼女の友人の姿はなかった。


 気配の消し方から、ただの友人ではないと察する。眉を曇らせて車の前に立つと、助手席の扉が開き、壮年の男性が降りてきた。


「初めまして、ハンナ様。ピクセル家で執事をしております、テイオと申します。中でナツメ様がお待ちです。どうぞ」


 彼が頭を下げ、ドアを開けると、私は傘を預けて中へ入った。


 助手席側に背を向けて座るナツメさん。私が向かい合うように腰を落とすと、静かに口を開いた。


「いきなり呼び出してすまない。すぐに話をしたいけど、少し待ってほしい」


 彼女が軽く頭を下げると、魔導車はゆっくりと進み出した。窓の外の風景が流れ始めると、ナツメさんは大きく息を吐いた。


「ふう、これで大丈夫かな。会場の周辺を回って、尾行されていないことは確認している。雨とはいえ多くの観客や出店が出ている。この騒音の中、盗聴の心配はない。ようやく、ゆっくりと話せるよ」


 ナツメさんは肩をすくめ、笑みを浮かべた。少しだけいつもの調子に戻ったようだ。笑みを返して尋ねる。


「それで、ご用件は何ですか?」


 一瞬で彼女の表情が険しくなる。悪い予感しかしない。これだけの厳重な警戒――間違いなくソウガのことだ。


 彼女とは決闘の後、親交を深めている。恋のライバルだが、ソウガを案じる気持ちは一緒だった。方向性は違うが、今は問題ない。


 ソウガが危険に巻き込まれたときに協力するか、決別するか――それはその時に決める。


 口を閉ざしたままのナツメさんをじっと見つめると、彼女はまっすぐ視線を合わせ、話し始めた。


「――――これが、昨日、父さんから聞いた話のすべてだよ。コイズミ陛下が何を考えているか分からない。学生を内乱の鎮圧に向かわせるなんて」


 必死に理解しようとするが、頭が追いつかない。反乱を鎮圧するために学生を召集するのは、これまでの歴史にもない暴挙だ。


 めまいを覚え、不敬にも陛下の乱心を考える。けれど、まずはソウガが召集されないための対策を立てることが最優先だ。


 頬を軽く叩いて顔を上げると、ナツメさんと視線が重なる。危惧することも、やるべきことも同じだ。


 ――優勝者は直接、陛下から祝辞をいただける。そこで目に留まれば、否応なしに召集の対象になる。


 私は深く息を吸いこみ、彼女に向かってはっきりと告げる。


「貴重な情報、ありがとうございます。私に伝えた意図も理解しました。どんな協力も惜しみません。――絶対に、ソウガの優勝を阻止しましょう」


 ナツメさんが大きく頷くと、私は手を差し出した。自然と固く握手を交わす――その瞬間、窓を叩く雨音が激しくなった。


 目を向けると、外の景色は水で塗りつぶされ、車室はざわめく静寂に押し込められた。さっきまでのソウガへの祝福の思いが、一瞬で後悔に変わった。

ブクマでプレゼントお願いします!

よければ★評価もいただけると嬉しいです<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ