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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


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062 通信を断つ足音

明日はクリスマスイブ!

プレゼントをあげるだけです(T_T)

子どもたちに。。。

 総体二日目。ハンナさんたち生徒会役員と一緒に、ソウガ君の試合を観戦に来ている。


 学生たちの好試合で会場の熱気はすさまじく、歓声とアナウンスが反響し、顔を近づけないと会話できない。


 そんな興奮する観客たちを眺めつつ、ようやくソウガ君の機人――武蔵零式が見られたことに安堵の息をついた。


 昨日は開会式が終わると、すぐに学園へ戻って各部活の主将と打ち合わせをしなければならなかった。


 ――結果、彼の試合は見られず、報告だけを受けた。


 彼からは「勝ちました」としか聞いていなかったが、他の生徒から上がってきた報告は想像を絶する内容だった。


 目で追えないほどの機動力。小型にもかかわらず武導機人並みの出力。クムァ工の機人が持つ巨大な鉄槌を、軽々と持ち上げたという。


 ――加えて、大会記録の更新。報告を聞き終え、しばらく私を含めた生徒会全員が呆然とした。


 滅多に表情を崩さないエイダも、目を見開いて固まっていた。その姿を思い出し、口元がほころぶ。


 隣を向くと、エイダが半目で睨んでいた。私は咳払いしてごまかし、アリーナに視線を戻した。


 ソウガ君は先ほど、規格外のスピードで大智学園――ダイチの機人の背後に簡単に回り込み、跳び蹴りを放った。


 ただ、ダイチのほうが一枚上手。ソウガ君の攻撃に、見事なカウンターを合わせてきた。


 とっさに彼は正拳で軌道を逸らしたが、ぎりぎりだった。拳以外の場所に刃が当たっていたら、危うく勝負を失いかねなかった。


 ――通信は規定で許可だ。だが、ここまで正確な指示と実行が噛み合う例は珍しい。


 お互い初撃が決まらず、距離を取り合う。ダイチは監督席にいる生徒が通信機に向かって、大声で指示を出している。


 やがてソウガ君が、ダイチの深紅の機人に向かってゆっくり歩いていく。その姿は、あまりに自然体だった。


 二本のレイピアを構える清正三式。その機体は八メートルを超える。一方、武蔵零式を装着したソウガ君は二メートル強。


 ――間違いなく、相手のほうが先に攻撃が届く。


 だけど、圧倒的な機体差を前にしても、彼は怯まない。それどころか、余裕すら感じられる。


 戸惑うことなく進み、ダイチの間合いに入る。だが相手は攻撃を仕掛けてこない。


 確実に仕留めたいのか。それとも高速移動を警戒しているのか。どちらか分からないが、じっと構えたままだ。


 一方でソウガ君は警戒の素振りも見せず、まっすぐ近づく――その瞬間、ダイチの機人が動いた。


 右手のレイピアを振り下ろす。ブゥンと音を上げ、刃が漆黒の小型機人を襲う。だがソウガ君は半身になり、最小の動きで回避した。


 ダイチの機人も、避けられることは織り込み済みらしい。すかさず左手のレイピアを横薙ぎに振る。


 轟音を上げて迫る細剣。ソウガ君は地面に手をついて腰を落とし、すれすれで避ける――と同時に、ダイチの機人が蹴りを放つ。


 横薙ぎからの強引な前蹴り。清正三式はバランスを崩し、右手のレイピアを床に突き刺して支えた。


 腰を落としたままのソウガ君。眼前には巨大な機人のつま先。回避不可能と思われた、その瞬間――


 ソウガ君が消えた。





 目の前の光景に唖然とする。


 ダイチの機人の蹴りが当たったと思った瞬間、ソウガが消えた。直後、空気だけが揺れ、砂粒が遅れて跳ねた。


 清正三式は蹴り足を高く上げたまま大きく体勢を崩す。だが、突き刺したレイピアが支えとなり、転倒は免れた。


 懸命に体勢を立て直す機人。その影にソウガはいた。消えた場所からの距離は三メートル。足元に視線を落とす。機人の重量にも耐える床がえぐれていた。


 横薙ぎを避けて腰を落としたとき、彼はクラウチングスタートの姿勢をとり、高速移動の準備を済ませていた。


 一気に加速した。


 しかし、移動した距離はわずか三メートル。大出力にもかかわらず緻密な操作――明らかに武蔵零式を乗りこなしつつある。


 ……めまいを覚える。目立つ長距離ではない――抑えている。けれど十分に派手だ。思わずハンナを見るが、彼女は両手を握り、頬を染めて見つめている。


 何も知らない彼女を責めるつもりはない。だが、早急に情報を共有しなければならない。


 試合後すぐに控室に来てもらう。配下の子に目配せをする。


 彼女は頷き、席を立つと足早くハンナのほうへ歩いていった。少しだけ気持ちが落ち着き、アリーナに視線を戻す。


 嫌な予感がした。漆黒のフェイスプレート――その青く光る目が、かすかに揺らいだ。


 刹那、ソウガがふたたび消えた。


 ドンッ。ダイチの監督席近くの壁が鳴る。振り向くと、壁に足裏をつけて水平にしゃがみ込むソウガ。後方では、ダイチの生徒が驚いて通信機を落としていた。


 機人同士の戦いでは壁への接触は想定内だ。そのため監督席との距離も十分確保されている。妨害には当たらない。


 ただ、武蔵零式の常軌を逸した機動力に驚愕しただけだ。


 誰もが愕然として口を閉じる。アリーナが静寂に包まれる中、床へと落ちかけたソウガは――


 みたび、消えた。


 次の瞬間、轟音が耳を劈き、アリーナ中央へ視線を戻す。そこには床に突っ伏すダイチの機人と、その背に立つソウガの姿があった。


 全員の理解が追いつかず呆然とする中、観客席中央の巨大モニターにリプレイが流れた。


 そこには深紅の機人の背に跳び蹴りを叩き込む武蔵零式の姿があった。瞬間、客席の空気がさらに凍る。


 視線を下げると、横たわる清正三式の目の光が徐々に薄れ、やがて駆動音とともに消える。そのとき、アリーナにソウガの勝利を告げるアナウンスが流れた。


 だけど、歓声は起きなかった。


 ただ、雨が天蓋を叩き、細い白線が幾筋も落ちる。絶え間ない雨音が私の思考を麻痺させ、抱える不安を容赦なく増幅させた。

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