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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


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060 新たなライバルと新機能

もう一つの作品が8万PV突破。継続はPowerですね。

 学園総体二日目。昨日の疲れも残っていない俺は、朝早くアリーナに向かった。


 試合が始まる三十分前にはリュウゾウ先生と控室で合流することになっているが、まだ余裕がある。


 せっかくの総体だ。青春を謳歌したい。前世の高校時代は部活もせず、勉強ばかりしていた。この世界では、もっと学生生活を楽しみたい。


 そう思って他校との交流を図るべくアリーナに来たのだが、誰も目を合わせてくれない。ちらと、こちらを見て、ヒソヒソと囁く。


「おい、あいつだぜ。小型の機人でクムァ工の清正三式に勝った『化物』は。実はあいつ自身が機人で、漆黒の機体はただの鎧らしいぞ」

「それに、クムァ工の選手を気絶させたのも、狙っていたらしいわ。大会記録を出して、力を誇示するために――魔王みたいなやつね」


 ――そぎゃん、怖がらんでもよかたい。


 その内容につい方言が出たが、魔法が発動することはない。イメージも魔力も込めていないので当然だ。


 ぐっと涙をこらえ、気を取り直して周囲を見渡す。アリーナには多くの機人が並び、試合に向けて整備が進む。


 赤い機体が並ぶ中、ひときわ目立つ純白の機体――蘆花三式。セイセイのテッペイの機人だ。両腕に巨大な盾を備え付けている。今日も戦い方は変えないようだ。


 ぼんやり眺めていると、背後から声をかけられる。


「おい、お前がソウガか? 昨日の第一試合でクムァ工に圧勝して、大会記録を打ち出したベアモンド学園の異端児、ソウガ・アクオスか?」


 振り返ると、銀よりも暗い灰色の髪をした青年が立っていた。無造作に切り揃えられた髪、鋭い目つきが粗野な印象を与える。


 顔立ちは整っているのに、立ち振る舞いのせいで近寄りがたい雰囲気を醸す。


 ――もう少しちゃんとすれば、女性にモテそうなのに。もったいない。


 余計なお世話だと気づき、口角を上げると、いきなり襟首をつかまれた。馬鹿にされたと思ったらしい。


 たしかに何も答えず笑えば、仕方がない。だが、少し手が早すぎる。青年の手首をつかみ、親指を内側の太い筋の間に押し込んだ。


 彼は痛みで顔をゆがめるが、俺を離す気はない。少しずつ力を込めていくが、それでも耐える。


 どこの学園の生徒か知らないが、怪我をさせるわけにはいかない。仕方なく手の力を緩めようとした――そのとき、肩に手を置かれる。


「すまない、その手を離してもらえないだろうか? これでも我が校の主力選手なんだ。怪我をされたら困る」


 振り返ると、癖のある黒髪に翡翠の瞳の青年がいた。昨日、開会宣言をした生徒だ。たしか名前は――。


「俺はシンヤ。済聖光学園の三年生だ。そして、こいつはテッペイ。俺と同級生。それで君の名は?」


 穏やかな声に、思わず力が抜ける。その瞬間、灰色髪の青年――テッペイは手を振りほどき、鋭く睨みつけた。


 だが、シンヤが首を横に振ると、舌打ちして顔を背ける。


 ふたりを見比べる。シンヤは昨日も見たので驚かないが、まさか隣の粗暴な青年が<聖騎士>――テッペイ・アリタスだとは。


 騎士とは、ほど遠い振る舞いと言動。念のため確認する。


「俺はベアモンド学園の一年、ソウガです。確認なんですが、その隣の方がテッペイ・アリタスさんでいいんですか? あの<聖騎士>で有名な――」


 その言葉にシンヤは吹き出し、テッペイは眉を上げて睨む。


「おい、てめえ、どういう意味だ。俺が<聖騎士>なのが、そんなに信じられないのか!?」


 激高するテッペイを、シンヤが穏やかに宥める。これ以上いれば、本当に喧嘩になってしまう。


 彼も同じことを思ったのだろう。こちらに微笑みかける。


「本当はゆっくり話したかったが、また今度だ。テッペイも手を出したが、君にも失礼な言動があった。お互い、それでチャラだ。いいね?」


 いまだに睨みつけるテッペイを落ち着かせながら告げると、ふたりはその場を去った。


 呆然とする俺に、アリーナの生徒たちの恐怖に満ちた視線が刺さる。


「おい、見たか。<聖騎士>のテッペイに喧嘩を売っていたぞ。命知らずにもほどがあるな」

「本当ね。それにテッペイを片手で押さえつけるなんて、やっぱり、あいつは魔王よ!」


 恐れおののく学生たちの声。


 ――総体二日目。


 ここでも、ボッチ確定。青春路線は大きく後退……。





 選手控え室で待っていると肩を落とし、力なくソウガが入ってきた。一目で落ち込んでいると分かった。


「おはよう、ソウガ。どうしたんだ、試合前に。体調でも悪いのか」


 心配そうに尋ねると、ソウガは顔を上げ、無理に笑顔を作って答えた。


「おはようございます、リュウゾウ先生。体調は万全です。ちょっと、試合前に他の生徒たちと話そうと思ってアリーナに行ったんですが、そこで悲しい噂を耳にしただけです」


 どうやら朝早くアリーナに行ったらしい。他校と交流しようとしたのはいいことだ。だが、試合前で皆が緊張しているときは避けるべきだった。


「……全然、大丈夫じゃないな。まあ、昨日の試合を見れば、どんな噂だったか想像はつく。気にするな、人の噂も七十五日だ」

「……そうですか。二か月とちょっと、ですね。そのころには夏休みも終わっていますね」


 ソウガは遠くを見つめながら呟く。今は六月末。たしかに噂が収まるころは九月中旬ぐらいか。


 ――そのころは体育祭の準備期間。きっとまた何か問題を起こすだろう。


 ソウガを不憫に思いながら、少しでも慰めようと朗報を伝える。


「各校には俺からあらぬ誤解を広めないよう通達を出しておく。お前は、噂に耐えるのも精神修行と思って頑張れ。ところで、五琳書(ごりんのしょ)の<五大>機能の一つ『火』が解読できたぞ」


 その言葉にソウガは目を見開き、すぐに口角を上げた。その様子にこちらも笑みを浮かべて続ける。


「……これで武蔵零式の機能を一部だが解放できる。ただし、詳細な性能は分かっていない。今日は段階解放だ。出力は最小限に設定する」


 真剣な表情を戻し、多少浮かれているソウガを窘め、機人を呼び出すよう促した。


 次の瞬間、空間が裂かれ、漆黒の機体がそっと降り立つ。興奮を抑え込み、武蔵零式の前に立った。


 眼前の武蔵零式――装甲の隙間を淡い光の筋が走る。それは次なる力を渇望する、静かな笑みにも見えた。


 瞬時に興奮は緊張へ反転し、かすかな駆動音、冷たい金属と油の匂いが部屋中に満ちた。

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