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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


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006 マイナスから出発

「おい、あいつが受験の試合で、生身のまま魔導機人を破壊したヤツだ。噂によると、あいつ自身が機人らしいぞ。どこかで改造を受けたらしい」

「たしかにな……あの感情の読めない顔は、人間というより機械のようだ」


 入学式を終えた俺は、学園の広い廊下を歩いていた。通り過ぎる生徒たちから好奇と恐怖の視線に晒される。


 中には俺の顔を見た瞬間、血の気が引いて真っ青になり、慌てて逃げ出す者までいた。


 ……あの試合で少しやり過ぎた。そう思う。だが、初めて戦う魔導機人を相手に手加減などできるわけがなかった。


 ――いや、嘘です。最初の魔法で圧勝できると確信しました。


 それでも、本当に合格してもらえるか不安はあった。


 だが、結果的に俺はベアモンド高等学園に入学を果たした。ひとえに、あの日会場にいたオッサン――特級教師のリュウゾウ先生のおかげだ。


 試合のあと、先生に「問題なし」と告げられ、最後の筆記試験へと向かった。問題用紙を見た瞬間、思った。大学生の頭脳を持つ俺には簡単過ぎる。


 もちろん、転移者がつまずきやすい異世界特有の歴史も、小さいころから本を読み漁っていたおかげで難なく答えられた。


 合格発表の日、正門近くの掲示板に貼り出された結果を見て、思わず息を止めた。筆記は満点の百点、魔法は加点込みで百二十点。


 そして――機人適性は、マイナス五十点。


 一緒に見に来ていた両親も、目を丸くしていた。零点は覚悟していたが、まさかマイナスとは――。


 毎年、合格ラインは五十点前後で、まさにギリギリ。加えて、クラスは成績順で分けられ、当然一番下のEクラスに振り分けられた。


 とはいえ、合格は合格だ。念願の名門ベアモンド学園に足を踏み入れられたのだ。努力次第で、上位クラスに上がれるかもしれない。


 そう自分に言い聞かせ、希望を胸に教室に入ると教壇にはリュウゾウ先生が立っていた。


 まだ朝のホームルームには早いはず。まさか、特級教師であるリュウゾウ先生がEクラスの担任ということか。


 首を傾げながら席へ進む。数名の生徒がちらりと俺を見たが、すぐに視線を逸らし、何事もなかったかのように会話を再開した。


 ――まあ、あの試合を見れば、誰も声をかけようと思わないだろう。


 余裕ぶって肩をすくめ、一番後ろの窓際の席に腰を下ろす。だが心の中では転げ回って泣き叫んでいた。まだ初日だというのに、ぼっち確定である。


 教室に満ちるざわめきの中で、誰とも言葉を交わせないまま待っていると、リュウゾウ先生が声をかけてきた。


「おい、久しぶりだな。入試の時以来だから、一ヶ月ぶりぐらいか。なんとか合格できてよかったな。俺も心配してたんだ。セイジのヤツが、適性試験の点数をマイナス百にすると言い出したときはな」


 思わず目を見開く。掲示板にはマイナス五十点とあったはずだ。俺の顔色を見て、先生は苦笑しつつ続けた。


「あまりにも一方的だったから反対したんだが、俺の力じゃ半分にするのが精一杯だった。本当にすまん」


 深々と頭を下げるリュウゾウ先生。その背中を見て、胸の奥が熱くなる。


 あの短い時間しか関わっていないのに、ここまで俺のために動いてくれた――その事実に、目頭がじんわり熱くなった。


 ついでに先生が口にした「セイジ」という名の顔を思い出す。たしか、あの試合で俺に不合格を突きつけてきた試験官だ。


 リュウゾウ先生が俺の試合を許可したにもかかわらず、責任問題がどうとかと言って、最後まで反対していた。


 あの神経質そうな顔と黒ぶち眼鏡は、忘れようがない。


 どうやら先生は、俺に試験を受けさせた責任をとって、本来担任するはずだったAクラスを辞退したらしい。


 加えて、セイジのやつが主張したマイナス百点についても、一考してもらえるよう掛け合ってくれたと告げた。


 ――おそらく、どちらか一方だけなら、Eクラスの担任になることはなかったはずだ。


 再び目頭が熱くなるのを感じ、思わず唇を噛んだ。俺の様子を見た先生は、肩をすくめてから軽く肩を叩いた。そのとき、授業の開始を告げる鐘が鳴り響いた。



――――――――――――



 チャイムを聞いた生徒たちが席に着くと、リュウゾウ先生が教室を見渡し、全員揃っていることを確認して大きく頷いた。


 その鋭い視線に、生徒たちの間に一瞬緊張が走る。だがすぐに穏やかな表情を浮かべ、生徒名簿に視線を落とすと、点呼を取り始めた。


 名前を呼ばれるたびに、生徒たちは元気よく返事をし、立ち上がって簡単な自己紹介をする。


 最低のEクラスとはいえ、この学園に入学できた彼らは優秀だった。全員が明確な夢や目標を持ち、それを実現するためのイメージもはっきりしていた。


 次々と自己紹介をしては拍手を受ける生徒たちを眺めていると、俺の番が回ってきた。リュウゾウ先生が俺の名を呼ぶ。


「はい! ソウガ・アイオスです。キクーチェ領出身です。父は騎士爵でシースイ町を治めています。そして、僕の夢は、『()(こう)七翼(ななよく)』の一翼に選ばれることです!」


 一瞬にして教室は静寂に包まれた。誰もが目を見開き、呆然としている。思わずリュウゾウ先生に視線を送ると、先生も固まったまま動かない。


 そんな大それたことを言うつもりはなかった。たしかに最強の武人に与えられる称号だ。一代限りとはいえ、公爵にも匹敵する権力も持つ。


 だけど、機人と戦える力を持つ俺なら夢ではないはずだ。それに上位種のワイバーンを一撃で仕留めた実績もある。


 少なくとも今の段階で不可能と断ずるには、時期尚早だ。そんなことが分からない彼らではない。


 訳が分からず俺自身も、皆と同じように目を丸くして言葉を失う。そのとき、窓から春風が吹き抜け、髪をなびかせた。


 直後、クラス中の生徒が一斉に笑い出した。中には指をさして腹を抱える者までいる。


 一体何がおかしいのか分からず周囲を見渡すと、リュウゾウ先生が名簿を机に叩きつけた。


 一瞬で全員が口を閉じ、俯いた。先生は沈黙する生徒たちを見据え、静かに口を開く。


「お前ら、人の夢を笑うんじゃない。それが不可能に近いものであってもだ。

 ……ソウガ、お前は知らなかったから仕方ないが、今は武光七翼は女性にしかなれない。これは現王が決めたことだ」


 その瞬間、俺の夢は終わった。

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