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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


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058 聖騎士

ちと長いです<(_ _)>

 <聖騎士>という言葉に目を輝かせるソウガ。その横顔を見つめる。もし私が<聖女>だと知れば、同じように憧憬の眼差しを向けてくれるのだろうか。


 思わず、<聖女>であることを告げそうになって口をつむぐ。――きっと私がどのような存在だろうと、彼は動じない。


 伝説の原初の機人を発見したときでさえ大して驚かず、面倒に巻き込まれると分かった途端、あっさり手放そうとする人だ。


 この世界とは違う価値観で生きているように思える。きっと私が誰であれ、きちんと向き合ってくれる。


 なぜか、そう確信してしまう。ソウガには不思議な安心感がある。


 じっと見つめていると、彼の向こう隣に座るナツメさんが顔をのぞかせ、声をかけてきた。


「同じ聖導機人の適性を持つハンナさんは、テッペイさんがどうやって戦うのか、想像がつくかい?」


 ――もちろん、分からない。無言で首を横に振る。


 同じ適性でも、私は聖火魔法を使う『魔導機人寄り』の戦い方に対し、テッペイさんは<聖騎士>。その名の通り『武導機人』に近いはずだ。


 ――テッペイ・アリタス。孤児院育ちで、<聖騎士>の才能が判明すると、すぐ工匠ギルドのアリタス家に養子として引き取られた。


 アリタス家は新たな機人の開発に熱心だ。まだ試験機は造れていないが、武器や補助パーツに関しては数多く開発している。


 機人のパーツ開発は非常に難しい。魔力で稼働するため、ただの鉄では増幅した魔力に耐えられず崩壊する。


 魔法防御や軽減の付与、それを維持するための小型魔法増幅装置の設置など――武器ひとつ取っても高度な知識と技術が要る。


 アリタス家の工房は、武器や補助パーツの開発実績があり、新たな機人を作る土台は整っている。それに貢献したのがテッペイさんだと聞く。


 王導機人ほどではないが、聖導も防御重視とはいえ万能型だ。多少の改良は必要だが、魔導砲を装備でき、武器の使用も可能だ。


 <聖騎士>である彼は、工房が造ったさまざまな武器やパーツの試験のため、幼少から機人に搭乗していたらしい。


 父上からの話を思い出しながら、アリーナを歩く純白の機人――蘆花三式を見る。


 重量軽減のためか、最小限のパーツしか付けておらず、細身だ。対峙する赤い機人――清正三式より一回り小さい。


 ただ、両腕には巨大で縦長の盾を装備し、異彩を放っていた。


 少しバランスが悪く見える機体だが、テッペイさんの操縦は安定している。歩みにぶれがない。


 二体の機人が対峙する――その瞬間、観客が咆哮する。やがて地鳴りとなり、アリーナを大きく揺らした。





 アリーナ中央に二体の機人が対峙すると、観客から耳を劈く声援が上がった。それをかき消すかのようにアナウンスが流れる。


<それでは、これよりバックアタック・マッチ一回戦第二試合を始めます。魔法は両者禁止。使用した時点で失格となります。それでは、始め!>


 宣言と同時に、九修(きゅうしゅう)高等学校――九学の機人が大きく後ろへ跳び、槍を構えた。


 その動きだけで、九学の搭乗者の技術の高さが分かる。腰を落とし、跳ぶまで一切の無駄がない。


 ギアの入れ方がスムーズだ。大きな跳躍にもかかわらず、一拍の間もなく出力を上げ、膝を伸ばして着地を決めた。


 対するセイセイの機人は微動だにせず、じっと立っているだけだ。だが、あまりに静かな佇まいは不気味でもあった。


 九学の搭乗者もそれを感じたか、わずかに後ろへ下がる。間合いを取り、様子をうかがうが、セイセイの機人は動く気配を見せない。このまま膠着状態になる。


 やがて観客からブーイングが起こる。入場料を取っている以上、派手さを求めるのも分かる。だが、生徒たちは真剣に試合に臨んでいるのだ。


 ――少しは寛容になってほしい。余裕のない観客たちに肩をすくめると、ハンナの声が届く。


「ソウガ、この試合、どっちが有利だと思う? リーチの長い槍を持つ九学と、大きな盾を二つ持つセイセイ。普通なら九学だよね。

 『背面への一撃が勝利』って言っても、結局、戦闘不能にするか、強引にうつ伏せにするしかないんだから」


 彼女の言う通りだ。巨大な機人同士、どんなに速く動いても限界はある。敵の背後に回り込むなど不可能に近い。


 そんなことができるのは俺の機人だけだ。とはいえ、先ほどの試合は、俺もタックルを片脚に当て、強引に倒して勝利してしまった。


 ――いま思えば、背後に回って一撃を与えてもよかった。


 思考が脇道に逸れた。だけど、いくら考えても分からない。もう一度肩をすくめ、苦笑いを浮かべる。


「そうだな。どちらが有利かは分からんが、テッペイは<聖騎士>なんだ。簡単には負けないだろ。それにセイセイは第二シードだ。一回戦敗退はさすがにないんじゃないか」


 とりあえず知っていることを掻き集めて答えると、ナツメが口を挟む。


「ぷっ、何それ。答えになってないよ、ソウガ。まあ、学園に入って王都で暮らすようになった君たちじゃ、テッペイさんの試合を見たことないから仕方ないけどね」


 上から目線の物言いに思わず睨む。たしかに入試までは王都に来たことはなかった。


 だが、それはキクーチェ公爵領が豊かで、王都に行かずとも不自由なく生活できたからだ。あまり田舎者扱いはやめてほしい。


 一言文句を言おうとしたとき、歓声が上がった。


 慌ててアリーナへ視線を戻すと、赤い機人が猛然と突進する姿が飛び込んできた。


 一直線に槍を構えて進む機人に対し、純白の機人は動こうとしない。あと少しで槍の間合いに入る。


 刹那、赤い機人が刺突を放った。大気を裂いて迫る槍は、確実にセイセイの機人を捉えている。誰もが貫かれる姿を想像した。


 ――だが、純白の機人は瞬時に両腕の盾を前面に構え、大きく踏み込んだ。


 ガキンッ――金属同士が衝突する音がアリーナに響き渡る。赤い機人の槍は大きく跳ね上げられ、懐ががら空きになる。


 重量は相手が上。それでも槍を弾き、盾で挟んで持ち上げた。才能と努力、二つがあってこそ可能な技だ。


 今度はセイセイが突進する。二つの盾を前へ押し出して勢いよくぶつかると、九学の機人はもんどり打って倒れた。


 地面に伏す赤い機人。おそらく操縦士は意識を失っている。指一つ動かない。そんな機人に、純白の機人が静かに近づく。


 九学の機人の眼前に立つと、右手の盾を振り上げた。その先端から刃が伸び、淡く光り出す。まさしく聖なる光――に見えた。


 先ほどの歓声が嘘のように静まり返る。全員が固唾を飲んで見守る中、アリーナにアナウンスが流れた。


<試合終了です! 九修高等学校が棄権しました。この勝負は、済聖光学園――テッペイ・アリタス選手の勝利です!>


 ブザー音が響いた――その直後、再び歓声が轟き、アリーナが大きく揺れた。

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