表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/65

053 学園総体を前に(4)

 放課後、生徒会室で待っていると、ソウガ君たちがやって来た。学園総体まで残り二日。ようやく競技が決まったらしい。


 全員が席に着くと、ハンナさんが告げる。


「お待たせして申し訳ありません、チサトさん。ソウガにはバックアタック・マッチとオブスタクルレース、それにトライアド・サバイバルに出場してもらいます」


 その言葉に首を傾げる。一週間にわたって行われる総体には二十近い競技がある。その中でたった三つだけとは、少ないような気がする。


 私の表情を見て、ナツメさんが苦笑する。どうやら事情があるらしい。昨日、訓練場で行った試験稼働で問題が見つかったのだろう。


 風紀委員が人払いをして、中には入れなかったが、どうせ明後日には実際に動く姿を見られると思い、ケンゴ君に一任した。


 最近、委員長の彼に警戒されている。無駄に刺激して、これ以上嫌われたら、いざというときに情報を提供してもらえない。


 ――それに例の黒い<回覧板>に載るのだけは勘弁したい。


 正直、嫌われても構わないが、情報源が減るのは困る。互いに利用し合っている間柄だが、能力は認め合っている。


 ――学園のためなら協力できる。今の関係がベストだ。


 つい思考が逸れてしまい、苦笑いを浮かべると、マサヒコ君がソウガ君に尋ねる。


「どうして、その三つなんだ。お前は規格外の魔法が使えるだろう。まあ、格闘技術も高いのは知っているが、せっかく魔法が得意なんだ、もう一つぐらい出場すればいいと思うんだが」


 目を丸くする。まさか彼がソウガ君にそんな言葉をかけるとは思わなかった。しかし、武人として教育を受けてきた彼なら、試合の禍根を残すことはない。


 彼もソウガ君の実力を認めているのだろう。だからこその忠告だと思った。ソウガ君も同じことを察したのか、肩をすくめ、彼に笑みを浮かべる。


「実は、俺の機人には魔法増幅装置がないらしく、しかも魔力消費も通常より多くて、一度の発動で半分近く消費するんです。あと、稼働中も絶えず魔力を提供しないといけなくて。――無駄遣いできないんですよ」


 マサヒコ君は眉を上げるが、すぐ頷く。それなら二つの競技に関しては納得できると私も頷く。だが、トライアド・サバイバルには疑問が残る。


 ほぼ魔法が使えない彼には不利な競技だ。そんなことが分からない彼女たちではない。何か考えがあるのだろうが、深くは追及しない。


 ――こちらの二人も、敵には回したくない。それに総体で学園の存在感を示せれば、それでよい。できれば、あの学園には負けたくないが。


 口を閉ざした私を見て、ナツメさんとハンナさんが小さく頭を下げた。追及しないことへの礼だと悟る。


 自然と口元がほころび、マサヒコ君とソウガ君の会話に耳を傾ける。


「なるほどな、せっかく機人に乗れるようになったのに、残念だったな。だが、武術の腕はあるんだ。他の競技で成果を上げてくれ。

 ――それと、少し気になったんだが、ひとつ聞いてもいいか?」


 空気が少し柔らかくなる。顎に手を当て、思慮深げな表情を浮かべるマサヒコ君。ソウガ君は黙って頷き、先を促す。


「ありがとう。たしかお前の父親は、ソロでA級冒険者になったライガさんだろう。あの人は我流だが卓越した双剣の使い手で、王都でも有名だった。

 お前も手ほどきを受けたはずだ。だが、体術においては無名だったはず――あの体術は誰から学んだんだ?」


 たしかに柔術の名門――王道館の後継者の一人と言われるマサヒコ君に勝ち、腕を一本折っている。今思えば、こちらも見過ごせない。


 規格外の魔法に卓越した武術。こんな人間が今まで何一つ噂にならなかったことが不思議だ。


 おそらく、キクーチェ公爵のタケミツ様が情報操作していたのだろう。


 ちらりとハンナさんに視線を向けるが、笑顔を返されるだけで、何も言うつもりはないらしい。


 私たちが無言のやりとりをしていると、ソウガ君が頭を掻きながら答えた。


「実は俺には双剣の才能がなくて、扱えるのはせいぜい、短刀ぐらいの長さまでなんです。それで親父と相談し、扱う剣を長くするのではなく、短くしていったんです」


 そこで言葉を止め、自らの両手に視線を落とす。よく見ると手には多くの傷跡があった。たゆまぬ努力を続けてきたことを悟る。沈黙が落ちる中、彼は続けた。


「――結果、無手による手刀に辿り着きました。あっ、あまり重くない細剣なら、双剣でも扱えますよ。けど、普段は短刀を使っています。もしくは無手ですね」


 どこか申し訳なさそうに話すソウガ君を見て、全員が口を閉ざした。尊敬する父親と同じ双剣の使い手になりたかったはずだ。


 武光七翼に機人、そして双剣。ことごとく壁に阻まれ続ける彼。誰も何も言えなかった。


 突如、雨が窓を打ち付け始めた。雨音が沈黙を引き受け、絶え間なく静かに時を語り続けた。

ブクマで応援を('◇')ゞ

よければ、★の評価も<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ