052 学園総体を前に(3)
昼休みを終え、授業を受けている。目の前に座るソウガの背を見つめる。やはり落ち込んでいるようだ。わずかに肩が落ちている。
本当なら、もっと多くの競技に出場させたかった。だが、魔法が使えない以上、それは無理だ。ナツメさんと選んだ競技は三つ。
――まず決まったのは、操縦と格闘の二つの技術を競う個人戦、バックアタック・マッチ。魔法禁止の闘技場で機人同士が戦い、先に背面へ一撃を与えた方の勝ち。
次にオブスタクルレース。障害物を回避しながらゴールを目指す。参加者は魔法攻撃も許されているが、回避に徹すれば問題ない。
最後はトライアド・サバイバル。三体の機人でチームを組み、広大なフィールドで他校と戦い、最後の一校になるまで続くサバイバル戦。総体の花形だ。
バックアタック・マッチとオブスタクルレースは十分に勝機がある。ただ、トライアド・サバイバルは一勝も難しいだろう。
この競技は、圧倒的に魔法が得意な者に有利。ジャングルと遺跡を組み合わせた特設フィールドを駆け、遠距離から魔導砲で撃つ――それがセオリーであり必勝法。
一度の魔法で稼働停止する武蔵零式には不利だ。なのに、なぜ選んだのか。勝ち過ぎないためだ。
ただでさえ、小型の試験機で、リュウゾウ先生が開発した機体というだけで目立つ。
そのうえ、搭乗者は破竹の勢いでA級冒険者まで登り、生身で機人を破壊する魔法を持つ――そんな噂をまとったソウガだ。
先の二競技で上位、あるいは優勝しても、トライアド・サバイバルで惨敗すれば、『未完成で欠陥のある機人』という噂を流せる。
ナツメさんに、ピクセル家と強い結びつきのある情報機関やマスメディアへの手配を頼んでいる。
噂はすぐに広まり、ソウガへの評価は二分される。それに、競技中の安全は、私とナツメさんが同じチームに入ることで守る。
状況次第では棄権申請も可能。私の聖導機人は防御特化の改造機だ。最悪の事態にはならないし、させない。
同じチームなら、近距離で武蔵零式の実戦挙動も観察できる。複数の要件が噛み合い、最終的にこの三競技に決めた。
――ナツメさんの言葉が脳裏をよぎる。
『ハンナも私に負けず劣らずの策略家だね。正直、頼もしいよ』
ソウガの背を見つめながら、彼女と競技を詰めた時間を思い出す。やがて授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
大勢の生徒が総体に向けた最後の調整のため、部活動へと教室を後にする。彼らを見送り、視界の端にペンを置くと、校庭を見やるソウガの姿が映った。
私も自然と窓の外へ視線を向ける。朝の晴天が嘘のように重い雲が広がり、校庭で汗を流す生徒たちの表情に、不安の影が落ちる。
ソウガも空を見て、眉を下げた。その横顔を見て、私は思う。
――勝たせたい。けれど、目立たせることだけは、絶対に避けたい。
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