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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


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005 「不合格」

 操縦席を降りる俺の足取りは重かった。周囲をゆっくりと見渡せば、突き刺さるのは冷ややかな視線ばかり。


 思わず足を滑らせ、倒れそうになった瞬間、オッサンが素早く手を回して支えてくれた。


 ――その刹那、誰かが吹き出すように笑った。


 笑いは一人から二人へ、そして次第に広がり、やがて会場全体を満たしていく。顔を上げると、オッサンだけは笑わず、周囲の受験生たちを睨みつけていた。


 その視線に少しだけ救われ、俺は気持ちを持ち直す。静かに機人を降り立つと、試験官が近づき、冷たく告げた。


「ソウガ君だったね。悪いが、機人に乗れなければ試験は受けられない。いくら魔法の素養が高くとも関係ない。受験資格なしとみなし、不合格だ」


 言葉の刃に血の気が引いていく。反対する両親を説き伏せ、ようやく挑んだ王都の名門――ベアモンド学園。


 だが、試験すら受けることなく不合格を言い渡された。全力で挑んで散るならまだ納得できる。だが、挑むことすら許されないなんて――。


 思わず涙がにじむ。必死に頭を回転させ、考える。どうすれば試験を受けられる? なぜ、機人が必要なのか。


 ――それは、戦争や大型の魔物の討伐に不可欠だからだ。


 とくに上位種の魔物は、生身の人間では太刀打ちできない。冒険者ですら、機人を用いて戦うのが常識だ。


 ――そうだ、上位種の魔物!


 俺は六歳のころ、上位種ワイバーンを仕留めている。ならば、生身でも戦えると証明できれば、この学園に入れるかもしれない。


 覚悟を決め、試験官に深々と頭を下げた。


「お願いします! 僕にチャンスをください。もし機人相手に戦って勝てたなら……この試験を合格にしてもらえませんか!」


 その言葉に会場中がざわめく。生身で機人に勝てるはずがない。その戦闘力の差は歴然だ。


 だが、俺には規格外の魔法がある。ワイバーンを一撃で葬った力がある。しかも、相手は受験生――素人同然だ。勝機はある。


 必死に頭を下げ続ける俺に、隣のオッサンが口を開いた。


「まあ、いいんじゃないか。この小僧も、せっかく受験を受けに来たんだ。何もさせずに帰らせたら納得しないだろう。ただし、少しでも危険だと判断したら、即中止だ。その時点で不合格。……それでどうだ?」


  俺は顔を上げ、目を見開き、大きく頷いた。だが試験官は首を振る。


「もしものことがあったら誰が責任をとるのですか?」


 その通りだ。俺は無茶を言っていたのだと悟り、言葉を飲み込もうとしたそのとき――オッサンが肩に手を置き、力強く言った。


「心配するな。俺が責任をとる。一応これでも、特級教師で一年の主任だ。それなりに地位も権限もある」


 耳を疑った。特級教師――この国にわずかしか存在しない上級職。その肩書を持つ者は、この名門ベアモンド学園でも三人しかいないはずだ。


 俺が呆然としていると、オッサンが声を張り上げた。


「おい、誰か! こいつと対戦するヤツはいないか? いないなら、こちらで選ばせてもらうぞ!」


 その声に一人の受験生が反応した。たしか魔法試験で隣にいた少年。そして、さっき最初に笑い出したヤツだ。


 思わず鋭い視線を向けると、向こうも気づいたのか睨み返してくる。その間にオッサンが割って入り、戦いの準備をするよう促した。


 少年はなおも俺を睨みつけていたが、やがて踵を返し、魔導機人のもとへと歩いていった。


 あいつが俺の憧れの魔導機人に乗り込む姿を見た瞬間、胸の奥がざわついた。――俺は一生、機人には乗れない。その事実がずしりと心にのしかかる。


 思わず俯いたが、すぐに顔を上げる。俺には魔法がある。夢だってある。機人がなくても、それを実現できるかもしれない。


 その事実を確かめるために――俺は目の前の魔導機人と戦わなければならない。


 覚悟を決めた俺の表情を見て、オッサンは力強く頷く。そして試合開始を宣言した。


 目の前に立つ魔導機人は、紺碧の巨躯に肩から二門の砲身を突き出している。そこから操縦者が発動する魔法を、何十倍にも増幅して放つのだ。


 ただし遠距離攻撃に特化しているぶん、その動きは鈍い。俺でもなんとか付いていけるだろう。


 一番の問題は装甲の厚さ。中途半端な魔法では傷一つ付けられない。


 そのことを理解しているのか、相手は余裕を見せて攻撃してこない。会場の受験生や兵士たちも、ニヤニヤと笑って見ている。


 名門学園を受ける者の態度とは思えず、俺はため息をついた。そして掌に魔力を込め、魔導機人へと掲げる。


「さむか!」


 次の瞬間、巨大な氷の竜が現れ、魔導機人へ襲いかかった。鋭い牙が鋼鉄の鎧を噛み砕く。このままでは勝負がついてしまう。


 慌てて魔法を解除する。


 言葉を失った会場は、冷え切った空気と静寂に支配されていた。やがて、二つの大穴を開けられた魔導機人が軋みながら立ち上がる。


 まだ動けるようだ――その姿に俺は薄く笑みを浮かべた。


 さっきの魔法で確信した。俺なら機人相手でも戦える。あとはどこまでやれるかを試すだけだ。


 そのためにも、目の前の魔導機人には持ちこたえてもらう必要がある。


 そう思い、わざと距離を大きく空ける。挑発に乗った相手は、すぐに魔法を発動し始めた。


 肩から伸びた砲身が赤く輝き、火魔法の兆しを示す。オッサンが慌てて止めようとしたが、それよりも早く火球が撃ち放たれた。


 巨大な火球が凄まじい速さで迫ってくる。直撃すれば骨すら残らない。受験生たちの悲鳴が響き、卒倒する者まで現れた。


 ちらりとその様子を確認すると、俺は即座に魔法を展開する。


「ばってんが!」


 直撃寸前、火球は軌道を変え、魔導機人へと戻っていく。


 会場中の全員が目を見開いた。何が起きたのか理解できず、ただ炎の弾が戻っていくのを凝視している。


 そして――火球は魔導機人に命中し、巨大な火柱が立ち上った。灼熱の奔流が会場を揺らし、室内の温度は一気に跳ね上がる。


 汗ばむほどの熱気に、俺は炎に包まれる魔導機人を見据えて呟いた。


「すーすーっす」


 瞬間、極寒の竜巻が巻き起こる。炎は一瞬でかき消え、熱気も一気に凍り付いた。


 白い霜が広がる中、凍てつく魔導機人を見つめ、俺は満足げに息を吐く。その吐息は白く、きらめいていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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明日(木)19:30ごろ、#6–#7 公開。

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