048 原初の機人の性能(2)
ソウガ君が乗り込むと、展開されていたすべての外殻が瞬時に閉じた。背中のユニットから熱風が漏れ、関節部では歯車の軋む音がした。
その姿は無骨な機人よりも細く繊細だが、反面、存在感は圧倒的だった。何倍も巨大な機人さえ凌いでいる。
元A級冒険者として様々な機人に乗り見てきた私でも、これほどの圧を感じる機体は見たことがなかった。
漆黒の小型機人――武蔵零式がゆっくりこちらを向き、私は背中に冷たい汗が細く伝うのを感じた。青い眼光に射抜かれ、息を呑む。
何か言わなければと、口を開きかけたとき、隣に立っていたリュウゾウ先生が、訓練場の端にある標的を指さした。
「おい、ソウガ。見せるのは歩行。魔法は一射、威力は最小限。非常停止は右拳合図。もし危険を感じたら、すぐに脱出しろ。壊れても直してやる。
……まずは、あそこまで移動してみろ。飛ぶのは厳禁。走るのは許してやる」
彼は親指を立て了承の意を示すと、腰を落として右足を後ろに引いた。
どうやら走って移動するらしい。この場の全員が凝視する中、さらに腰を落とした彼は――
一瞬で消えた。
ドンッ――と音が響き、きゅっと耳が詰まる。直後、背後から強く押され、よろめく。
次の瞬間、ザザーッと遠くから地面が擦れる音がして、顔を向けると、土を巻き上げながら停止し、標的の隣に立つソウガ君の姿があった。
距離にして優に百メートルはある。それをたった一秒程度で移動した。尋常ではない機動力。
それは最高の武導機人――清正一式を上回り、武光七翼の特別機と肩を並べる。
――たったひとつの移動で、そう確信した。
全員が呆然とする中、ただひとり冷静だったリュウゾウ先生が叫んだ。
「おーい、ソウガ。魔法を発動してみろ。ただし、どうなるか分からんから、威力は最小限にしろ! 絶対に人には向けるな」
ソウガ君は手を大きく振って応え、腰を落とすと再び消えた。突如、ゴオッと突風が吹きつけると、地面を蹴る足音が通り過ぎた。
髪を押さえながら振り返ると、彼が軽やかにステップを踏み、速度を落としつつ戻ってきた。どうやらまだ調整が難しく、通り過ぎたらしい。
頭を掻き、歩いてくる彼を見つめ、漆黒の外骨格に覆われているが、苦笑して恥ずかしがっているように思えた。
想像を絶する性能を持つ機人を装着していようが、中身はまだ十六歳だと分かって安堵する。彼は私たちのもとまで来ると、顎の付け根のスイッチを押した。
『すみません、驚かせたみたいで。なかなか制御が難しくて。それでは、あの標的に魔法を放つので、皆さんは下がってください』
わずかなノイズが混じった機械音が訓練場に響き渡る。全員が足早に彼から離れる。もちろん彼の強大な魔法を知っているからだ。
いくら威力を落としたとはいえ、通常の機人でも、その威力は十倍に跳ね上がる。彼の魔法が十倍になったら、小さな町なら消し飛びかねない。
全員が見守る中、彼は標的に向かって手を掲げた。
『ちと、あつか』
その瞬間、目の前の光景に言葉を失った。空気は揺れず、静けさだけが残った。
――そして、塵一つ舞わなかった。
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