047 原初の機人の性能(1)
キヨコさんから上級の魔石をもらう約束を交わすと、すぐに俺たちは特別訓練場に向かった。
そこには、すでにケンゴ先輩を含めた大勢の風紀委員が人払いをしていた。おかげで中は誰もおらず、広々としている。
三日後の総体でお披露目するのに、そんなに隠す必要があるのか疑問に思うが、わざわざ目立つ必要もないので口を閉じる。
さっそく武蔵零式を呼び出そうとしたとき、背後からケンゴ先輩の鋭い声が届く。
「おい、ナツメ! 一昨日、決闘の立会人を頼んでおいて、今日も急に人払いさせるとは、どういうことだ!」
振り向くと、すごい剣幕のケンゴ先輩がいた。少し神経質に見える吊り目をさらに上げ、ナツメを睨んでいる。
「ごめん、ごめん。けどさ、私のせいじゃないよ。こっちのキヨコさんが急に学校へ来て、ソウガの機人の性能を知りたいって言うんだもん。例の回覧板にも書いてあったけど、今はまだ、あまり見せるわけにはいかないんだよ」
途端、先輩は口を閉じる。さっき<回覧板>って言っていたが、隣近所に回すものではないのだろう。二人の雰囲気からして、そんなものではない。
実際にケンゴ先輩が持っていたものは薄い小さな黒いパネルで、右下に紋章が刻まれ、薄い緑光を放っていた。
――たしかギルドのカナさんも同じようなパネルを持っていた。
興味はあるが、あまり深入りしても怖い。このことには触れず、喧嘩が始まる前に仲裁に入った。
「すみません、ケンゴ先輩。俺のせいで風紀委員のみなさんの仕事を増やしてしまって。すぐに終わらせますので、もう少しだけ我慢してください。あと、彼女には目上への口の利き方も注意しておきます」
ナツメの頭を押さえて二人で頭を下げると、先輩はふんと鼻を鳴らし、風紀委員たちのもとへ去っていった。
顔を上げてナツメを半目で睨む。そこへリュウゾウ先生から機人を出すよう促され、外を見る。日は傾き、曇り空と重なり暗くなっていた。
すぐに機人を呼び寄せる。
「きなっせ」
空間がめくれ、漆黒の武蔵零式が現れる。かすかにオイルの匂いを漂わせ、静かに降り立った。
魔石はセットされたまま。機体と関節の隙間から淡い光が漏れている。ゆっくり近づき、胸に手をかざすと外殻が割れて開いた。
乗り込もうとすると、突然、キヨコさんに止められる。
「ちょっと待って! もしよかったら、乗せてほしいの。いいかしら?」
リュウゾウ先生に視線を向け、安全を確認すると頷かれる。魔石が備え付けられ、魔力枯渇の心配もないとのことだ。
さらに、<原初の機人>と呼ばれているが、金属でできた漆黒の外骨格――パワードスーツだ。操作といっても体を動かすだけ。
キヨコさんが乗っても問題ない。なら俺も武蔵零式の動く姿を見てみたい。そう思って頷き、機人の前から離れる。
彼女は礼を述べて機人の前に立つと、少し顔をこわばらせつつも、開口部に背を向けて乗り込む。
――が、機体は閉じることなく、開いたまま動く気配はない。じっと見つめていると、キヨコさんが首を振って降りてきた。
「ダメみたい。何をどうすればいいのか分からないわ。……属性の問題かしら。私は武導だけど、ナツメさんは魔導よね。乗ってみてくれない?」
キヨコさんの言葉に、ナツメは目を見開き、笑みをこぼす。ちらりとこちらを見るので、肩をすくめてうなずく。
ナツメは足早に機人へ近づき、乗り込む。――やはり動かない。自然とハンナに視線が集まると、リュウゾウ先生が声をかける。
「たしかハンナは聖導だったな。悪いが試してくれないか?」
その言葉に彼女は緊張したのか、肩を揺らす。やがて小さく頷き、機人の前に立ち、背を預けて倒れ込むと、すっぽりと収まった。
――やはり、動く気配はない。残るのは王導適性だけだ。だが、この場にいる全員が、それでも動くことはないと察する。
半ば当然のように視線は俺に集まる。眉を下げ、肩をすくめる。静かに武蔵零式の前に立ち、ハンナに手を差し伸べて立たせた。
様々な計器が光を放つ機人に目を落とす。一度起動した経験が自信へと繋がる。リュウゾウ先生を見て頷くと、そっと背中から開口部に倒れ込んだ。
――直後、背中に機械の鼓動が触れ、音声が直接響いた。
『零式、起動』
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