040 総体の招待
生徒会のテラス席は、雨脚が強く、今日は使えない。食堂のざわめきに、温かなスープの匂いがときどき混じる。
奥の席を確保して、二人を待った。
マサヒコ君とエイダと食事を始めていると、ハンナさんがソウガ君を連れてきた。仲良く指を絡める姿に、自然と口元が綻ぶ。
手を振って声をかけると、二人はそそくさと歩み寄ってきた。
「こんにちは、チサト先輩。お待たせしてすみません」
ハンナさんが、私たちを待たせたことを詫びる。だが、隣のソウガ君は軽く頭を下げただけだった。
形式より実利を取る性格か、あるいは余裕がないのか――判断は保留。こういう場では、過剰な丁寧さより、無頓着のほうが情報を零す。
その態度に会計のエイダが反応した。わずかに肩が揺れ、深い緑の髪の隙間から鋭い視線がのぞく。
思わず苦笑する。彼女もマサヒコ君も、どうも私への尊敬が強すぎる。嬉しい反面、少し面倒でもある。
――尊敬は組織を締めるが、判断を曇らせもする。
同じ領地の生まれで、ともに育ったエイダは非常に優秀だ。勉学も魔法も上位の成績で、平民ながらAクラス。少し寡黙すぎるのが玉に瑕だ。
ただ、その沈黙は同意に近い。彼女は反対なら沈黙では済ませない。だから、今は静観と見ていい。
そんな彼女の夢は、ディアモリー子爵家の当主になる私を支えること。せっかくの才を、地方の文官で終わらせたくはない。
何度も説得したが、意思は固い。無口で頑固な彼女が、いずれ気が変わることを祈りつつ、エイダに意識が向きすぎた自分に肩をすくめた。
弁当を広げるソウガ君を見る。王都有数の名家の令嬢であるナツメさんとの婚約には驚かされた。
加えて、キクーチェ公爵家のハンナさんとも婚約。王族でも簡単には触れられない二人を、彼は婚約者にした。
――おそらく、魔法以外にも恐るべき力を持っている。それを隠し守るための婚約。少なくともナツメさんはそうだ。
生徒会にいるうちに、いろいろと調べさせてもらう。
口元がほころびかけ、それをとっさに髪をかき上げて隠す。視線をずらし、ギプスを巻いたマサヒコ君をちらりと見る。
まずは彼の力を暴く。できればその人となりも――。そのための計画を実行すべく、笑顔で声をかけた。
「ねえ、ソウガ君、お願いがあるの。怪我をしたマサヒコ君の代わりに、王都学園総合運動大会――学園総体に出場してくれない?」
その瞬間、重く低い雷鳴が空を裂いた。地鳴りのような響きが食堂の喧騒を一気に吸い込み、彼のフォークからタコさんウインナーが滑り落ちる。
手の届かない床に落ちたそれを見つめたまま、彼は落胆の波に身を委ねるしかなかった。
その姿に、私はこらえきれず、ほくそ笑んでしまった。
学園総体の競技は機人を使うことが前提の競技ばかり。そのことを知るハンナさんの眉がわずかに上がる。
口を開きかけた彼女を視線だけで黙らせる。必要なら憎まれることも厭わない。ソウガ君の情報を手に入れることが、今は大事。
いまだにタコさんウインナーを見つめる彼。
――機人に乗れないソウガ君が、どう戦うのか、今から楽しみだ。
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