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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵


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039 新たなる試練

 大型連休は結局、原初の機人の調査に付き合わされ、何もできなかった。ただ、リュウゾウ先生から機人の専門的な知識を教えてもらい有意義ではあった。


 十日間あった連休もすぐに終わり、今は六月。梅雨に入った。窓を打つ雨粒を眺めながら思い返す。


 原初の機人――「武蔵(むさし)零式(ぜろしき)」を起動した直後、魔力枯渇で意識を失った。


 起動中、魔力を吸われ続けていたのに、興奮して無理をしたのがまずかった。目を覚ますと、リュウゾウ先生に酷く叱られた。


 丸一日、意識は戻らなかったらしい。怒られて当然だ。心配そうに見つめる先生に深々と頭を下げ、ただ謝った。


 ――あのとき、ナツメの言葉が止めとなって心が折れ、起動が止まった。あれがなければ、もう少し稼働していたはずだ。


 おかげで魔力はわずかに残り、重症化は免れ、翌日には意識を取り戻せた。感謝はしている。


 だが、そのころにはナツメの宣言どおり、俺と彼女の婚約が王都中に知れ渡っていた。結果、感謝は帳消しになり、ナツメの評価は変わっていない。


 ――気を許せない悪女。いつか手痛い目に遭いそうで怖い。


 婚約の噂を知ったのは、意識が戻った翌日――武蔵零式を起動した二日後だった。教室に入ると、大勢の生徒が好奇の視線を向けてきた。


 唖然とする俺に、ヤクモが気の毒そうに教えてくれた。ピクセル家は文豪の名家だが情報操作にも長け、各種メディアともつながっているらしい。


 その独自のネットワークで、一気に噂を広めたという。王家がピクセル家に頭が上がらない理由の一つだと、ため息まじりに言った。


 真剣に授業を受けるヤクモの背を見て、同情する。王家といえど絶対ではなく、絶妙な力関係で成り立っているのだ。


 これからは少し優しくしてやろう――そう決めたところで、背を叩かれた。


 振り返るとハンナ(・・・)が半目で睨んでいる。どうやら真面目に授業を受けていない俺にお冠のようだ。


 連休が明けたら、ハンナがEクラスに転属していた。ナツメとの婚約が決まり、キクーチェ家としても看過できなくなったのだろう。


 加えて、ハンナ自身にも変化があった。互いの敬称を外そうと彼女から提案された。意味は分からないが、本人の強い希望だ。渋々了承した。


 武蔵零式を起動した日から、まだ一カ月しか経っていない。急激な変化に、ため息が漏れる。


 ふと窓の外を見る。細い糸の雨は太い滝となり、世界の水と緑の境界が急速に曖昧になる。色彩は溶け、景色は濁流へと飲み込まれていく。


 教室の空気も一層重くなる。誰もが圧倒的な雨音の中、ただ過ぎ去る時間を待つように、窓の外を見つめていた。



――――――――――――



 午前の授業が終わり、食堂へ向かった。いつもなら教室で弁当だが、今日は生徒会長のチサトさんに呼び出されている。


 廊下を歩く途中、何人もの生徒が探るような眼差しを向けてくる。ナツメとの婚約を知っている連中だ。


 それだけならまだいい。なかには憎々しげに睨む男子もいた。理由は明白だ。隣を歩くハンナに視線を送り、嘆息をこらえたそのとき――


「おい、あいつが学園でも屈指の才媛、ナツメさんと婚約したソウガだ。機人も乗れない無能のくせに、どんな汚い手を使ったんだ」

「それに知ってるか、隣のハンナさんとも婚約してるらしいぞ。二年飛び級の麗質の才女が、なんで魔法の才能しかない田舎者と! ……きっと弱みを握られてるんだ」


 耳が痛い。ひとつも事実じゃないのに、胸を抉られる。恨めしげにこちらを見る連中へ、小声で言い放つ。


 ――変わってはいよ。


 しっかりイメージしたつもりだが、魔法は発動しない。方言魔法も万能じゃない。少し期待していただけに、肩が落ちる。


 首を傾げるハンナが目に入る。


 ささやいたつもりが、聞かれていたらしい。心配そうな視線。答えは見つからず、笑みでごまかした。


 俺の気持ちを察してか、彼女もふっと笑い返し、何も聞かなかった。言葉少なに歩き、やがて食堂に着く。


 生徒会専用のテラス席は、雨が吹き込んで使えない。


 周囲を見渡してチサトさんたちを探すと、ハンナが俺の手を取り、一番奥のテーブルへと導いた。


 食事を楽しむ生徒たちの間を抜けると、スープの香りが食欲をくすぐり、食器の触れ合う音とざわめきが耳に満ちる。


「こんにちは、ソウガ君、ハンナさん。こちらに座って」


 最初にナツメさんが気づき、手を振って招く。


 軽く頭を下げて向かうと、腕をギプスで固定した副会長のマサヒコさんと、緑髪をおさげに結んだ少女が座っていた。


 その少女はハンナより小柄で、前髪が目元にかかり、表情は読めなかった。

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