037 起動、そして……
リュウゾウ先生の説明を聞いた瞬間、転生のときに出会った神の言葉を思い出した。あまりに小さい声で告げられ、聞き取りづらかったが、覚えている。
『制限解除』――あのやる気がまったく感じられない神は、たしかにそう伝えた。
まさか、ここでチート能力に目覚めるとは思わなかった。ナツメやヤクモが何か言っていたが、起動するはずがなかった。
この世界とは別の世界――地球の神から言葉を授かったのは俺だ。
もうしばらく、ナツメたちが必死で起動しようとする様子を眺めていてもよかったが、あまりにも可哀想だ。
この原初の機人の真のマスターが誰か示すため、神の言葉を呟いた。
「制限解除」
その瞬間、風が舞い込み、湿った空気が頬をかすめた。目の前に佇む漆黒のパワードスーツを見やる。
目が輝き、起動音が響き渡る――ようなことはなく、音も立てず静かに立っているだけだった。
呆然と見つめる俺に、ナツメの声が届く。
「どうしたの、ソウガ。いきなり、雰囲気を出して、何か言ったみたいだけど。ぷっ、もしかして起動しようと思ったの?」
ナツメの容赦ない突っ込み。だが、何も言い返せない。たしかに少しだけ格好をつけようと思っていただけに。
耳まで熱くなり、思わずナツメから目を逸らす。一瞬、熱を帯びた眼差しがこちらに向いた気がした。……気のせいだろう。
そんな俺たちを見て、リュウゾウ先生がため息をつく。
「……ふぅ、まあ、気にするな。王家の血を持つヤクモでも無理だったんだ。機人の適性のないお前には難しいだろう。それに神の言葉には『保管場所』と『解放』が含まれているらしいからな」
先生に慰められた。ハナちゃんからも肩を叩かれる。すごく惨めな思いをしながら、先ほどの言葉を思い返す。
『保管場所』と『解放』と言っていた。そんな大事なことはまず最初に伝えてほしかった。だが、今はそれよりも大切なことがある。
十六年前のことで、記憶が曖昧になっていたのかもしれない。なにより、あの神の声はあまりにも小さ過ぎた。
『制限解除』という言葉は違っていた可能性が高い。おそらく保管場所とは零源祠のことだ。ならば『解放』とは?
五琳書を最初に読んだときのことを思い出す。ほとんど読めなかった文字の中で、『K e y』と『W o r d』のアルファベットを見つけた。
だからこそ、祠の中で思いつく限りの『キーワード』を口にした。だが、起動することはなかった。
今思うと二つの単語は少し離れていた。リュウゾウ先生の説明どおりなら、『W o r d』とは神の言葉のことなのだろう。
再び、神が授けた言葉を思い浮かべる。制限解除――「セイゲンカイジョ」に似た響きで、保管場所と解放を示す言葉。
まず、「制限」は「零源」で合致する。小さな声だった。「せい」か「れい」か、子音が揺れて聞こえたのも不思議ではない。
しかし「解放」はどうする。「解除」でも近いが、五琳書に綴られていた『Key』が気になった。
『Key』とは――鍵だ。
刹那、最後のピースがはまったかのように、一つの単語が浮かび上がった。
改めて俺は、原初の機人――漆黒のパワードスーツに近づき、触れる。手から金属の冷たさが伝わり、光沢を帯びた装甲がわずかに煌めいた。
深く息を吸い込み、目を閉じる。神経を集中させる俺に、誰も声をかけない。すっと瞳を開き、神の言葉を告げた。
「零源開錠」
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