033 昼休み、婚約騒動
憮然として授業を受けるソウガを見つめる。短く切った髪は寝癖が少し残っている。けれど、精悍な顔立ちに不思議と合っていた。
その横顔を見て、カナや仲のいい生徒たちに噂を流してもらったことに感謝した。あれがなければ、彼に言い寄ってくる女子生徒は間違いなくいた。
それほどまでに、髪を切ったソウガは魅力的だった。
いまも数人の女子がちらちらと彼を見ている。噂を聞いても諦めないとは……ため息をつく。だが、同時に安堵する。
やはりもう一つの手を打っておいて正解だった。昼休みになったときのソウガの顔を想像し、ほくそ笑んだ。
――――――――――――
午前の授業が終わり、昼休みになる。たいていの生徒が食堂に向かう中、いつも通り私はソウガの机に弁当を広げる。
もはや何も言うことなく、彼はちらりとこちらを見ただけで、自分の弁当を食べ始める。
今日は作る時間がなかったのか、タコさんウインナーもハート型の卵焼きも入っていなかった。
少し残念だけど仕方がない。普通のウインナーと卵焼きを一つずつもらうと、扉が勢いよく開いた。
予想通りの展開に笑みがこぼれそうになるが、ぐっと堪えて食事に集中するふりをする。突然、バンッと机を叩く音が室内に響き渡った。
顔を上げると、顔を真っ赤にしたハンナが睨んでいた。かすかに震える表情筋に耐え、私がわざと驚いた顔をすると、彼女は叫んだ。
「いったい、どういうつもりですか、ナツメさん。お兄ちゃんに婚約を申し込むなんて。しかも、王家に口添えまで――!」
その一喝に教室にいた生徒たちが一斉にこちらを見る。全員が目を見開く中、一番驚いていたのはソウガだった。
口に運びかけていたウインナーを、ぽろりと落とし、転がした。
今の彼には精悍さは微塵も感じられなかった。ただ口を開け、こちらを見ている。その表情にハンナも気づき、彼があずかり知らぬことだと察する。
「……お兄ちゃんも知らないんですね。何を考えているんですか、ナツメさん!」
鋭い視線が突き刺さる。さすが飛び級で学園に入学した天才――ハンナ・キクーチェ。年下だが、すごい圧を感じる。
とはいえ、私も初代当主――ソウセキ・ピクセル以来の傑物といわれている。気圧されるわけにはいかない。かすかな動揺を気取られぬよう笑みで隠す。
教室の雰囲気が最悪になる中、凛とした声が静寂を破った。
「二人とも、そこまでだ。俺が説明する」
生徒たちが視線を向ける。その先には白銀の髪をなびかせたヤクモ君が教室の入口に立っていた。表情は真剣そのものだった。
全員が彼の言葉を待つ中、ソウガが呟いた。
「……俺は、リュウゾウ先生にパワードスーツのことを聞きたいだけなんだが」
しかし、その嘆きは私にしか届かず、窓から忍び込んだ風にかき消された。
それは肌をわずかに湿らせ、これから始まる季節――梅雨の訪れを告げる合図のようだった。
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